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ネパールカレーやさんチャレンジ!


定期的にどうしても食べに行きたくなるお店がある。通勤途中の道沿いにある、ネパール人がやっているカレー屋さんのカレーだ。

お店の外観は普通の小さな食堂みたいで、暖簾をくぐってガラガラと引き戸を開けて、「よっ!やってる?」みたいにしておじさんが入っていくような雰囲気。きっと昔は本当に食堂だったんだろう。
その建物に後付けで、異国風の装飾がされていて、なんか、なんかすごい、独特、そう、独特な雰囲気を醸しているのだった。

カレー屋さんは入口に暖簾を付けずにいつもガラガラタイプの引き戸を全開にしてお客さんを待っている。行ったことがなくても外から分かる。
なぜなら店員さんが入口の真正面に仁王立ちで文字通り「待っている」からだ。待っているというか、もう待ち構えている。

そばを通ると、カレーの匂いがする。私は本場のカレーもナンも食べたことがない。食べてみたい。
超気になってはいたけれど初めてのお店というのは中々勇気がいるもので、気にしつつも2年くらい入ることができなかった。

一人行動は平気な方だと思う。一人で旅に出るし、映画も観るし、外食もする(というか私は誰かと行動する方が緊張するから、特に一緒にご飯を食べに行くとなると、食べた物の味が分からなくなってしまう)。
でも、行くのに躊躇するタイプの飲食店も存在する。人見知りならぬ、飲食店見知りだ。


私のおひとりさま飲食店見知り度合いについてはこちらの変な個性的な表を見ていただきたい。

黒板風だよ〜🧑‍🏫


もし私が男性だったら食堂とかラーメン屋さんはむしろ得意分野だったんだろうと思う。逆におしゃれカフェは一人じゃ行けないだろう。

さて、ネパールカレー屋さんは私の中で専門店に該当する。イタリアンレストラン、エスニック料理店とかのカテゴリだ。
レベルはC。そう、全く無理なミッションではないのだ。強い気持ちと勢いがあればいける。全ては俺のやる気とコンディション次第……。

ある日の休日、唐突に決意した。よし、今日食べに行こう。絶対行こう。思い立ったが吉日というやつだ。善は急げ、好機逸すべからず、que sera, sera ,never give up,Make hay while the sun shines‼︎




行ってみた!


こういうのは最初が肝心だ。戸惑いが生じないように、物理的に立ち止まってはいけないと勢いのままなめらかに入店。スパイスの香りと、お香みたいな独特の香りがする。一瞬で外国に来た感覚だ。

「イラッシャイマセ1名様デスカー?」


いつも店員さんが真正面で待っていることを忘れていたので、めちゃくちゃびっくりした。

「広い席イイヨ〜」

まだ時間帯が早く空いているからか、店員さんははにかんだ微笑みで4人掛けのテーブル席を指し示す。二言目にはもうタメ口になっているのはさすがだ。そのフレンドリーさにカルチャーショックを受ける。

「アッ、アリガトウ」

店員さんにつられて戸惑いながらも思わずタメ口になる私。でも、笑顔は多分引きつってしまった。要努力ポイントだ。
接客してくれたのはちょっと小柄で眉毛が濃く目が大きな、水色のシャツを着た若い男性。優しそうな感じの人だ。

入って真正面の一番奥にキッチンがあってよく見える。白い服を着たシェフが2人。カレーの担当とタンドリー&ナンの担当で分かれているらしい。
中央と右側のスペースはテーブル席になっていて、左側の仕切られたスペースにはお座敷席があった。壁にはネパールっぽい布が飾られていたり、ネパール人っぽい女の人の絵が飾ってあったり。お座敷席のテレビから突然ネパールの男女が踊るMVがランダムに流れたり。
中央の太い柱に時計がかかっていて、その下には小さいホワイトボード。日替わりメニューの内容が記されていた。

「本日のカレー」はいつ行ってもだいたいチキンとナス



慣れない雰囲気にいちいちおっかなびっくりしながら、荷物を置いてまずは左奥のトイレへ。
トイレのドアの前でまたびっくりした。 

えぇ〜っ?!普通に店員さんの私物が置いてあるのかい?! (心の声)

トイレそばの小さい棚の上にタバコやらバッグやらが無造作に置いてある。スマホの充電とかもしてる。異文化のおおらかさ、すごい。




注文してみた!


店員さんがいつも立っている定位置から私を微笑みながら見守るなか、変な汗をかきながらメニューを眺める。ずらりと並ぶ色とりどりのカレーの写真が圧巻だ。お昼時、メインのセットはお手頃なランチ価格設定になっている。

他にも楽しげなメニューがたくさん

大方きちんとした日本語で感心するものの、たまに「じっかり煮込みました」「アルコル」みたいな表記もあってかわいい。
ダル(豆)カレー、ほうれん草チキンカレー、バターチキンカレー、マトンカレー、キーマカレー……。
一番安いAランチセットは千円以下。外食ランチとしてはリーズナブルな方だろう(増税に伴い、今は少し値上げして1050円くらいになっている)。
全11種中1〜5までの具材はシンプルめなのに対し、6〜11はちょっと豪華な具材なので、Bランチの方が値が張るようだ。


これがめちゃめちゃ悩む……!

せっかくだし奮発して豪華なセットを頼んじゃおうかとか、いやまずは基本のセットから様子見したいよねとか。そもそもカレーが11種類あるとか、それだけで悩む要素満点である。ドリンクを選ぶのだって、マサラチャイにしようかラッシーにしようか、心は揺れる。

最終的に、野菜とお肉両方が楽しめる日替わりカレー(⑤)のAランチセットを頼むことにした。
よしっと顔を上げると、片時も目を離さず私を見守っていた店員さん(スラズというお名前らしい)が「決まった?」と即座に声をかけてくれた。

「えーっと、Aランチセットの、⑤のカレーで……」
「辛さは?」
「②(中辛)で……」
「ライスナンどっち」
「ナン……」
「飲み物」
「ラッシー……」
「ハーイショウショウオマチクダサーイ!」

掛け合いでもするようにスラズはポンポン言葉を投げてきて、終わったらさっとキッチンへ向かっていきなり流暢なネパール語(当たり前)で注文を伝え出したのでちょっと怖かった。※怖いのは私の主観です。



食べてみた!


さて、いよいよだ。
ついに憧れ続けた“本場のカレー屋さんのカレー”との対面である。

とかドキドキ待っていられた時間はそう長くはなかった。
運ばれてきたカレーセットを一目見た途端、感慨などは吹っ飛んでしまったのである。


「お待たせしました〜Aランチセットです〜」

写真では分かりづらいけどでかい


とにかくでかい。私のiPadより確実にでかい。体感としてはウクレレサイズくらいある。大幅にトレーからはみ出して、半分くらいはテーブルに直置き状態というダイナミックさである。
何よりこれの驚くべきポイントは、ちゃんとメニューの写真を見ていたのに全くサイズ感を把握できなかったことである。これが噂に聞く逆写真詐欺メニューというやつか。
別にカレーもサラダもスープも小さくはないのに、この比である。これカレー足りる?ていうかこの大きさでおかわり可能ってすごくない?ていうかおかわり無理じゃない?
本場のカレー屋さんのナンというのはこの大きさが一般的なのだろうか。初心者過ぎて正解が分からない。ただ、ナンからものすごい圧を感じる。
ナンの大きさには尋常でないくらい驚きはしたが、Aランチセット自体はとても美味しそうだ。無論最初に挑むのは巨大ナンである。まずはテーブルに触れているナンを救済すべく、はみ出し部分からちぎってそのまま口に運ぶ。

うまい、甘い……!

カレー無しでこれだけでも全然いいよ!というくらい美味しい。無心に頬張っていたい。
祖父母の住む古い家には窯があって、お風呂を沸かすときも製麺機で作ったうどんを茹でるときもフル活用していたのだが、その窯で余ったうどん生地を焼くとこういう香ばしい風味がしたのを思い出した。ちゃんと専用の窯で焼いているのはカレー屋さんに特化した専門店ならではだ。

スープはチキンスープだった。当たり前だけど日本の味付けではない。チキンの旨味とニンニクが効いていて、そしてこの塩気、後味……。なぜかこの味に馴染みがある気がする、なんだろう……あっこれカップヌードルのスープの味だ(アハ体験)!あっサラダは別に野菜を切っただけだから普通だ!あっラッシーは甘めで美味しい、食後に飲もう!
カレーは銀色の容器に盛り付けられ、綺麗にトッピングがされていた。チキンもナスも大きいのがゴロゴロ入っている。私はカレーに詳しくないからよく分からないけどとにかく美味しい。はじめは律儀にナンに付けながら食べていたが、普通にスプーンを使った方が扱いやすかったのでそうした。

などと私が食べている間にもスラズは定位置にずっと立っていて、お客さんに細かに気を配っている。
言い方を変えると、主に食べている私をひたすらに見守っている。しかも結構距離が近い。目が合うと微笑んでくれる。フレンドリー。ただ、そんなに見つめられると物凄く食べづらい。
食べ切れるか心配だったナンも完食できたことにほっとしながら、最後の一口を口に入れた瞬間、スラズが話しかけてきた。

「おかわりいる?」

「あっ大丈夫🤗(無理やーーー‼︎‼︎‼︎)」


メニューがすごく美味しくて新鮮で、初体験の連続に私の心は不思議な幸福と(見つめてくるスラズへの)緊張がない交ぜであった。楽しいけど意外と消耗するテーマパークみたいな。この店に来るときは心身共に余裕のあるとき限定にしよう、と私は心に固く決めたのだった。
ネパール式の濃い接客は温かくてフレンドリーだけれど、そのパワーに負けないパワーを自分も持っていることが必須なのだ……。

すまんが……ワシには強すぎる……。




私がAランチセットを堪能している間にも、他のお客さんがどんどん入って来た。例によってスラズが真ん中で出迎えて、見る間に賑やかになる。人気店だ。
お昼休みのサラリーマン、OLさん、4、5人連れだって来る人や家族同士、テイクアウトで来る近くの歯医者さん。一人で来る女性も結構いるようだった。

お会計も「ハーイ980円ネ〜」とゆるかった。

私 「ごちそうさまでした!」
レジの人「ありがとね〜また来てね〜」
スラズ 「ありがと〜」
シェフ二人 「ありがと〜」

カレー店を後にした私はなんだかとても幸福になった。濃い接客に緊張したけれど、異国感が新鮮で嬉しいという気持ちもあった。
行ってみようと決意したときは「とりあえず一回行ってみる!」というスタンスだったけれど、また来てねと言われたし、カレー美味しいし、こんなに幸福になるんならまた行こう、月一くらいで行こう、というスタンスに変わっていた。完全に沼落ちである。全カレーコンプリートしたいし、他のメニューも試したい!!


というわけで、記事はネパールカレーやさんチャレンジ第2弾へつづく……。


《おわり》




追記:食べたあとは翌日くらいまで身体中カレー臭になりました。










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