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はじめに ~愛知ものづくり産業界を俯瞰する~

日本一のものづくり県と呼ばれる愛知。
「2022年公表・経済産業省経済センサス(2020年実績)」から、愛知は「製造品出荷額(量)、付加価値生産額(質)、いずれも第二位の大阪を引き離して日本一であること」「24業種中10業種の製造品出荷額が全国トップシェアであること」がよみとれる。
また、2021年現在、「経済産業大臣指定伝統的工芸品」として、有松・鳴海絞、常滑焼、名古屋仏壇、岡崎石工品、瀬戸染付焼、三州鬼瓦工芸品など、全15品目が愛知から指定されている。
さらには、愛知に誕生した国産初、世界初という製品も多く存在する(具体的な品目は追々紹介していく)。

こうした厚い産業構造が形成された背景には、県内各地に根づいた六つの技の存在がある。
まずは素材加工に関わるものとして、①江戸時代より、生活インフラ、日用品、機械製品を扱ってきた「木を削る技」、②古墳時代の須恵器に始まり、陶磁器やファインセラミックス製品を手がけてきた「土を焼く技」、③鎌倉時代より、仏具、武具、農具、炊具を生産し、明治時代以降は機械製品を主力とした「鉄を鍛える技、鋳る技」、④奈良時代の絹に始まり、木綿、羊毛、化学繊維などを扱ってきた「糸を紡ぐ技、編む技」、⑤奈良時代の醤(ひしお)に始まり、多彩な和洋の食品を生み出してきた「食材を醸す技」である。
そして、機械工学に関わるものとして、⑥江戸初期の和時計から本格化し、後に自動車や工作機械などを生み出した「からくりとすり合わせの技」である。
これらは、豊かな自然環境がもたらした産業資源(素材、インフラ設備、人材)や、列島中央部という地理的優位性を背景に成立した。そして、ときにそれぞれが単独で、ときに複数の技が連携して時代のニーズに合った多くの製品を生み出してきた。

愛知のものづくり 六つの技の相関

本稿の主旨とは、こうした千数百年にもおよぶ愛知ものづくり産業のあゆみ、そのアウトラインを描き出すことにある。ただし、通常の経営史の観点から追っても、特定の起業家や企業に焦点があたりがちで、「人物Aが愛知県内で企業B(企業C)をおこした」というありふれた結論になってしまう。そこで特定の起業家や企業の動向は歴史上の一事象という扱いにとどめ、六つの技(製品)を軸に愛知ものづくり産業のあゆみをたどってみたい。これによって従来とは少し違う歴史観が打ち出せるのではないかと思う。

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