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高齢者が増えることは本当に課題だけなのか?|『Over-60 モンテディオやまびこ』はJリーグクラブと高齢者の可能性を広げる

高齢者が増えることは本当に課題だけなのか

2024年、モンテディオ山形は新たな挑戦として『Over -60モンテディオやまびこ』を発足しました。文字通り、60歳以上を対象にしたコミュニティです。
山形県は高齢化率が進み、全国でも5番目に高い県となっています。高齢化による、医療・介護サービスの需要増加、公的財政への負担増などが問題視されています。一方で、「高齢化」という括りが課題として認識される傾向にあり、高齢化を課題や脅威ではなく、機会と捉えて行動するケースはまだまだ少ないように感じています。
高齢化を機会に、モンテディオ山形がハブとなって「何歳になっても輝きイキイキした高齢者を増やせないか?」そんなことを考えていた時に、ご縁があってスポーツ庁が主催する地域版SOIPに参加をさせていただくことになりました。
地域版SOIPとは、地域におけるスポーツオープンイノベーションプラットフォームの略称です。簡単に言えば、地域活性化を目的にスポーツチームが設定した課題に対して、企業と共にその課題解決につながるサービスを考えていくプログラムです。モンテディオ山形は、高齢化のキーワードを置きつつも広く『心と身体の健康課題を解決し、「生きがい」と「働きがい」を高める新たな"山形文化”を目指す』というテーマを設定しました。

高齢者が抱える課題を声のチカラで解決

共創を実現するパートナー企業を選定する中で、面白い切り口の提案がありました。
声磨き(発声発語機能の向上によりコミュニケーションや健康課題の改善)をプロダクトにしている『ボイスクリエーションシュクル』という会社さんです。共創アイデアをディスカッションする場では、「モンテディオさんが目指すビジョン、解決したい課題を 声 というアプローチで実現します」という力強いプレゼンをいただき、声の可能性や未来の展望について議論を重ねていきました。
いざ共創がスタートし、サービス開発を進めていく中で、実際に高齢者の方がどのような課題を感じているのか?その課題解像度を高めるために、クラブ主導で60歳以上を対象にアンケートを実施しました。

モンテディオ山形シーズンシート・ファンクラブ会員の60歳以上を対象に調査

「一生自分の足で歩きたい」「認知症になりたくない」「一生自分の歯で食べ物を食べたい」「家族や友人と楽しくおしゃべりしたい」「何歳になっても人の役に立ちたい」
一見すると声とは直接関係のない課題が多いように感じますが、声を出すことは、鼻、口腔、咽頭、喉頭、肺などの全ての器官に関与すると言われています。また、声を出して会話することは脳を活性化し認知症を予防する上でも効果的ですし、話したり笑うことは、言語コミュニケーションの円滑化や笑顔、表情、口臭改善にも繋がります。
実はみなさんが抱えている多くの悩みは「声」で解決することができたのです。

※補足 高齢者の定義として、私たちは「現役層」「アクティブ層」にカテゴライズされる方をメインのターゲットに設定しています(参考:シニアライフ総研®独自の6つのカテゴライズ

モニター検証で参加者の変化を実感

サービスをリリースする前に、ターゲットにとって本当にいますぐに解決したい課題(バーニングニーズ)なのか?という部分は確認する必要がありました。
それを確かめるために、サービス開始前のモニターとして、6名の方に実際のサービスを体験していただき、心身の変化と満足度を検証しました。
モニター検証の内容は、3回の声磨きトレーニングとモンテディオ山形のキックオフイベントでのあいさつ運動、声出しチャレンジなど全4回。
声磨きトレーニングでは、最初は硬い表情だった参加者の方も、トレーニングが進むにつれ徐々に表情も柔らかくなり、最後の方は笑顔全開でトレーニングに励まれていました。

声磨きトレーニングをする参加者の方々

そして、迎えたお披露目の機会では、モンテディオ山形の若手選手達と参加メンバーで大声チャレンジ対決。「行ぐべ、J1!」に続いて、チームに期待するメッセージを発声しました。

参加者の方は、サービス体験を通して自身の成長や今回の機会について以下のようにコメントをしています。

「最初は自分にできるかな…と不安だったけど、みんなと一つの目標に向かって取り組めて部活みたいでとっても楽しかった!
何歳になってもやっぱり新しいことに挑戦するって楽しい!沢山の観客の前でステージにも立ち、選手とも対戦できて一生分の思い出が出来ました!
「自分も健康になり、それがチームのためになればもっと嬉しい!そしてチームの勝利に貢献できたらもっともっと何倍にも嬉しい!開幕に向けて一緒に活動する仲間も増やしていきたい!」

参加者の声
デシベルを競え!モンテデイオやまびこ大声チャレンジ!で応援メッセージを発する参加者

今回2期の募集をスタートし、限定20名の枠がすべて埋まりました。そのうち、6名はモニターで参加してくれた方々です。継続してやりたいと思っていただけたことは、サービスがターゲットの高齢者にフィットしていることにも通じるのかなと思っています。

健康改善・つながり創出・活躍機会

この取り組みでは3つの課題解決に挑戦します。
まずは、上述した通り、顕在化されている健康課題に対して声磨きトレーニングでアプローチしていきます。
もう一つは、「つながりの機会・孤独の解決」です。高齢者の孤独は世界中で重要な社会問題となっています。新しいつながりの機会や共通の目標に向かって努力することは、健康状態の改善や認知症の予防にもつながると言われています。そして、この孤独というものは個人レベルでは解決が難しいため、私たちが間に入り場をつくることに価値があると考えています。(固くなく、楽しくその場をつくれるのもスポーツチームの価値です)
そして最後は、「高齢者の方が活躍する、必要とされる場所をつくること」です。あいさつ隊やシニアデーといった高齢者の方が活躍できる機会を準備しています。高齢者は体力の衰えと共に支えられることも増えてくるかもしれませんが、誰かを支えることだってできます。年齢の垣根をこえて互いに互いを支える山形文化がつくっていきたいです。

3つのアプローチで課題を解決

モンテディオのファン増加につながる巨大マーケット

この取り組みは大きなマーケットへの挑戦も意味しています。
今回のターゲットとなるアクティブな高齢者(健常な高齢者)は、県内に約25万人ほどで、これは県内人口の1/4を占める割合です。
マーケティング観点でも非常に魅力的なボリュームであり、クラブがこれまで取り込めなかった層に対してタッチポイントを新たにつくることが可能になります。
若い世代の巻き込みは大切ですが、今後の可能性を考えるとこの段階で高齢者層を取り込むことはチームの観客動員戦略において必要不可欠だと考えています。

参考:山形県ホームページ「山形県における高齢者の現状と将来推計」をもとに作成

O-60モンテディオやまびこは、まだ走り始めたばかりの取り組みですし、粗い部分があるのも否めませんが、周りの方に目的や意義を知っていただきたいと思い文字にしてみました。活動に興味を持っていただけた方はぜひ、巻き込まれていただき(笑)なにか一緒にやっていけたら嬉しいです。

火がついていない人に”火種”を移せるか

最後に余談ですが、昨年U-23マーケティング部を発足させて以降、社長の相田さんが口癖のように「Over-60もやりたいなあ」と言ってました。不思議なもので、何回も聞いてると自分までもがやりたくなってくるものです。ある意味、いつも巻き込まれています(笑)
昔の話ですが、破産寸前の米沢藩財政の立て直しを図り、卓越したリーダーシップで地場産業振興の基礎を築いた上杉鷹山がこんなことを言ってました。
「一人一人が胸の中の炭の火種を、火がついていない者に移してくれ。
その火種をまた別の者に移せ。私も率先して火種になる。火種運動を起こそう。そうすれば、今は灰のような米沢の国もきっと燃え上がる。」

U-23マーケティング部の時も、今回のO-60モンテディオやまびこも最初は小さな火種です。でもやり続ければ共感者や仲間が増えていきます。強い想いは伝播します。大きなビジョンを描きつつも、まずは一つ一つ丁寧に積み上げていきたいと思います。

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