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アニメ『約束のネバーランド(第一期)』のストーリー構造を分解する【ネタバレ注意】

 2,016年8月から2,020年6月まで、約4年にわたって週刊少年ジャンプに連載された漫画、『約束のネバーランド』。全20巻の売上総数は3,200万部にのぼります(漫画全巻ドットコム調べ)。

 ざっくり計算しても、1巻あたりの売上が120万部なので、強豪ひしめくジャンプ漫画の中でも、ドル箱作品といっても過言ではないでしょう。※

※なお上記の連載期間は、Wikipediaを参考にしています。


 2,020年12月に実写映画も公開されて、何かと話題になっていた本作品。私も気にはなっていたのですが、その人気を探るべく先日ついにアマゾンプライムでアニメを試聴いたしました。結果、やはり作品のストーリーラインの美しさや、視聴者を引き込む巧みさに舌を巻いたのです。特にアニメーション第一期の内容には衝撃を受けました。

 そこで本記事では、『約束のネバーランドのストーリー(アニメ第一期分)を分解し、なぜ『約束のネバーランド』がそれほどまでに観る人の心を釘付けにするのかを分析したいと思います。

 なおこの記事ではネタバレを多分に含むので、あなたがもし事前知識ゼロで履修したいのなら、この先を読まないことをオススメします。いいですか、絶対に読まないでくださいね。責任はもちませんよ!

 心の準備を済ませた人は、スクロールしてください。



















心の準備はできましたか?ではストーリーを分解していきましょう。

あらすじ

 さっそくストーリーの分解にかかりたいところですが、まずはあらすじをご紹介させてください。何回も言いますが、この記事では私が特に衝撃を受けたアニメ第一期分のみを取り扱うため、そのあらすじになります。

 美しい自然の中にある孤児院グレイス=フィールド。この孤児院で生活する子どもたちは、優しい職員を「ママ」と呼び、里親が見つかるまでのびのびと暮らしていた。

 ところがある夜、里親が見つかり孤児院を出ていく子どもの一人に、忘れ物を届けるため後を追いかけた主人公エマと親友ノーマンは、その子が息絶えた姿を目撃してしまう。子どもを殺したのは、人間よりも遥かに大きい“鬼”。彼らは人間の子どもを食べるために育てていたのだ。

 つまり孤児院だと思っていたグレイス=フィールドは、外の世界で暮らす“鬼”たちに子供(の特に脳)を供給するための「農園」であり、優しいママは子どもたちが逃げないための「監視者」だったのである。

 エマとノーマンは、もうひとりの友人レイに相談し、子どもたちが「出荷」される前に「農園」から脱出する計画を立てる。果たして彼らの脱出は成功するのだろうか。

 あらすじだけでも、面白そうな雰囲気が伝わるのではないでしょうか。ところが本編を視聴すると、その期待を遥かに凌駕する面白さを味わうことができるのです。


ストーリーの要素

 ではいよいよストーリーを分解していきましょう。色々あると思いますが、『約束のネバーランド』では次の3点が、作品の面白さを際立てる要素だと考えます。

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  1. ゴール(目標の設定)

  2. 緊張感の持続

  3. 視聴者の予想を裏切る展開

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1. ゴール(目標)の設定

 優れたエンターテイメント作品は、序盤で主人公に向かうべきゴールを示唆します。ゴールがあると、視聴者がストーリーの迷子にならないだけではなく、目標までの道のりに障害があることで、期待感を煽ることもできます。

 例えば同じジャンプ漫画『鬼滅の刃』なら、主人公竈門炭治郎の目的は、鬼になった妹の禰豆子を人間に戻すことです。そしてその最大の障害が鬼のボス、鬼舞辻無惨になります。

 スポーツ漫画であれば、優勝やライバルからの勝利だったりしますし、障害はライバル(人や団体)ですよね。また恋愛ものだと、主人公とヒロイン(男性含む)の恋の成就であり、障害は恋のライバルになります。

 また、ゴール目標を非常にうまく設定しているのがゲーム(特にRPG)です。大ヒットRPGドラゴンクエストなら、主人公(勇者)が王様に呼び出され、世界の破滅を目論む魔王を倒すように依頼されます。

 では『約束のネバーランド』のゴールとは何か。もうおわかりですね。そうです、農園グレイス=フィールドからの脱出です。そして最大の障害がママからの監視と“鬼”たちの存在になります。


2. 緊張感の持続

 ゴール設定が終わっても、主人公が容易にゴールまでたどり着けたら、試聴者は予想通りの展開に途中で飽きてしまうでしょう。

 この問題については、飽きさせないために2つの方法があると考えます。

 一つはゴールまでの道のりで、常に緊張感をはらむ要因をもたせることです。例えば鬼滅の刃であれば、鬼になってしまった禰豆子が主人公炭治郎の傍らにいることで、敵側について炭治郎を襲う危険性を常にはらんでいます

 これは視聴者に予想できない要因であり、「このまま無事にすむだろうか」という緊張感を生み出しているのです。

『約束のネバーランド』では、監視役のママ(イザベラ)がこの役割を担います。しかし物語の冒頭では優しいママの姿ですので、そのままでは緊張感を生むことはありません。

 しかし主人公たちが届けようとした忘れ物(人形)を、(ショックのあまり)現場に置いてきてしまったために、イザベラがその人形を見つけてしまいます。そしてイザベラは、事実を知った彼らを必要以上に警戒し、完全に敵側に回ってしまうシチュエーションを生み出します。そして主人公が犯した過ちによって今後どのような影響を与えるのか、試聴者に予想できない状態を作り出しているのです。


『約束のネバーランド』のストーリーが秀逸な点は、

  • ゴール(目標)の設定

  • 緊張感の持続(要因を作り出す)

 上記2つを冒頭の第1話目に収め、スピード感を生み出していること。

 この仕掛けにより、一気に作品の世界へと引きずり込むことに成功していると言えるでしょう。


3. 視聴者の予想を裏切る展開

 前述の緊張感の持続でも記述した、予想通りの展開では視聴者が飽きてしまう問題。方法の一つが予想不能な緊張感の持続でした。ではもう一つはどういった方法でしょうか。

 答えは、話の区切りで視聴者の予想を裏切り(どちらかといえばより困難な状況へ)主人公たちを追い込む方法です。

 『約束のネバーランド』では、農園グレイス=フィールドから脱出するには、次の条件を満たせばいいと、主人公たちは結論づけます。その条件とは次の2つ。

  1. 監視役(ママ)の持つ、子供たちの位置把握装置の無効化

  2. 鬼ごっこによる遊びを通じての団体行動の訓練

 上記を行った上で事前に下見を済ませ、具体的な脱出方法を探ればいいと考えました。

 しかし、ことはそう簡単には運びません。

■敵(監視役)の増援
 
2話目の終盤で、主人公たち(と、おそらく視聴者)に思いがけない事態が起こります。それが新たな監視役(シスター・クローネ)の登場です。

 彼女はイザベラよりも身体能力が高く、追跡能力が高い厄介な相手。おまけにカンも働き陰謀の匂いも嗅ぎつける、主人公たちにとっては思わぬ壁が立ちはだかります。

 彼女にも別の思惑があり、元の監視役イザベラとの因縁で主人公たちの妨害をしたり力を貸してくれたりと、一体敵なのか味方なのか、わからない行動を取り続け、ストーリーを追う私達に予想をさせない展開を見せてくれます。

■仲間内からの裏切り
 さらに主人公たちの追い打ちをかけるのは、脱出させる子どもたちの中にママと内通しているスパイがいるのでは?という疑惑が湧き上がります。

 彼らの計画が監視役に漏れてしまえば、脱出は成功するはずがありません。一体彼らはどうやって内通者を見つけるのか?その内通者とは誰なのか?この謎を突きつけることで、ストーリーを追う私たちに興味をもたせ、先へ先へと読み(観)進めさせることができるのです。

■主人公への大きなペナルティ
 上記の問題をなんとか解決し、いよいよ脱出の決行日が明日に決まります。その前に最終的な下見をしておく必要があり、主人公たちはそれを実行に移そうとしました。

 ところが一連の行動が監視役のイザベラにバレてしまいます。そして下見の現場にイザベラが登場し、あろうことか主人公のエマの片足を折るという強行手段に出るのです。

 これは私の中で最も大きな衝撃でした。

 なぜなら明日決行するはずの計画は、エマの状態からして絶対不可能。加えて脱走代表者の一人であり、計画立案者の天才ノーマンの出荷が、計画実行日に決まってしまったから。

 おそらくストーリを追ってきた視聴者からすると、

 「詰んだ」

 と誰もが思ったことでしょう。私も一体ここからどうやって脱出計画を実行するのか、そもそも脱出するのは不可能だと考えたくらいですから。

 天才ノーマンは、計画実行日まで隠れ、命を保つよう訴えるエマたちの説得にも関わらず、予定通り出荷されてしまいます。そして二ヶ月後、今度はもうひとりの主要人物レイの誕生日であり出荷日が迫ってくるのです。

 結局彼らは脱出することが叶わないまま、物語は終わってしまうのか――。そう思わせておきながら、ここから今までストーリのなかで仕掛けておいた怒涛の伏線回収により、大逆転劇が幕を開けるのでした。

 この瞬間、視聴者はおそらく最高のカタルシスを感じることができたでしょう。とにかく気持ちいい。また主人公エマはグレイス=フィールドにいる子供たち全員を逃がすという最高難度の選択をしており、それが可能なのかの命題もここで突きつけられるわけですが、鮮やかな方法で彼女たちはその難問をクリアしてみせるのでした。

 上記のほかにも、今までの前提をひっくり返す展開が多数用意され、それが必ず各回の最後に提示されるおかげで、私たちはこの作品から目を話すことができないのです。しかしそれは不満ではなく最高に気持ちのいい体験を伴うので、試聴が終わった後は、必ず

 「面白かった!」

 ということができるのでした。


 以上、アニメ第一期分だけですが、『約束のネバーランド』がなぜ面白いのかのストーリー分解を終わります。

 長々とお読みいただき、ありがとうございました。


『約束のネバーランド』を観たい(読みたい)方へ

上記のストーリー分解を読んだあと、もう一度作品を鑑賞することで新たな発見をすることもあるでしょう。

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