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第2橋 スリル満点⁉︎ これぞ奇橋 祖谷のかずら橋 前編 (徳島県三好市)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。
渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。
「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。
——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!



飛行機とレンタカーを駆って
一路四国の秘境へ

 徳島県にある橋だから、まずは徳島空港へ飛ぼうかと思ったが、調べてみると高松や高知から行く方が近いと分かった。
「高松なら、うどんも食べられるな」
 という皮算用も頭をもたげたが、結局、高松案も却下した。各空港からの所要時間を比較すると、高知から行くのが最短ルートになりそうだったからだ。今回もやはり日程が限られているので、効率重視である。
 早朝に都内の自宅を出て羽田へ向かう。そうしてびゅんとひとっ飛びして、高知龍馬空港に到着したのが九時二十分。あっというまに四国なのだ。
 いつものように空港でレンタカーを借りてサクッと出発した。最近は毎回同じレンタカー会社で借りることにしている。借りるまでの手順だったり、車内の備品の種類や使い方などが共通だと、余計な手間がかからなくていい。

 朝食がまだだったので、近くのマクドナルドのドライブスルーで「朝マック」を購入した。うどんではなく朝マックになってしまったが、考え方次第だ。東京から大移動してきたにもかかわらず、まだ朝マックの時間帯なのだ。早起きしたせいか、なんだか一日が長く感じられるのだった。
 買ったハンバーガーを車内で食べながら、一路北へと車を走らせる。
 ここで、いきなり問題発生。徳島県の橋へ行くのに、高知県から向かっていると前述したが、気がついたらなんと愛媛県の道を走っていた。どういうことかというと乗り過ごしてしまったのだ。高速道路を。
 高知自動車道を南国インターから乗った。本来の予定では、すぐ隣の大豊インターで降りるはずだった。ところが、気がついたら通り過ぎていて、県境を越えて愛媛に突入していたのだ。
「だって、景色が単調なんだもの……」
 誰にともなく言い訳したくなる。道は割とずっと真っ直ぐな感じで、山間部のためしばしばトンネルの中に入る。とはいえ、完全に自分のミスであった。ただ単にボケーッとしていただけのことだ。
 気がついたときには時既に遅し。すぐに降りて引き返したいが、次の新宮インターまで二十キロ以上もある。時間にして約四十分ものロスは結構痛い。
「これなら高松でうどん食べてから来ても時間変わらなかったな」
 と、悔しさが込み上げてきた。自己嫌悪にも駆られた。
 ただ、こういったアクシデントもまた旅の醍醐味だったりもする。
 新宮インターを降りると、すぐそばに道の駅があった。トイレ休憩がてら売店を覗いてみるとオヤッと唸った。茶葉やお茶を活用したお菓子など、目に入るのはお茶にまつわるものばかり。どうやらここ愛媛県新宮町はお茶の生産地らしいと知り俄然興味が湧いてきた。食いしん坊の旅行者なのだ。季節限定という、ほうじ茶モンブランがあまりに美味しそうだったので、思わず購入した。
 ほかにも道の駅には、2021年にノーベル物理学賞を受賞した先生の出身地だそうで、お祝いの横断幕などがあちこちに出ていたのも気になった。
 こうして、立ち寄るつもりのなかった街へやってきたのも何かの縁だろう、と気持ちを切り替える。高速を乗り過ごすという痛恨のミスを犯してしまったが、そのお陰で得られた出合いといえた。

 高速に乗って来た道を引き返すつもりでいたが、ルート検索してみると、ここからもう下道で行っても所要時間に大差はないようだった。同じ道を戻るよりもそのほうが気分的に盛り上がる。
 マップで確認すると、ルートは国道319号を通るようだった。国道ならばスイスイ走れるだろうし、遅れを取り戻せるかなと思っていたのだが——。
 走り始めてすぐに、そんな目論見は崩れ去った。山道である。道幅はめちゃくちゃ狭く、対向車とすれ違うのもやっとなほど。ガードレールがないため、うっかり落ちそうで怖い。
 国道というよりも「酷道」とでも呼びたくなる。少なくとも、自分の中の「国道」のイメージとは全然違ったのだ。


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くねくねとした細い道が延々と続く。運転していて神経を使ったせいか、ものすごい疲労感に襲われたりもした。


 集落を抜けると人気のない山道に入り、しばらくゆくとまた別の集落が現れる。そんな感じの山里の風景が続いた。途中にコンビニは一軒もない。「路肩注意」の標識がやらたと目についた。
 ビールケースを逆さまにして積み上げて台にし、その上に植木鉢を飾っているお家が気になった。家のすぐ前が国道なので、本当に道の端ぎりぎりのところに鉢が置かれていてギョッとさせられる。
 失礼ながら、「ド」がつくほどの田舎といえそうだが、だからこそ好感度が上がるのだとも言えた。

 日本全国あちこち巡るなかで、自分の琴線に触れるスポットの傾向がハッキリしてきた。
 それはずばり、人がいない(少ない)ところ。
 観光地であっても、人口密度が薄く、自然しかないような場所に来ると、「ああ、いいところだなぁ」と口元がゆるむ。もちろん、空いているほうが快適というのもある。周辺道路が渋滞するようなメジャーな観光地は大の苦手だ。
 そういう意味では、今回の目的地である「祖谷のかずら橋」はまさに自分好みといえそうだった。
 そもそもまず、平家の落人ゆかりの地と聞いただけでビビビッと閃くものがあった。人がいない(少ない)ところを探すうえで、とっかかりとなるキーワードがいくつかあるのだが、「平家の落人」はまさにそのひとつなのだ。
 源平合戦に敗れた平家の武士たちは、山の奥深くへ逃れていった。外界から隠れるようにして彼らが暮らしていた村などは、とにかく辺鄙な場所ばかりだ。分かりやすい言葉を用いるなら「秘境」と呼んでもいいだろう。


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山の斜面に民家がポツポツと立つ風景もまた古き良き日本の山里を感じさせる。とくに心惹かれたのが「落合集落」だ。向かいの展望台からは、ひとつの山が集落と化している様が望めた。


 関連スポットは全国各地に残っていて、これまでに結構な数訪れている。そして、それらはどこも本当に魅力的だった。旅行者目線で見てみると、平家の落人関連スポットに外れなし、というわけなのだ。

(後編へ続く)



イラスト

吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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