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散り際の薔薇、傾き。【ショートストーリー】


「散り際の薔薇、傾き。」は、星月リアさんの作品、「僕の薔薇が咲く日まで」の約半世紀後を舞台に始まるストーリーです。時の流れと、視点が変わります。


年老いた彼が、冬の酷く寒い日、病に死した。

毎年、満開の薔薇の花を咲かせて庭でずっとずっと彼を見守っていた俺は、冬の霜を悲しみと言う熱で溶かした。それは俺をつたって流れて、また凍った。

どうしてもどうしても彼を諦められなくて、再び俺は彼をこの世に産み出した。俺から産まれた君は、かつて俺を愛してくれた彼とそっくりで、俺はもう、君を離さないと、心に誓った。俺は君を大切に大切に優しく胸に抱き締めて、俺の咲かせた沢山の薔薇の蜜を、ただただ注いだ。

君は、恐るべき速さで成長した。

ただ泣き叫ぶことでしか伝えられなかった感情を、言葉にするようになって。

「ねえ、僕、小鳥ちゃんと結婚するんだ。」
君が突然俺に言った、まだ6歳の君の初恋に、俺は少しだけ嫉妬をした。『小鳥ちゃん』は、君の為に咲かせた俺の薔薇の蜜を啄んだことのある女の子だったから。

だけど俺は、本当に君の成長が嬉しかったんだ。それでよかった、君が幸せならば。『小鳥ちゃん』にもたくさん、蜜を注ごう。そう決心して、俺はひたすら薔薇を咲かせて、その蜜を、君と『小鳥ちゃん』に注ぎ続けた。

でも、君が10歳になった時、突然君は言ったんだ。

「僕、お肉が食べたいんだ。甘いのに飽きちゃったから。」

だから俺は、自身を、誰かの栄養にしてもらうことにした。そして作られた血肉を、君に食してもらうんだ。誰かが見つけてくれるように、俺は薔薇を咲き誇らせた。君が食する血肉になれるならば、喜んで差し出そうと。

やがて俺は、君が24歳の時、『小鳥ちゃん』に花弁を食された。君がいつの日か初恋をした、『小鳥ちゃん』に。俺は構わず、茨をめいっぱい広げて、『小鳥ちゃん』を内側から蝕んだ。君がお肉を食べたいと言ったから。『小鳥ちゃん』は、その痛みに泣き叫んで、絶命した。俺は喜びに溢れて、その血肉を君に差し出す。

だけど君は「それ」を食さなかった。「それ」が『小鳥ちゃん』の亡骸と知った君は言った。

「どうして?小鳥ちゃんを殺したのは、誰なんだよ。復讐してやる。」

俺は悲しかった。だって、君が「お肉を食べたい」と言ったから、俺は自らを差し出して、その血肉と化すことにしたのに。君に憎まれる俺は、もう何処にもいないんだ。

春になって、君が恋をした『小鳥ちゃん』から、俺が再生した。まだ小さな芽吹きの俺を、そっと君が掘り起こした。

「どうして小鳥ちゃんを殺したの?」

(君がお肉を食べたいと言ったから。)

俺は必死に訴えたけれど、君の表情は、俺の気持ちなど知らない。ただ『小鳥ちゃん』が死んだことを、悲しんで、俺の再生を喜んでくれない。俺はもう、薔薇を咲かせることはできない。


彼をずっと、見守っていたのに。

君を再び、産み出したのに。

君を胸に、優しく抱きしめていたのに。

君に甘い蜜を、注いでいたのに。

君の為に命の血肉に、なったのに。


彼を、愛しているのに。





散り際の薔薇、傾き。ヘッダー(確定)かなたさん作

※ヘッダーにも使用したこちらのイラストは、かなた@ー恋つばー(@sorairo_jam)さんの作品です。
この作品を一瞬拝見させていただいただけで、降りて来たものがあったので、書かせていただき、ヘッダーへの使用と、イラスト掲載のご許可を頂きました。




「散り際の薔薇、傾き。」の真実を知りたい方がいらっしゃいましたら、こちらの記事で触れようと思います。


星月リアさんの「僕の薔薇が咲く日まで」






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