クレラップ

「騙したなぁ!」とその少年は叫んだ。「よくも僕を騙したなぁ!」
 それはかつて私が導いてやった少年だった。食品用ラップフィルムが途中で斜めに切れたり裂けたり、切れ目が見つからなくなったりする災厄を相談され、クレラップを薦めたのだ。クレラップならまん中からクルッと簡単、V字刃の採用で数ある製品の中でも最も切りやすく、またラップをキャッチして巻き戻りを防止するストッパーニスつきのマチもある。さらに、巻き戻し時のために使える「引き出しシール」まで付属。まさに至れり尽くせり。万全の備えを整えている。私は自信を持って彼をクレラップへと導いたのだった。
 しかしそのクレラップでも切れ目が行方不明になる災厄が起きたのだという。
 彼はその捜索のために休日を半日潰したということだった。家の前で騒がれると近所迷惑なので、私は彼を家にあげた。
「クレラップでも起きたじゃないか! クレラップでも!」と彼は喚いた。「よくも僕を騙したなぁ!」
「あなたはそれでもクレラップを信じますか?」と私は静かに言った。
「信じるもんか!」と彼は叫んだ。「もう裏切られたんだ。信じるもんか!」
「その態度が問題なのだ!」と私は鋭く言った。「クレラップの他にクレラップなし。クレラップを信じずに、どうしてクレラップに救われると思うのか! 述べてみよ!」
 彼は一瞬ひるんだ。述べられないのだ。私は畳みかけた。
「どうだ、述べてみよ!」
 間髪入れずに私は続けた。
「クレラップが問題なのではない。クレラップを信じないその心が問題なのだ。ラップを切る時に、刃をしっかり下げられたかを確認するためのキレ窓、そこから覗く女の子のイラストを確認していたか。どうだ。答えてみよ。していたのか。していないだろう!」
「していません」と彼は小さな声で言った。
「信じなさい」と私は一転して穏やかな声で語りかけた。「クレラップを信じなさい。今からでも遅くはない。いつでも、遅すぎるということはないんだよ」
「ありがとうございました」と彼は涙を流しながら言った。「ありがとうございました」
「あなたはクレラップに救われるだろう」。私はそう言って彼の肩に手を置き、帰宅をすすめた。

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