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パオ式のサマタ瞑想とヴィパッサナー瞑想

「仏教の瞑想法と修行体系」に書いた文章を編集して転載します。
パオ式はミャンマーの出家者向けの本格的な瞑想法です。


パオ僧院


ミャンマーのモーラミャインのパオク村にパオ僧院があります。

森の中にあるので、森林派と呼ばれています。

その僧院長はパオ・セヤドーを呼ばれ、1981年から勤めたウ・アチンナ師の時に、瞑想修行場として徐々に知られるようになり、現在では世界から修行者を受け入れています。

アチンナ師は英語も流暢で、国外でも講演や瞑想指導を行いました。

日本にも、パオ森林僧院(日本道場)があり、都内での瞑想会や、静岡でのリトリートが行われています。

パオ僧院の修行体系は、基本的には「清浄道論」をベースにした出家者向けのものです。

パオ流の特徴は、「サマタ(止)」、「ヴィパッサナー(観)」において、最終的な対象である「似相」を視覚的に体験される光として捉えて(単に「ニミッタ(相)」と呼びます)重視すること、そして、「色聚(ルーパ・カラーパ)」などの発達したアビダルマ哲学(法の分類体系)に基づいた「観」を行うなどだと思います。

パオ流(パオ・メソッド、パオ式)の修行のプロセスには次の3通りがあります。

1 止→観(名法を識別)→観(色法を識別)
2 止→観(色法を識別)→観(名法を識別)
3 観(色法を識別)→観(名法を識別)

この中で最も一般的なのは1です。

具体的には、「止」として、まず、「安般念」を身処のみで第四禅(第五禅)に到達するまで行います。

次に、「三十二身体部分」→「白骨観」→「十遍(白遍から)」→「四無色界定」→「四保護業処(慈心観→仏随観→(不浄観→)死随観)」と行います。

その後に、「観」として、まず「安般念」で第四禅に至ってから、名法である禅支の識別から始めます。

「止」を複数の業処で行わず、「安般念」のみを修めてすぐ観に移る場合もあります。

また、「止」を「安般念」ではなく、「四界分別観」から始める場合もあります。

この場合は、その後に「観」を行ってから、改めて「安般念」を行います。

2の場合のは、「観」で先に色法を識別するので、禅支ではなく「四界分別観」から色法の識別を行います。

3の場合も、「四界分別観」から始め、その中で近行定の定力をつけて、そのまま色法の「観」に移ります。


サマタ(止)


安般念とニミッタ

パオ流の「安般念」は、「アーナーパーナ・サティ・スッタ(安般念経)」の身体を対象にした最初の4つを行います。

日本のマハーカルナー師は、感覚50%、それに対する観察50%にするようにと言います。

集中が深まることで、光の体験(単に「ニミッタ(相)」と呼びます)が現れることを重視する点が特徴です。

これは、「止」における対象である「似相」を視覚的な光として体験とするものです。

例えば、「安般念」で鼻端に集中して、集中が一定程度の高まると、「ニミッタ」が表れます。

「ニミッタ」が現れた時、「ニミッタ」に注意を向けると「ニミッタ」は消えてしまいます。

鼻先の呼吸に集中を続けていると、自然に「ニミッタ」は安定します。

この段階になってから「ニミッタ」に専心します。

「ニミッタ」は人によって異なりますが、一般的に「止」の対象のレベルに応じて、次のような特徴を持ちます。

・遍作相:灰色・煙状の色
・取相:綿花のように白い光
・似相:明けの明星のように明るい光

「ニミッタ」が安定すると、次に有分心(無意識的な心の基盤)を識別します。

有分心は心臓部にあり、観察は数秒にとどめます。

「ニミッタ」は、有分心の内部から現れるのです。

次に禅支を識別します。

禅支についても「ニミッタ(=似相)」との関係で捉えます。

尋:ニミッタに心を向かわせること
・伺:心をニミッタに置き続けること
・喜:ニミッタに好意を抱くこと
・楽:ニミッタを経験する時に幸せな気持ち
・一境性:心がニミッタと一つになること

禅定が深まると、四方に光が放射するようにまでなります。

パオ流では「安般念」以外でも、「十遍」、「不浄観」、「仏随念」などでも「ニミッタ」が必要であるとします。

「ニミッタ」は究極法ではないので、「観」の対象ではありませんが、この禅定の光があることで、究極法を見極めることができるとします。

このような瞑想法における「ニミッタ」に関しては、「原始仏典」にも「清浄道論」にも同様な意味での記述はないのではないでしょうか。

パオでは「ニミッタ」の実体を、「色聚(ルーパ・カラーパ)」の中の法の「色彩」であるとします。

「色聚」は、「解脱道論」以降の上座部のアビダルマの論書で現れた概念で、身体の極微な構成単位の意味です。

「色聚」概念の登場は、アビダルマの哲学的な精密化を示しています。

類似した概念では、説一切有部の「極微」があります。

止観の心は、「心生色」を生みますが、それは微粒子「心生色聚」であり、それは究極法である8色(「火」「風」「水」「土」の四大、「香り」「音」「味」「色彩」)などから構成されています。

その一つである「色彩界」が「ニミッタ」の光の本体です。

また、「火界」が新しい世代の色聚(時節生色)を生み、それが光(智威力色)を外に放射します。

三十二身体部分

パオ流では、「安般念」の次に「三十二身体部分」を行います。

四方に放射する「ニミッタ」の光の助けのもとに、一カ所ずつ識別していきます。

光が暗くなると、安般念四禅に戻って光を強めます。

物質的な感覚による認識ではありません。

三十二部分は、下記のように分けて識別します。

地界の4組(毛など、肉など、心臓など、腸など)の20部分

水界の3組(胆汁など、涙など、尿)の12部分

他人の身体部分も識別します。

「三十二身体部分」は四界の究極法を対象としておらず、「観」ではありません。

「四界分別観」から色法を識別する「観」を行う方法は、「パオ流ヴィパッサナー(観)」で紹介します。

白骨観(不浄観)

三十二身体部分のどれか、もしくは全体を不浄観の対象にします。

一般に、骨格を全体とみなし、その不浄を嫌悪すべき相として「嫌悪、嫌悪」、もしくは「嫌悪すべき骨、嫌悪すべき骨」、「骨、骨」と心の中で言いながら瞑想します。

集中の対象は、骨格の概念から嫌悪の概念に移行していきます。

この場合の五禅支は次のように捉えます。

・尋:骨の嫌悪性に心を向かわせること
・伺:心を骨の嫌悪性に置き続けること
・喜:骨の嫌悪性に喜ぶ
・楽:骨の嫌悪性によって引き起こされた楽しみを体験する
・一境性:骨の嫌悪性に専心する

外にも、十方のどこを見ても骨格のみしか見えないという状態にします。

十編

まず、「白遍」から始めます。

骨格の最も白い部分を選んで、その白色に「白、白」と集中します。

骨格は消失し、白い色の円だけが残り、それが「ニミッタ」になります。

それを拡大し、どこを見ても白い色だけにします。

同様に、毛で「青遍」、脂肪で「黄遍」、血液で「赤遍」を、などとして行います。

また、残りの6編も、円形の土地で「地遍」、一桶の水で「水遍」、焚き火の火で「火遍」、体に吹き付ける風で「風遍」、地上に指す光で「光遍」、鍵穴で「空遍」を、などとして行います。

四梵住(四無量)

パオ流の「四梵住」の特徴は、それぞれで具体的に限定した念じ方をすることと、ニミッタの光を利用することです。

「慈心観(慈梵住)」の場合は、「危機がないように」「精神的苦痛がないように」「肉体的苦痛がないように」「平安で楽しくあるように」という4つを念じます。

他人に念を向ける場合は、「白遍」などの第四禅の光(ニミッタ)を現しながら、その光を放射し、前方1メートルくらいに、その光の中に対象を見ます。 

また、対象を広げて、最終的には、5種類の無限低の遍満(一切の有情、一切の命ある者、一切の生物、一切の個人、一切の個体)と7種類の限定的遍満(一切の女性、一切の男性、一切の聖者、一切の凡夫、一切の天神、一切の人類、一切の悪道衆生)に対して、先の4つの念を拡大させ、それぞれで10の方向に遍満させます。

ですから全部で12×4×10の遍満を行います。

同様に、「悲心観(悲梵住)」の場合は「苦痛から逃れられるように」、「喜心観(喜梵住)」の場合は「得ることができた成果を失うことがないように」念じます。

「捨心観(捨梵住)」の場合は、先の3種類の梵住の弊害が感情的な作用に近いことを考えて、「この人は自分が作った業の受け取り人である」と念じます。

前の3梵住では第三禅(第四禅)、「捨心観」では第四禅(第五禅)まで行います。

仏随念

「仏随念」においても、まず、「白遍」や「安般念」の四禅に至ります。

そして、そのニミッタの光の中に仏の像を思い描き、「阿羅漢、阿羅漢」と念じます。

集中が高まれば、仏の姿は消失し、仏の功徳に集中します。


ヴィパッサナー(観)


先に書いたように、パオ流での「観」は、「止」として「安般念」の第四禅(第五禅)まで到達してから行う場合と、「四界分別観」を行って近行定まで到達してそのまま「観」を行う場合があります。

ここでは、パオ流の「観」は「清浄道論」をベースにしていますが、中でも、詳細なアビダルマ哲学に沿ったパオ流の特徴が良く出ている、「名色分離智」とその前段階の「四界分別観」を取り上げます。

四界分別観(四界差別)

「四界分別観」は身体が四大に過ぎないことを知る瞑想法です。

「清浄道論」では「四界分別観」は「止」に分類され、様々な方法が説かれています。

パオ流では、まず、身体のある部分で、その後に全身の各部位において、四界の12の特徴を識別します。

具体的には次の通りです。

・地界:硬さ、粗さ、重さ、柔らかさ、滑らかさ、軽さ
・水界:流動性、粘着性
・火界:熱さ、冷たさ
・風界:支持性、推進性

最初のどの部分で感じるかは、例えば、次の通りです。

・推進性:呼吸する際の頭部中央
・硬さ:歯
・粗さ:舌で歯の先端
・重さ:ひざの上に置いた手の重さ
・支持性:直立した時の直立させる力
・柔らかさ:舌で唇の内側
・滑らかさ:舌で湿らせた唇を
・軽さ:指を上下させて
・熱さ:全身
・粘着性:皮膚、筋肉、腱など
・流動性:唾液

次に、12の特徴を四界にまとめて識別します。

集中が増して近行定に近づくと、「ニミッタ(禅相)」の光が現れます。

透明な光の中の空界の中に「色聚(ルーパ・カラーパ)」を識別します。

この段階に到達することを「心清浄」とします。

ここまでは「止」です。

名色分離智

次の「色聚」の中の色法を分析する段階からが「観」です。

「観」の階梯は「清浄道論」と同じですが、全体を通して獲得される智を「十六観智」と数えます。

「名色分離智」、「縁摂受智」、「思惟智」、行道智見清浄の10智、「道智」、「果智」、「観察智」です。

「観」の最初の段階の「見清浄」でで得られる智は「名色分離智」ですが、細かくは、次の4段階があります。

1 色摂受智:すべての色聚の中の色法を識別
2 名摂受智:すべての名聚の中の名法を識別
3 名色摂受智:名色を一緒に識別
4 名色分別智:名色だけがあることを認識

1、2の法の識別は、アビダンマ哲学に沿って、細かく分類された色法、名法をすべて識別するものです。

ですから、アビダンマ論の知識が必要です。

1の色法の識別は、簡略的な方法では、六処門(5つの感覚の精神作用と、法を対象とする意識)の中の「色聚」の中の色法を順次、識別します。

詳細な方法では、身体の四十二部分の中の色法を順次、識別します。

具体的な方法はとても細かくなるので、省略します。

2の名法の識別は、基本的には、「六処門」別に「心路過程」を識別し、その心刹那(刹那の様々な心)の中の名法を識別していきます。

つまり、感覚ごとに、刹那で生滅しながら連続していく心の中を観察します。

刹那の心は、無意識(有分)の状態から意識的に対象を認識して、また無意識に戻るまでの一瞬毎の心の作用を分析したものです。

心刹那は具体的には下記のようになります。

・禅定  の心路過程: 意門引転→遍作→近行→随順→種姓→禅定
・欲界意門の心路過程: 意門引転→速行心→彼所縁心
・欲界五門の心路過程: 五門引転→五識→受領心→推度心→確定心→速行心→彼所縁心

「引転」の前に「有分心」→「有分動揺」→「有分遮断」が、最後にも「有分心」があります。

各々の心の中には最大34の名法があります。

具体的な方法を簡単に説明すれば、次の通りです。

まず、意門(意識)の禅心路過程(具体的には初禅速行心の五禅支)を識別することから始めます。

「安般念」の初禅に入った後、そこから出定します。

そして、有分の中の似相を識別してから、一瞬毎の心を観察します。

その中の名法を、蝕・受・識のいずかから識別します。

最終的には、各心刹那の中に12~34の名法を識別できるようにします。

そして、名法としての、対象に向かう性質を認識します。

その後、第二禅から第四禅まで、同様に識別します。

その後、「安般念」以外の「止」の瞑想で、同様の識別をします。

次に、六処門の欲界の心路過程を識別していきます。

まず、法を対象とした善心から識別し、後に概念を対象とした不善心を識別します。

まず、意門から識別し、後に五門を識別します。

各心刹那の中の最大34の名法を識別します。

最後に、自分以外の外の名法を識別します。



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