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日常を裏切りたくなる瞬間ーー『ちひろさん1-9』を読んで

 安田弘之著 秋田書店 2014年出版

 近所の本屋さんでおもしろそうだから一巻だけ購入して、続きが気になったから全巻セットをメルカリで購入して読破した。

 元風俗嬢のちひろさんが、お弁当屋さんで働いていて、そこで出会う人びと、子どもや女子中学生、弁当屋の奥さんなどと交流というか関わって日常生活で起きる出来事が描写されている。ちひろさんが独身女性で、仲のいい友達は、バジルさんという不思議な人。まわりからは結婚しろとか言われるけど、余計なお世話、風俗嬢やってきたり、いろんな世の中見てるから、ものの見方が達観している。ふとした発言がなかなかふつうの人には言えないセリフを言う。そこになかなか爽快な風が吹いている。

 このマンガ、なんていうか、非日常の場面を描いてるというか、主人公の女性が一般的でない女性なので、どのストーリーも毎回違った物語性がある。元風俗嬢が一般的でないと言ってるわけではないが、元風俗嬢が弁当屋に勤めながらも、何事もない「ふつう」の生活を求めつつも、その日常からふとした瞬間脱け出したくなるような、裏切りたくなるような、一人酒を楽しみたくなるようなそんな女性が描かれているのである。どうしてそうなるのかは、誰も聞けない。彼女の中に潜む孤独なのか、それでいて、人の面倒見がよく、みんなに好かれることに疲れてしまうのか。

 こういう結婚してない訳あり女性をもっと世の中の人たちは白い目でみるんじゃないか、と思いつつも、元風俗嬢の気丈な姿が描かれているともいえる。こういう女性を主人公にしたマンガはあんまりない。最後の終わり方もなかなかフリーダムでよかった。ちょっと、カポーティの『ティファニーで朝食を』の原書を思い出させるような、女は自由に生きていくの、的なメッセージを感じた。

 このマンガは、30代、40代の人生ちょっと考え直してみたい女性におすすめ。


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