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児童書研究の新しい試みーー飯田一史著『いま、こどもの本が売れる理由』を読んで

 飯田一史著 筑摩選書 2020年出版

 児童書の版権扱う仕事に応募したとき、この本読んでおこうと思って購入した本。児童書はロングセラーが多いが、最近出版された本でも、バカ売れしてるのがある。図書館で働いていた時、なんでこんな本が貸し出し予約がつきまくってるんだろう、と思った本がだいたい取り上げられてた。

 児童書に関係する本でこういうタイプの本は珍しい。でも、言葉の選び方とか、たまに引っかかるところがあった。自分に子どもができたから、こういうことに興味がわくようになって本を書いてみようと思った、って書いてあったけど、それだけの理由で、これだけのリサーチができるの、ってそれだけ、本を書ける能力があるんだな、と思った。具体的に自分の思ってることを文章化するという努力じゃなくて、この本はいま売れてる児童書についてのリサーチ能力が物を言ってる本だな、と思った。

 飯田一史というこの本の著者は私と同じ年で、ライターだそうだ。

 ゾロリとか銭天堂とか、一期一会とか、サバイバルシリーズだったり、図鑑のNEOとか私が今まで本に携わってきたなかで、なんでこの本が売れるんだろ、とおもってた疑問がよく溶けた気がする。

 思ったのは、このような本は作者が書きたいと思った本を書く、というよりも、出版社がどんな本作ったら需要があるか、を、徹底的に分析して編集して、その結果売れるんだな、と思った。よく考えられている。売れるにはどうするか、ということが。

 最後に面白かったのは、中国の児童書産業についてである。中国は製本技術がなくて、半紙の薄っぺらい本だけしか90年代初頭まではなかったが、日本からポプラ社が「絵本」という言葉とともに売り出したらしい。でも、中国は進みだすとすごい勢いで進化するので、日本の本を出版する鍵を担ってる国なんじゃないかな、と思った。児童書市場は、やはりこれから、中国を意識するべきだとおもった。ちなみに、サバイバルの本は韓国からの輸入で、ゾロリは台湾とかでも出版してるらしい。

 リサーチだけで、これだけ書けるのっていいなと思ったけど、ロングセラーの本がなぜ長年愛されるのか、とかの分析は全くなく、児童書研究の新しい試みの本だなと思ったけど、今一つ足りない感じ。私はどんな本が理想的だとおもってるんだろうか。


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