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字幕付プラネタリウム、再び!

以前から(プラネタリウムとか講演で)字幕を付けることを実践しているディスカバリーパーク焼津のお話です。ディスカバリーパーク焼津天文科学館は、静岡県焼津市にあります。

今年も字幕付きプラネタリウムが行われました。今回は焼津市・大井川町合併10周年記念事業ということで、焼津出身の電波望遠鏡製作者である法月惣次郎さんをテーマに取り上げた番組「宇宙からのメッセージ」を字幕付き投影しました。

1.法月惣次郎さんとは

天文科学館のHPに解説がありますが、多くの電波望遠鏡を製作し、職人としてその発展を支えた方です。1968年 名古屋大学空電研究所で稼働していた太陽電波望遠鏡が、ディスカバリーパーク焼津に展示されています。350台あまりのパラボラ製作に関わり、今でも全国で稼働しています。

ちなみに、この望遠鏡には、しっかり銘板が打たれていました。

2.方針・構成

今回の投影も、

①全体説明
②星空解説 「今夜の夜空」
③CG作品 「宇宙からのメッセージ」

という流れで構成されました。そして、今回のポリシーとしては

・全員が楽しめるように字幕を付ける(なるべく全部!)
・聞き取りをサポートするためヒアリングループをつける

この方針だけはブレずにやっていこう!ということで、準備をすすめました。

今回の企画も 焼津市難聴者・中途失聴者の会(望月美香 代表)から提案があったのもあり、ヒアリングループの設置などは会メンバーがサポート、字幕は静岡福祉大学が後援することになりました。

3.事前準備

星空解説は生ものなので、リアルタイムで出すとしても、CGは台本が決まっているし表現方法に工夫ができるので、事前台本をつくることにしました。

ディスカバリーパーク焼津で使っているプラネタリウムシステムはコニカミノルタのジェミニスターIIIですが、CG作品データは必要に応じて動画で書き出すことができます。

このデータをつかって、事前台本をつくります。製作には、メディア・アクセス・サポートセンターが開発する「おこ助」が最適です。

業務利用なら、おこ助Pro3 一択ですが、条件があえば、無償バージョンの「おこ助Community」という選択肢もあります。

ここで書いたデータは、oxk形式というファイルになります。このファイルを、静岡福祉大学太田研究室が開発した運用ソフトウェア「まあちゃん2017」に読み込ませると、CGに合わせて再生できるようになります。

ちなみに、役者台本があったので、製作にかかった時間はとても短かったです。(25分番組で、セリフが200行ぐらいですが、1回目のリハーサルまでに費やした時間は2時間ぐらいでしょうか。コメダ珈琲でコーヒー飲みながらPCで調整する、ぐらいの時間で終わってしまいます。)

4.投影リハ―サル

実際に字幕を投影するには、

・映像作品に字幕を埋め込む
・字幕を重ね合わせる方法を考える

という選択肢を選ぶことになりますが、当然字幕の埋め込みは作品を作るときにやらなければならないし、製作費が嵩みます。

なので、今回も「字幕を重ね合わせる」方法を用いてやってみます。

この方法のメリットは「比較的に簡単で安価にできる」ということですが、デメリットは「字幕の投影位置に制約が発生する」ということです。

ひとまずスイートスポットの下側を狙いました。今回の作品ではどうしても映像作品と被る場所がでてきて、この方式の難しさも見えてきます。まぁ、ここをなんとかクリアしていくのが、リハーサルでのお仕事ですね。

実際にリハーサルした感じは、ディスカバリーパーク焼津のツイッターでも伝えられています。

実際には、こういう感じで重なってしまうし、プラネタリウム投影機材に字幕プロジェクタの光が被って入ってしまうなどの配置制約もあり、プロジェクタを持ち上げたり、傾けたりして調整しています。

今回も、プロジェクターの光が明るすぎて、黒部分が目立つので、赤いフィルムで淵をけすことにしました。

こんな感じでリハーサルが終わったあとは、収録音声と役者台本の違い、音声言語のニュアンスを字幕に落とし込むなどの「より伝わりやすい字幕」に直していくことになります。

役者さんが想いを込めたときに台本通りに話していないことも多いです。また、「質問している」ケースなどでは、文末に?をつけるなどで表現しないとわからない、音声を聞かないと読み方がわからない難解な言葉…など いろいろ手を入れるところがありました。

5.本番

今回、本番前につかえる時間は15分しかありませんでした。前回のプラネタリウム投影回との間があまり空いてないのは、来てくれたお客さんを待たせず、できるだけたくさん・色々みてもらおう、という天文科学館側の努力だったりします。

さて、今回はこんな形で設営することにしました。

ミキサーはプラネタリウムに常設のもの、ヒアリングループは持ち込みです。リアルタイムで字幕化するのにUDトークがはいった携帯電話をもちいています。その表示は、プロジェクター出力ケーブルをつないだUDトークをつかいます。

CG作品の字幕データは、まあちゃんから送信します。その字幕を表示するのは、おと見がはいった携帯電話です。この携帯電話にプロジェクター出力ケーブルをつないであって、星空解説と映像作品が切り替わるタイミングで、ビデオミキサーを操作することにしました。

ホントは、ビデオミキサーみたいな高価な機材がなくても運営できるんですが、この組み合わせにしたのは、私の運営ポリシーによるものです。

・本番では何が起きるかわからないから突発対処可能な構成にする。
・エンタテインメントとして、その場の空気を大切に、演出を最大化する。

とくに、ビデオミキサーは、端末トラブルで字幕が出なくなった時にプロジェクターの起動画面とかエラー画面を出さないよう、黒画面を維持したまま、裏で復帰操作ができるので、大変重宝しています。今回もそのあたりを実現するために使いました。

会場の外では、ヒアリングループ用に受付が開設されました。

ヒアリングループ対応の補聴器があれば受信機はなくてもOKですが、すべてが対応しているわけではないので、受信機を手渡しています。写真の受信機はソナール社製のものです。

会場入り口では、チケット販売もありました。今回は「特別な上映」ということになっていますが、これが定着して「いつもできる普通の上映」という形になればなーと感じています。

そして、今回星空解説をしてくれる、解説員の松永さん。今回の解説字幕に利用する「リアルタイム音声認識システム UDトーク」を片手に、「みんなに伝わる方法」を一生懸命練習していたのでした。

さて、こんな流れで準備をしながら、本番を迎えます。実は、星を出すときには周りが(本当に)真っ暗になるので、パソコンの光すら、場を壊す要因になります。なので、パソコン画面は「ハイコントラスト画面」設定にしてから…

パソコンの画面に赤いフィルムをはって、光が漏れないようにしました。

ちなみに、ダイソーに取り扱いがあるフィルムが割と手軽に使えてよかったです。

6.結果

47人の方に星空を見て頂くことができました。今回、字幕と誤字修正ふくめてワンオペ(1人ですべてオペレーションする)でしたので、少しセカセカうごいてましたが、なんとかイベントを完遂できました。

参加された方の評価は下記の通りでした。少なくとも約7~8割の方に大きな不満なく鑑賞いただけたのかな、と思います。

(1)今夜の星空解説
①たいへん良かった・良かった 78.6%
②ふつう 10.7%
③良くない 0%
④未記入 10.7%

(2)CG番組「宇宙からのメッセージ」
①たいへん良かった・良かった 60.7%
②ふつう 14.3%
③良くない 0%
④未記入 25%

今回よかったコメントとしては、

・わかりやすくてよかった。
・説明が聞こえずプラネタリウムはあきらめていたので、夢が叶った。
・字幕付により難聴者の人も楽しむことができてよかったと思う。
・今後も字幕付プラネタリウムを実施していただきたい。
・子供も寝ることなく、最後まで興味をもって見ることができた。

という感じです。反省点コメントとしては、

・字幕は良かったけど、遠近両用メガネはちょっとつらかった。
・字幕と映像が重なったところが見えにくかった。
・字幕と星空を見るのに忙しく、落ち着いて見れなかった。

ということでした。字幕投影位置を下げたことで、見る範囲と焦点距離に開きができて読みづらかったり、行ったり来たりするのがつらかった、ということです。字幕の重なりは、映像(CG)作品との折り合いがつかず、どうしても合わせられなかったところの部分でした。これはプロジェクターの配置や、「動的に投影位置をかえる」などの工夫をする余地はあるので、今後もトライしていきたいと思います。

<参加した方からの感想>

「宇宙からのメッセージ」を字幕付きで楽しむことが出来た。アレジーと法月じいのやり取りの会話はわかりやすかったです。5歳の孫は寝てしまう事もなく、最後まで興味深そうに見ていました。漢字は読めてなくても宇宙の疑問や人にできる事はいっぱいあることに気づいたのかなと。地元出身者の誇れるお話しだっただけに、さわやかクラブの人にお声を掛ければ良かったかなと思いました。字幕が付くことできっと楽しめたはずだから・・・字幕付き投影のプログラムが今より増えるといいですね。
(シニアの男性より)
始まった時に字が大きすぎると思いました。でも、映像と一緒になった時、迫力のある映像にはこの大きさで良いのだと思いました。ただ、年寄りには文字が上がっていくのが早すぎて、書いてあることが理解できないうちに消えてしまうのが残念な気がしました。行っても聞こえないのではおもしろくないと思っていましたが、初めて観ることができました。分かるって良いと思います。うれしい体験でした。
去年に続いて2回目の視聴でした。驚くほど時間のたつのが早く、あっという間に終わってしまいました。もっと見ていたかったです。聞えないままこれを見ても感動は薄いと思いました。字幕がついて夢のような時間を過ごすことができました。
生解説の音声認識が思った以上にスムーズでした。話し手の癖やイントネーションで認識がしにくい言葉もあったようですが、訂正がなくても充分理解できると感じました。最初に投影された場所が映像と重なって「アッ」と思いましたが、すぐに移動され、字の大きさやゆがみが即座に修正されて安心してみていることができました。字の色が最初は気になりましたが、映像と合わせてみるのには疲れにくい色なのだと終わってから気づきました。全く疲れなかったです。素晴らしい字幕でしたが、全てが聞えるわけではなくても耳からの情報があって、目からの文字と映像の情報があってすべてが一つになって心に響いたと思います。
・ナレータは、ゆっくりと聞き取りやすい話し方で安心できた。
・字幕は、簡潔で理解しやすかった。
・私は、補聴器があれば、ほぼ聞こえますが、聞き取りにくい単語のときに、字幕が助けになり、理解ができ安心しました。
・字幕の位置は、星座の邪魔にならないので、聞こえに自信がなくなってきた高齢の方が、家族といらしても十分に楽しめると思いました。
・障害のありなしかかわらず、すべての方に利用して欲しいと感じました。
・上映時間がちょうど良かったので、是非、定期上映にしていただきたいです。

<星空解説員さんからの感想>

自分自身の声が、リアルタイムに認識されて文字として表示されるということで、はっきりとしゃべるように心がけました。星座や神話の登場人物などの名前、「投影(とうえい)」などのプラネタリウム独特の言葉などをあらかじめ登録していただきました。おかげで、ほとんどの言葉は、そのまま表示され、ほっとしました。ちょっと意識しすぎて、喋りがゆっくりになったり、言葉に変な抑揚(スピード変化も)がついてしまったりしたところは、??な表示になってしまったのが投影者としての反省点です。技術の高さには本当に驚かされました。(松永 歩)


7.こんな奇跡が!

実は、今回の星空解説に、法月さんのご家族がきてくださいました。今回の映像作品は法月惣次郎さんがテーマの作品でしたが、そのご家族に字幕付きで見て頂くことができて、感無量でした。

(左から、館長、焼津市難聴者・中途失聴者の会メンバー、静岡福祉大学 森、法月さんのご家族、解説員 松永さん、企画進行 平濱さん)

8.最後に

継続的に字幕がついたイベントを開催いただいている「ディスカバリーパーク焼津」のみなさま、ありがとうございます。

ディスカバリーパーク焼津における実証の結果、もはや、字幕は普通に投影できることは証明できました。しかしながら、今いる限られたプラネタリウム運営スタッフが追加作業なく簡単に実現できる・・・という境地に至るまでには、もう少し準備が必要であることも見えてきました。

今回は「字幕付プラネタリウム投影」という特別イベントとしての上映でしたが、館長さんとお話をしていくなかで、「字幕が特別なことではなく、普通につけられる」ように、このような活動の継続方法を模索していくことになりました。

現段階では年1回ペースですが、提供品質や運用方法を模索し、「字幕投影回が普通に運用できる未来」にむけて、ディスカバリーパーク焼津と静岡福祉大学太田研究室、関連団体・企業と手を携えながら実現していければと思います。

お問い合わせについて

・字幕投影プラネタリウムに興味があれば、ディスカバリーパーク焼津天文科学館へお問い合わせください。反響があるほど、次のステップに繋がりやすくなります。

・字幕運用に関するシステム・技術的なお問い合わせ、文字訂正・字幕配信システム「まあちゃん」の問い合わせは、静岡福祉大学内 太田研究室宛てにどうぞ。

・焼津市内におけるヒアリングループの設置、難聴に関するご相談は、焼津市難聴者・中途失聴者の会へどうぞ。技術的な話、購入依頼は、ソナールへどうぞ。

・音声認識システムUDトークについては、UDトークのHPより情報を得てみてください。

・字幕製作システム「おこ助」、受信システム「おと見」については、メディア・アクセス・サポートセンターへお問い合わせください。


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