映画「パーフェクトデイズ」考察〜主人公・平山の最後の表情が意味すること〜 本当のPerfect Daysとは?

最後の表情をどう解釈するか?

この映画には大きく分けて2つの見解ができると思う。
1つはポジティブな見方。
トイレ掃除を仕事にする主人公の平山。その1日は至って平凡で毎日同じことの繰り返し。朝起きて髭を剃り、盆栽に水をやり、いつもと同じ販売機から缶コーヒーを買い、仕事場である東京各地のトイレに出勤。同じ場所で昼食のサンドイッチと牛乳を飲み、木漏れ日をアナログカメラで撮影する。仕事が終わると銭湯に行き、同じ居酒屋で食事をし、本を読み、就寝。週末になると洗濯物をして、撮り溜めた写真を現像、お気に入りのママがいるパブで飲みに行く。こんな繰り返しの毎日だが、少しずつ変化があり、その変化に平山は喜びを感じる。トイレ掃除という一般的には汚く誰もやりたがらない仕事をして、この生活に満足している。そんな特別なことがない何気ない毎日がPerfect Daysだということ。この見方をすると、エンドロールに後に出てくる木漏れ日の説明文にも納得がいく。

ここからは私が最も書きたいネガティブな見方。物語中、平山が毎日起こる小さな出来事に微笑むシーンが多々ある。

それはこのシンプルな生活に満足しているかのような笑顔にも見えるが、実はそうではないのではいか?という見方。

私がこの映画で好きなところは、物語が進展しそうなフラグがあると、全てへし折られ、すぐに平凡な毎日に戻ってしまうところである。いい意味で視聴者の期待を裏切っていく。例えば、
・ある日トイレで見つかるOXゲームが書かれたメモ用紙
・突然平山のほっぺたにキスをする20代の若い女性
・他の常連客より明らかに平山を特別扱いをするパブのママ
・同僚が仕事を辞めててルーティンが崩れ、シフト担当者に声を荒げる平山
・姪っ子や姉の登場

お?メモ用紙の人と新しい出会いがあるのか?まさか20代の女性と恋に落ちるのか?平山はパブのママのことが実は好きなのか?平山の過去や家族関係がついに明かされるのか?と視聴者は期待するだろう。

ところが何もおこらない。

・ OXゲームが終わると、平山はそれ以上手紙を残さないし、メモを残した人物が誰なのかわかることもない
・20代の女性とはそれっきり、以後登場しない
・同僚が辞めた次の日人員が補充されてまたいつもの日常に戻る
・関係が悪くなった家族との関係も修復されないし、平山の過去もあかされない

大体の視聴者は、映画の中で何か問題が起きたらそれを解決して終わりを迎える期待する。ところがこの映画ではその期待をいい意味で裏切り、何も起こらないし、何も説明されない。

でもそれが現実に近いのかも。

人生何か大きな転機なんてそうそうやってこないし解決もしない。

終盤、平山の数少ない趣味と思われる写真の分別を途中で辞めてしまう。平山は毎日木漏れ日を撮影し、その写真を何年も撮り溜めている。毎日繰り返しの生活の平山にとって、写真は変化であり、毎日を生きている証拠のように思う。だけどそれをやめてしまう。本当に自分のやっていることに意味はあるのだろうか?と疑問に思ったのではないか。
また別のシーンでは平山が空き地に通りがかる。その空き地を見た老人が、昔その場所に何があったか思い出せないという。毎日見ているはずのものが突然なくなってもすぐに忘れられてしまうのだ。それをみた平山は、自分自身を空き地に重ね合わせてしまったのではないか。
その後、平山がいつものパブに行くとパブのママと元旦那が抱き合っているところを目撃してしまう。動揺した平山は川辺に行きハイボールを飲む。そこに元旦那がやってきて、自分が癌であることを平山に明かす。元旦那は「影と影を重ねると影は濃くなるのかな。結局、なにも分からないまま人生を終えるのだ」と呟く。平山は強い口調で「いや、濃くならないわけがない」と反論する。濃くならなかったら、自分がやっていることは何も意味がない、無価値である、と存在を否定されていると思ったのではないか。

次の朝、平山は職場に向かうため車を運転している。その表情がなんとも言えない。目が赤くなっており少し腫れぼったいようにも見える。もしかしたら昨晩から泣いているのかもしれない。朝日を浴びながら、涙を堪えたような表情をする。時々悲しそうな、嬉しそうな、なんとも言えない顔を視聴者は5分くらいみさせ続けられ、映画が終わる。

平山の表情の真意は、ポジティブとネガティブのどこか中間にあるかのようにおもう。自分の生活に満足して、幸せを感じる部分も当然ある。一方で、人並みに恋愛して家族を作りたい、人に蔑まされない別の仕事がしてみたい、人生に対する後悔や、この先歩めない人生に対する不安、悲しみ、絶望感も含まれているのではないかと思う。平山の笑顔は時々自分を偽っている笑顔に見えた。

途中姪っ子が登場する時に、説明じみた臭いセリフで急にチープに感じる場面もあったり、平山が素朴な生活を送りつつもほぼ毎日外食して銭湯に行き、ボロアパートに住みつつそのアパートは2階含めて3部屋あることから意外に生活費がかかっているのではないかということが気になったが、最後の役所広司の絶妙な表情で全て解決した。

スローな映画なので、映画館のような静かで暗い場所で集中してみるのが良いと思う。



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