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【1分小説】面倒なふたり

お題:面倒なカノジョでごめんね
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
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 赤の他人同士が付き合う以上、彼にしたって彼女にしたって、お互いを面倒な人間だなあと思う瞬間はたくさんあるのだ。
 待ち合わせ時間に一秒でも遅れると機嫌が悪くなる彼、デートに着てきた服の感想をしつこく彼に求める彼女、水族館の売店でお土産は絶対お揃いにすると譲らない彼女。
 普段は真人間を気取っていても、そうやって彼彼女の前で面倒くさい人間になっちゃうのは、やっぱり相手のことを好きだからなんじゃないの。

「そういうものなんですか」
「そういうものなんじゃないの」

 あかしろきいろみどり。私は後輩と一緒に色とりどりのビーズを吟味している。傍から見れば女と男が連れ立っているというのに、昔ながらの手芸用品店には、なんとも色気のない昭和歌謡が流れている。

 なんで手芸部なんか兼部しているのだと百回問いただしたい我が手芸部の後輩が、ビーズから目を離して私の方を向いた。浅黒い肌とスポーツ刈りの髪は、いつみても手芸用品店では浮いて見える。

「先輩」
「山城でいいよ。どうせこの部活、私たち二人だけなんだし」
「山城さんは真人間ですね」
「えー、どういう意味」
「面倒くさい人間じゃないです、俺にとっては」
「そりゃそうだよ、そういうのはカップルだけだって言ったでしょ」
「えっじゃあ俺は? 俺って先輩、いや山城さんにはどう見えてます?」
「うるさいなあ。今日はさっさと材料買って帰んないといけないんだから」

 あーあ、一人で部活していた方が楽だったのに。面倒な後輩が入ってきてしまったものだ。