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ばあちゃんの日の丸弁当が日の丸じゃなくなった日

「お前もっと機転を利かせろよ!」

社会人になりたての頃は、マニュアル通りの仕事しかできなくて、こんなことをよく上司に言われていた気がする。

機転が利くとは、臨機応変に対応し、柔軟に状況を判断して適切な行動を取る能力を意味するらしい。
これを調べた直後、ふと私のばあちゃんの日の丸弁当を思い出した。

私は幼い頃に両親が離婚し、父子家庭で育った。
父方の祖父母は私をとても可愛がってくれて、私にとって祖父は父でもあり、祖母は母でもある。
大人になった今では祖父母にはとても感謝しているが、思春期の子供にとっては母がいないことで嫌な思いをしたことは多々あった。

その一つが小学生時代のお弁当だ。
当時はキャラ弁ブームまっただなかで、お弁当の時間は友達同士で母お手製のキャラ弁を見せ合いっこするのが流行っていた。

私のお弁当はキャラ弁ではなく、ばあちゃんお手製の日の丸弁当だった。
キャラ弁見せ合いっこが流行ると、日の丸弁当が目立つようになったため、いつも弁当箱の蓋で日の丸弁当を隠しながら急いで食べていた。

日の丸弁当とは、ご存じ、白米のまん中に梅干を1つのせた弁当だ。
梅干しはばあちゃんの手作りで、一粒あればご飯3杯いけるくらいしょっぱい。
台所のシンク下収納の大きな壺に保存されており、物心ついたときから継ぎ足しの秘伝のタレのごとく、毎年梅と塩が追加されていた。

ある日のお弁当の時間、ついに友達から
「お前いつも日の丸弁当だな」
と言われ、とても恥ずかしくなり、耳が赤くなった。

帰宅後、ばあちゃんに泣きながら
「もうばあちゃんの弁当はいらない。日の丸弁当なんて恥ずかしい」
と弁当箱を投げつけた。
明日からコンビニで買ったおにぎりを持っていこうと心に決めたのだ。

翌日もばあちゃんは弁当を作っていた。
「ばあちゃんの弁当はもういらないって言ったじゃん」
とつっぱねたが、ばあちゃんは
「もう日の丸弁当じゃないから持っていきなさい」
と言うので、ばあちゃんの弁当を持って登校することにした。

その日ばかりは久しぶりに弁当の時間が待ち遠しかった。
日の丸弁当じゃないとすればなんだろう。当時はのりたまや大人のふりかけが流行っていたので、ふりかけかなとワクワクしていた。

いざお弁当の時間、弁当箱を恐る恐る開けると、そこにあったのは日の丸弁当ではなく、

白米の真ん中に梅干を2つのせた弁当だった。

すぐに蓋で隠して梅干しをぐちゃぐちゃにつぶし、日の丸弁当にして食べた。

帰宅後ばあちゃんが満面の笑みで
「日の丸弁当じゃなかったでしょ」
と言ってきたのを最後に、なんだかばかばかしくなってそれ以降は特に文句を言うこともなく弁当を持って行くようになった。

今思えば、裕福な家庭環境ではなかったので、毎日お弁当を作るのも大変だったと思う。
今ある食材で、日の丸弁当にしないためにはどうしたらいいかをばあちゃんなりに機転を利かせた結果が梅干しを2つのせることだったのかな。

社会人になって10年くらい経ったけど、機転を利かせるということがなんとなく分かってきたよ。ばあちゃん。

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