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破壊の形而上学 基本テーゼ (ver. 0.9)

レクチャーシリーズ「破壊の形而上学へ」では、カンタン・メイヤスー、グレアム・ハーマン、カトリーヌ・マラブー、ジャン=ピエール・デュピュイ、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドなどの哲学者を取り上げ、〈破壊〉概念を練り上げてきました。

以下に列挙したのは、〈破壊の形而上学〉の基本テーゼ暫定版です。

破壊の形而上学 基本テーゼ1
破壊とは、通時的な連続性を引き裂く断絶である。

破壊の形而上学 基本テーゼ2
破壊がもたらすのは、現在と断絶した他なる未来である。

系:破壊は、望ましくないものをもたらすことも、望ましいものをもたらすこともある。無秩序をもたらすことも、他なる秩序をもたらすこともある。

系:ギリシア語「カタストロフェ」は帰結の良し悪しを問わないという点を想起せよ。

破壊の形而上学 基本テーゼ3
破壊とは、それ自体において到来する受動的な出来事である。

系:破壊は破壊する主体と破壊される対象の二項を必要としない。破壊は基本的に一項で完結する出来事である。

破壊の形而上学 基本テーゼ4
破壊とは、あらゆる存在に到来しうるものである。

系:個々の人間や事物、世界、自然法則、論理法則、形而上学的構造など、あらゆる存在に破壊が到来しうる。

破壊の形而上学 基本テーゼ5
破壊には、さまざまな強度がある。

系:同一性・連続性を保持した弱い破壊もあれば、現在からはまったく想像不可能なありさまへと変貌する強い破壊もある。

破壊の形而上学 基本テーゼ6
日常語の「破壊」は、以上の一般的・形而上学的な意味における〈破壊〉の特殊事例である。

破壊の形而上学 基本テーゼ7
破壊の形而上学とは、破壊を一般的な意味で捉えたうえで、その強度を最大化する方向へと向かう思弁である。

破壊の形而上学 基本テーゼ8
最大強度の破壊とは、いかなる理由もなしに不意に到来し、まったく想像不可能な未来をもたらすものである。

系:たとえば、とつじょ到来する論理法則の崩壊は、最大強度の破壊の一事例である。

破壊の形而上学 基本テーゼ9
破壊は〈神なしワンチャン救済/破滅〉をもたらしうる。

系:破壊によって、とつじょいかなる理由もなく、現在とはまったく無関係な圧倒的ユートピアが到来するかもしれないし、あるいは破滅的事態が到来するかもしれない。そこに、神の作用は必要ない。たんにそうなるのである。

破壊の形而上学 基本テーゼ10
破壊の形而上学は、あらゆる形而上学的構造の破壊可能性を提示する形而上学である。

系:一般に形而上学は、世界の必然的な根本構造を提示する。破壊の形而上学は、それが破壊され、まったく別様になる可能性を提示する。形而上学のカタストロフィを語る形而上学。

系:物質と精神の二属性から成る、という構造が破壊され、779個の属性から成る世界が到来するかもしれない。

系:現にこの唯一の〈私〉から世界は開かれている。この独在的構造 (永井均) が破壊され、同時に15532個の〈私〉から開かれている世界が到来するかもしれない。

破壊の形而上学 基本テーゼ11
破壊とは、いかなるものをも過ぎ去らせうる時間である。

系:一般に形而上学は、垂直的断絶 (深層と表層の差異) を提示する。破壊はこれを水平的・通時的に押し流し過去化しうる。

系:カンタン・メイヤスーの「あらゆるものを滅ぼすことも生じさせることもできる時間」に関する議論を想起せよ。

破壊の形而上学 基本テーゼ12
退屈とは破壊 (=新しさ) の不在であり、破壊とは退屈からの解放である。

系:退屈の解消法。繊細な差異を受け取れるように主体の感性をチューニングするのではなく、巨大な差異をもたらしうる世界そのもののについて思弁せよ。最大強度の破壊可能性を思弁することにより退屈を引きちぎること。


Index Image by Paolo Celentano on Unsplash


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