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読書の記録(39)『ヒロイン』桜木紫乃 朝日新聞出版

手にしたきっかけ

好きな作家さんの本は気になる。図書館で過去のものを借りてきたり、本屋で新刊を見つけて読む。今回読んだ『ヒロイン』もそうて手にした1冊。

心に残ったところ

1995年。私は大学生だった。大阪の実家から大学へ通っていた。阪神大震災の日、大阪の家もかなり揺れたが、被害はなかった。何が起きたのかわからないまま、京阪電車は動いていたので、とりあえず大学へ行った。確かテスト中で、とにかく行かなくてはと思いていた。着いてみたら、多くの電車が動いておらず、休校になったことを知った。そのあと、じわじわと報道で大変なことになっているとわかってきた。

同じ年の3月。サイクリング同好会に入っていた私は九州へ春合宿に行っていた。大阪からフェリーで鹿児島へ渡り、陸路を自転車で北上し、別府からフェリーで大阪へ戻るという行程だった。

合宿中はキャンプ生活なのでテレビもほとんど見ないし、新聞も読まない。ニュースに触れることもほとんどなかった。大阪に帰ってきてから、「東京で大変な事件が起きた」(地下鉄サリン事件)と知った。当時どんな報道がされていたのか、全くわかっていなかった。そのせか、この事件が後で気になり、いくつか本も読んだ。

ノンフィクションなんだけど、その時代を知っているので、まるでフィクションようにぐいぐい迫ってくるものがあった。プロローグで物語の結末を知っているのに、最後の方は「逃げて!」「今、荷物をまとめて出て行けば、まだ間に合うのでは」「もう、いいのかなぁ」などと思いながら読んだ。

私はバレエに縁がない。自分が子どもの頃に習っている子も仲が良かった友達にはいなかった気がする。私が興味がなかったから、気がついていなかっただけかもしれない。だからなのか楚々としたたたずまいのバレエダンサーに漠然とした憧れがある。顔が小さくて手足が長く、しなやかな感じ。華奢ではかなげな感じ。自分にはないものを見て、憧れる。ただ、あの体型を維持するのがどれだけ大変なのか、あまり想像していなかった。

バレエは他の習い事とはちょっと違う気がする。すごくお金がかかるというイメージがある。バレエを習わせている=裕福なイメージ。トゥシューズも、衣装も、発表会なども。月謝のほかに発表会用の積み立てがあると聞いたことがある。

自分の子どもがやりたいと言ったら、「お金がかかるから無理なの」とは言えない気がする。ましてや自分の子どもがちょっと上手だったり、才能があったらなおさら。今までかけてきたお金や時間を考えると、「やめたかったら、やめてもいいよ」と気軽に言えないのではと、複雑な心境になる。この本に出てくる『すみれ』のように体に音楽があり、バレエの神様に選ばれたものだけが踊り続けられる世界と知って、習い事を始めるのだろうかと思ってしまうからだ。(余計なお世話だろうし、勝手な想像なのは重々承知してるけど)

バレエで印象に残っている本と言えば、『シティ・マラソンズ』

この本には三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵、三人の作家の短編が収められている。3つめが『金色の風』近藤史恵。この話も、母親がバレエ教室を経営していて、子どものころからずっとバレエをやっている女性が主人公。語学留学先のフランスで出会った女性との会話が印象的だ。日本の伝統的な芸術と比較しているもの興味深いと思った。

『ヒロイン』の岡本啓美は、母と子の濃い関係の中で生きてきた。啓美がふとしたきっかけで教団にはまってしまうのは、なんとなくわかる気がする。自分で自分のことを決めら決定権がないまま年を重ねたとしたら、自分で決めて、自分を肯定してくれる場所は心地がいいに違いない。今まで制限してきたことがない場所に救いを求めてしまうのは、宗教にはまるきっかけとして確かにあるのだろうなあと思った。

まとめ

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』もいいなあと思ったけれど、桜木紫乃さんぽい雰囲気は『ヒロイン』の方が強い感じがした。

登場する女性たちは友達の友達に(ちょっと遠いところに)本当にいそうで、自分の中にもそういう要素があるのでは?と、怖い感じもした。

桐野夏生『OUT』を思い出すシーンもあり、ゾクゾクしたり、そわそわした。反感を覚えたり共感したりしながら、最後まで一気に読んだ。

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