空の見える道へ

一回り前の今年と同じ干支の年、私はうつ病と診断された。
それまで、派遣で鉄鋼会社の事務の仕事をしていたのだが、ある日突然ベッドから起き上がれなくなった。
それから何日かずっと布団を被り、部屋に光を入れるのさえ拒んだ。
少し落ち着いてからどうにか起き上がり心療内科に行き、抗うつ剤や眠るための薬を処方された。

よく「うつは心の風邪」などと言うけれど、身体の風邪のように薬を飲んで数日寝ていればよくなるというものではない。その後鉄鋼会社の事務はやめ短期の仕事をしていたが、そのたびに調子を崩し、全体的には悪くなっていった。

心療内科で調子が悪い旨を言うと、薬が増える。それを飲むと眠くなる。だんだんと薬による眠さが抜けずに生活リズムが崩れ、昼夜逆転してしまった。昼間は異様な眠気に勝てず、夜になると眼がバチッと開く。
夜は寝なければと思いながらも昼夜逆転のリズムから抜けることが出来ず、イライラが募る。そしてそのうち、皮膚に薄い縞模様を刻んだり、飲んではいけないものを飲んだり、薬の用法用量を守らなくなってきてしまった。

この時期が一番悪い状態だったと思う。積極的ではなかったものの、飲んではいけないものを飲んだ結果、死んだら死んだでそれでいい。そう思うようになっていた。消極的希死念慮とでも言おうか。
私の住まいは地上二桁階にあるので、ダイビングすれば確実に常世国に逝けはしたが、ダイビングの末路を目撃したことがあり、ああはなりたくないという思いが実行を阻止した。

これではいけない。

さすがにそう思った私は、病院を変えてみた。これまでは電車に乗り少し離れたところに通っていたのだが、通いに疲れたということもあり、近所の心療内科に転院した。
そこの医師はまず最初に、処方された薬を整理してくれて最低限の量にしてくれた。そして、飲んではいけないものを飲んだり、皮膚に縞模様を作らない事を約束させられた。

前の病院とは違い、ここの医師はしっかりと話を聞いてくれたので安心感が芽生えた。
昼夜逆転リズムも、睡眠表をつけながら少しずつ改善していった。
この頃には家にいることが殆どだった。そして、東日本大震災、愛しき友のがんの発覚を経て、再び仕事就く。

親友ががんになったという話を聞き、人生無条件にいつまでも続くものではないと感じた私は、何かしなければと思い行動を開始した。
それが現在も続けている仕事だが、フルタイムではなくいわゆる奥様パートと呼ばれる短時間枠の仕事だ。
それでも、一時期から比べたらだいぶマシになったと思っている。

うつヌケ…とまではいっていないが、うつというトンネルを一旦抜けて空の見える道に出てこられたのだきっと。
まだ心身の波はあるし、たとえ短時間でも仕事を終えた後の疲労感は結構重い。休日に積極的に出かけることもまだそう多くもない。

ただ、少しずつ、ここで色々書きながら空の見える道を歩いて行きたいと思う。

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