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妄想起点のアイデア発想で個を活かす:∞プチプチの企画開発者・高橋晋平氏に聞く「妄想とVUCA時代の幸せな働き方」#03

(前回の「価値あるアイデア発想法と場づくり」に引き続き、数々のヒット商品を手掛けたおもちゃクリエーター高橋晋平氏に、妄想商品マーケット「MouMa」と妄想について、お話をお聞きします。)

高橋晋平
おもちゃクリエーター(株式会社ウサギ 代表)
Twitter:https://twitter.com/simpeiidea
HP:https://usagi-inc.com/

妄想マーケットの価値と未来


− 妄想からコミュニケーションが生まれるというお話がありました

「MouMa」では、自分が付けた値段で妄想商品が売れて、サービス上で売れたら仮想のお金が自分に入ってくるというゲーミフィケーションです。最初は、他にもゲーム性のある要素を考えましたが、価格設定と売買に絞りました。

僕個人の意見ですが、とはいえ、「MouMa」をやったところで、それだけで実利益は生まれないんですよ。ユーザーにとっても、アイデアのヒントが手に入るとか、承認欲求が満たされるとかは、あると思いますが、実利益は無いと思います。

それでも、半年から1年ぐらい、やり続けてらっしゃる人たちがいまして、その人たちとはオフ会を開いてあっているので、もう友だちになっていますね。

− 仲良くなった人たちは、どんな方々なんですか

全員、只者ではないです。仲良くなって、20人ぐらいで行うオンラインオフ会でもずっと笑っているのですが、職業は、放送作家・デザイナー・エンジニア・音楽家・主婦など多種多様です。

僕の個人的願望ですが、才能のある妄想家を見つけて、一緒に語り合ったり、仕事をしたりすることが、「MouMa」を通じて既に実現できているんです。これも、自分にとっては大きな価値です。

コミュニティづくりというよりは、この世の中に潜んでいた変態・天才を発見して、繋げたという功績は上げていますね。その人たちが、仲良くなっているのを見るだけでも、嬉しいと思っています。

− 「MouMa」を通じて実現したいことはありますか

先ほど伝えた妄想家の発見と、もう1つは、妄想データベースの構築ですね。自分の喜びとしては、既に6万件ぐらいの妄想商品が投稿され、妄想アイデアと価格と売買成立の有無が、「MouMa」には蓄積されたわけです。

売買された時に発生するお金はあくまで架空のお金ですし、買う側にとっては、アカウント登録した際に配布されるお金を使うだけなので何のリスクもないわけですが、それでもお金は、売ると増えて、買うと減るんです。

この売り買いを楽しみながら、1つの妄想商品は誰かが買うともう買えなくなるので、みんなが妄想商品を本当に買うかどうかを考えていることで、このデータベースにも価値があると考えています。

妄想マーケットの価値


− 「MouMa」でも、売れるものと売れないものの差は出ますか

はい、ありますね。本当に、売れたものと売れないものでクオリティの差が出てきますね。売れている妄想商品は、やはり欲しいと思わせたり、何か新しいと思わせて面白かったりします。

20年近く自分は多くのアイデアを出してきた自負もあるのですが、売れている妄想商品を見ると、いかに自分という1人の人間が出せるアイデアのパターンが少ないかということに気付かされます。

だからこそ、自分が一生かかっても多分思いつかなかったものを見ると、嬉しくてたまらなくなりますし、「MouMa」はアイデアという共有物の宝庫になりえると考えています。

− そういう部分も、「MouMa」の価値ですね

思いもしなかったアイデアに出会えたこと自体も、自分のアイデアのヒントとして活用できることも嬉しいのですが、それよりもみんなのアイデア力を結集する凄さを感じます。

こういう感覚が、会社員時代の売れるものを考えるアイデア会議では無かったんです。滑ってはいけないので、流行っているものを活かして売れるグッズ商品を提案していましたから。

ですので、この「MouMa」のアプローチ方法には、

  • 実現可能性を問わない

  • 欲しいものを考える

  • 値付けする

商品開発の観点から考えても、凄い可能性があると思っています。

− そこから商品が生まれたら本当にワクワクしますね

そうなんです。後は、それが実現すれば、全く新しいものが生まれると思います。

もちろん、ほとんど実現しないと思うんですが、完全に実現できないにしても、技術の進歩によって近いものは実現できる可能性がありますし、この価値あるデータベースが皆さんのおかげで生まれてきていると実感しています。

そして、確実にこの短い期間で、投稿する人も、投稿される妄想商品も増え続けているんです。

妄想起点のアイデア発想が個を活かす


− 妄想商品が増えていった先に、どんな未来を描いていますか

僕が、こうなって欲しいと思うのは、それこそ僕が働いていたバンダイのような大きい会社で、この妄想起点の新しいものづくりがスタンダードに近づいていくことですね。

この方法には色んな意味で夢があって、この先の不透明な時代の中で、新しいものを生み出せる可能性があると本気で思っています。

これまでのように、まずは市場に受け入れられるかというマーケティング視点から始まり、次に技術的視点で考えるという順番で商品開発をすると、どの会社も同じことをするので、スピード競争になるんですよ。

IoT、次はメタバースという形で、もの凄いスピードの中で、結局はパワー競争になると思います。

− それが「MouMa」の手法であれば、個の力が活きてきますね

そうです。一人ひとりの個性や発想できることが、こんなにも違うのですから、それが活きてきます。それに、個々にある欲求も、世界レベルで見れば、同じような欲求がある人がいるはずなんです。

一人ひとりが自分の妄想起点で、企業のリソースを使ってチャレンジしたり、人が欲しいものがあるなら自分ができなくても誰かがやろうとしてくれたりすると、その中の1つが世界を変える可能性もあります。

誰かの妄想が、実はみんなが本当にあったら良いと思っていたけど気付かなかった潜在欲求として爆発する可能性はありますし、これは新しいものを本当に生み出すための実用性のある発想方法だと思っています。

妄想が実現する楽しく幸せな働き方


− 企画開発の現場で、妄想起点のアプローチが広まると良いですね

実際、現場では、アホなことを言うと評価が下がるかもしれないという考えはあると思うんです。「何言ってんの?あなただけが欲しいと言って、それ何の意味があるの?」というようなことです。

企画開発の現場では、アイデアは実現しないと意味が無いと言われることから、そのような状態になってしまったと思います。

そうではなくて、「何それ?でも、あったら凄いよね」と受け入れて笑うことが、アイデア会議を変える一歩目だと思います。

− 開発のアプローチ方法を変えることに、どんな価値がありますか

現状の会議は、アイデア会議と言っておきながら、まず実現性を担保したものを出し合っています。それを、まずは実現性を無視して出すと順番を変えるだけで、2つの価値があると思います。

  • 新しいものを作れる可能性が高まる

  • 仕事がより楽しくなる

僕の中では、イノベーションで世の中が変わる、あるいは、地球救うということよりも、みんなが楽しく働けることや自分が作りたいものを作る機会を手に入れられることを追求したいんです。

妄想起点のアプローチが広まることで、自分らしく楽しい働き方や、一人ひとりが幸せになることを実現したいと考えています。


(次の記事では、妄想の可能性について掘り下げて、高橋氏にお話をお聞きします。)

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