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『意味のないエッセイ④』みんながどうやって、あんな感じに出来るのか、僕はやっぱり今日も上手く笑えない。


「来週ハロウィンパーティーがあるのですが、森さんもどうですか?親睦を深めたり、みんなでワイワイ楽しみましょうよ」

僕はハロウィンパーティとやらを想像してみた。
かぼちゃのおばけとか、お菓子とか、なぜだかチャーリーとチョコレート工場を思い出した。

僕にも子供時代というものがちゃんとあって、あの映画は何度も見返したっけ。
少女がガムになって伸びたり、食いしん坊がリスか何かに襲われたりしていなかったけ?

何回も見たはずなのに、うろ覚えだ。
映画のストーリーというよりは、雰囲気が気に入っていたのだろうな。

とりあえず、僕は
ガムで青くなった女の子や、リスを怒らせた太っちょのことを考えながら、
みんなで賑やかに酒を飲んだり、それこそ仲が深まるような秘密を打ち明けているシーンなどをついでに想像した。

仮装したっていい。誰かそういう提案はしたのだろうか?
それとも、とっくに承知しているのだろうか。
僕はヴァンパイアとかの仮装ならしてもいいかもしれないと思った。
マントとか結構かっこいいな、って4歳の頃から考えているし、それなら
ヴァンパイアで決まりだ。

足元に転がっている石を何気なく蹴った。
野生の黒いウサギが、餌を与えられたと勘違いして石を追っていった。

「うん、行かないですね」

「え?」

「行かないです、誘って頂きありがとうございます」

「え、なんでですか?」

「そういう集まりって苦手なんですよ」

「え?それじゃあ、今年のクリスマスパーティは?」

僕はクリスマスパーティとやらを想像してみた。

大きな靴下の入れ物に入った沢山のお菓子や、暖炉に並べられたプレゼントの前で、彼らが踊ったり、歌ったりしながらケーキを食べている。

暖が整っている室内では皆セーターに袖を通していて、カラフルで、ユニクロのCMみたいだ。

クリスマスパーティと言えば、チャーリーとチョコレート工場という映画を思い出す。
主人公の少年は、雪が深まる日にチョコレート工場への招待チケットを当てたんだっけ。

懐かしいよね。
もう何年前だろう。

ある時代が、もうこの世のどこにもないことに驚くから、その驚きで動いた心の距離を人は「寂しさ」とか「懐かしさ」という気持ちで過去を偲ぶのだろうな、とぼんやり。

クリスマスパーティの日は絶対雪で決まりだ。
プレゼント交換に備えて、何日も前から、あれこれ考える。
誰の手に渡っても、使える便利なものがいいかな、それとも僕はネタ枠として、古代ローマ人みたいにキジの脳みそでも準備しようか。

みんなが考えているよりもずっと温かい玄関の扉から一人一人、雪がついたブーツを払って室内に入ってくるのだ。

「メリークリスマス!」

背景には暖炉と、今日だけの祝福を集めるだけ集めた人々の笑み。
クリスマス特有の気が遠くなるような歓迎。
テーブルには見たこともないごちそう。

僕は歩行者信号のボタンを押した。
仕事帰り、電車を利用する仕事仲間は必然的にみんなで帰る。

「うん、クリスマスも、行かないですね」

「え?」

「行かないです、誘って頂きありがとうございます、今後もきっと何かに参加することはないと思います」

「え、クリスマスもですか?」

「そういう集まりって苦手なんですよね」

もう、話しかけられることはなかった。

昔、何度か、飲み会とか社会人バレーとか、その他にも友達の友達と遊んでみたりしてみたけれど、ダメだった。

僕は、うまく、笑えない。

みんなどうして、そんなにすぐに笑えるのだろう?
みんな無理をしているのかな?

日常会話も上手い事運べない。

みんなどうして、そんなにすぐに仲間になれるのだろう?
みんな無理をしているのかな?

職場の人たちと歩いて帰るとき、
僕はいつも、集団の後ろで一人歩いて、
その日に読んだ本の内容とかを思い出している。

うまく、笑えないから、人に気を使わせてしまう。
人に気を使わせてしまうと、自分にダメージが入る。
あぁ、自分はこんなこともうまく出来ないのかと。

一人でいることには孤独を感じない。
むしろとても好きだ。
孤独は決して、何かの貧しさを象徴するものではなく、
むしろその逆で、豊かさに満ちていると思う。

けれど、孤立しているなぁとは感じる。
それに付随する
「僕は、うまく、笑えない」という感覚が苦手だ。

職場でよくマリファナをするスタッフが

「森さん、寝付きよくないんですか?マリファナいいですよ、幸福感も味わえるし、森さんにならタダで一本上げますよ」

と言って無邪気に笑っていた。彼はまだ10代だか20代前半だった気がする。

僕は仕事帰り、24時近く、寝息を立てるダウンタウンの道を歩いていた。
連日の雨で煉瓦造りの道は赤黒く濡れていた。

僕は左手に握っていたマリファナを口に運んだ。
気持ちばかりのライター。

少し、酔っぱらった感覚。
若者6人がベンチに座って酒を飲み、歌っていた。
ホームレスが、お腹がすいた、という旨の文字を段ボールに書いて持っていた。

肥えたネズミが数匹目の前を通っていった。
相変わらずゴミ臭い街だ。

僕はそれでも笑えなかった。
あんまりにも笑えないから、
それがおかしくて、
皮肉めいたことを考えて

少し笑った。


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