POLICE in 2117 3-11

 3-11、じいさんとの面会

 特捜班に顔を出すと梶原が1人で手持ち無沙汰にしている。

「なんだ1人か」

「はい。みな海上保安課に行ったようです」

「そうか、熱心だな」

「昨日の檄が効いたんだと思います。私も行きたくなりました」

「そうか、すまんな。付き合わせて」

「いえ、こちらの方がより重要だということはわかっています」

「そうか」

シティの北の端、看板こそないが「ヤンの店」は相変わらずの佇まいでそこにある。解錠してトイレから地下に下りていく。1階の踊り場から部屋に入ると、中には控え室が作られていた。警備に言った。

「ここに誰か訪ねてくることがあるのか?」

「はい。たまにいらっしゃいます」

「そうか、ちゃんと身元確認してくれよ。レプノイドじゃないかどうかも含めて」

「それは怠りありません。それにじいさんのOKが出た方しか通しません」

天井を見るといくつもカメラが設置してある。

「やるな、じいさん」

廊下をくねくねと回った奥にじいさんの部屋はある。いや、部屋と言ったら語弊がある。ここは立派な刑務所ということになっているんだから。

「失礼しますよ」

「おお、クロードさんか。そろそろ来る頃だと思っとった」

「いつもながらの御慧眼、恐れ入ります」

入口のカメラの映像で私たちが来たのはとうに知っているはずなんだが。

「お土産、持ってきましたよ」中を開いて見せた。

「おお、PlayStationXXXか。ありがとう」

「何でもよくご存知ですね」

「そうじゃよ。情報は命なんじゃ。それは今も昔も変わりない」

「今回の事件の一連の流れは?」

「まぁだいたいはな」

「だいたいですか」

「君が犯人を逮捕したのは知っておる。君らしいなかなかのお手並みじゃな」

「ありがとうございます。そこで最後の問題にぶち当たりました」

「うん。利益を得ない犯人だな。君もあの連中じゃ役不足だと気付いたか」

「はい。これこそ今回の事件の核心だと思ってます。絞り込んでるがもう一歩踏み出せない。証拠もない」

「難しいじゃろうな、証拠を見つけるのは。この犯人は実際に動いておらん。物的証拠は難しいかもしれん。無線だけじゃお手上げじゃな」

「この犯人を追い詰めるためにまず犯人の目的を知りたいんです」

「目的。この犯人はこんなこともあんなこともできると示しているように見えんか。社会のシステムの脆弱さを苦々しく思っているのは確かじゃろう。そして自己顕示欲も強いように見受ける」

「じいさんと同じように将来を憂いてる1人かな?」

「いや、こいつは将来というよりも今現在じゃないかな?だから現状のシステムを破ってみせた」

「たしかに脆さを露呈しました」

「いや、君たちのリカバリーは思ったよりずいぶん早かった。わしもこんなに優秀だとは思わなかった」

「それでも不満は不満ってことか。でもこれは“R”の優秀さですよ、じいさん」

「ははー、君が褒めてくれるのはいつも“R”だな。じゃが“R”もこの社会の一部じゃからな」

じいさんは光るプールの中で腕を二度三度とかいてみせた。

「じいさんの最高傑作ですからね」

「そりゃそうだが」

「あ、すみません。この方が“R”の開発者なんですか?」

「そうなんだ。紹介するよ。吉田龍一郎さんだ。御歳200才」

「こら、まだ200にはなっとらん」

「ここまできたらアバウトでいいでしょう」

「そういうわけにはいかん。できる限り正確を期する。それが大事なんじゃ」

「はい。わかりました。ではもうじき200歳と言い換えます。それでこいつは新しいメンバーの・・・」

「梶原君だな。君が見込んだだけのことはある」

「参ったな。何でも知ってますね」

「命じゃよ」

「この犯人、崩せると思いますか?」

「ああ、思う。たぶん君にしかできん。叡智と粘り強さが必要じゃ」

「そんなに買い被ってもらっちゃ困ります」

「思想犯ってゆうやつは一番厄介なんじゃ。情報じゃよ、情報。突破口は必ずある。君がこのわしにたどり着いたようにな」

「ありがとうございます。今、何かご不満は?」

「いや、至極快適じゃ。逮捕される前より快適なんじゃ。君のおかげじゃな。これからゲームに興じる。ワクワクしとる」

「はいはい。退散しますよ。カジ、何か聞きたいことは?」

「犯人はどんな人物だとお思いですか?」

「そうじゃな。多方面に高度な知識があり、現実的な思考ができる人物。学者、研究者。高慢で鼻持ちならない。つまり自分が最高だと思っとる。威圧的に人を服従させる。まあそんなとこだ」

「ありがとうございます」

「じゃあな、じいさん」

「たまには彼女を連れて来い」

「この臭いがなくなったら連れてきますよ」

「ははは、じゃあ次に来るときは防臭剤を頼む。ははは」


「ヤンの店」から外に出た。

「この臭い、たまりませんね」

「そうだろ。丸一日取れないからな」

「そんな感じです」

「だけど驚いたよ。おまえがポリスと同じ質問をするとはな」

「そうなんですか?」

「そうだ。ちゃんと的を射てるってことだよ」

「はい。ありがとうございます」

「ちょっとポリスの顔を見ていこう」

「はい」

シティの北の端から東の端までボックスを飛ばした。

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