POLICE in 2117 3-20

 3-20、外堀を埋める

 井澤氏の家を出た。最初の訪問としては上出来だ。

「クロードさんの当初の質問にしっかり答えてくれましたね」

「そうだな。驚いた。もっとのらりくらりと逃げられると思ってたんだが」

「彼は相当の自信家ですね。ボロは出さない自信があるんですよ」

「そうだな。これから本部には帰って分析だ。さあ、みんな帰るぞ」

特捜班に帰って、会議室に入った。

「これから先ほどの訪問のビデオを見るが思いついたことがあったら何でも言ってくれ。じや“R”さっきの映像を流してくれ」

「はい。まいります」

おれと梶原が玄関を入るところから始まった。

「この辺も演出だよな」

「はい。そう感じました」

「おれたちをわざわざソファの反対側に回らせたのも、あの位置が一番威厳を保てる場所だったんだろう」

ビデオは退出までを映し終えた。

「これほどのことを言っているのに逮捕は無理なんでしょうか」

「具体的なことには何も触れてないだろ?警察無線のことに触れたら話題を変えている」

「ああ、そうか。狡猾ですね」

「うん。一筋縄じゃいかない。このビデオは“R”に頼めばいつでも観れる。暇な時にいつでも見てくれ。それじゃ取調べに行ってくる。それぞれ自分の思うところに従って動いてくれ」


 久しぶりの海上保安課だ。まずは課長に挨拶に出向く。

「ご無沙汰しています」

「クロードさん。この度はお手柄だったな」

「はい。ありがとうございます」

「もう、全員が罪を認めている。そろそろ検察に回してもいいんじゃないか?」

「はい。そうなんですが、まだ主犯を逮捕できていません。ご迷惑でなければもうしばらくここから情報を得たいんです」

「いいよ。だが主犯は大岡と銀行さんじゃないのか」

「今回のテロを企てるには彼らだけでは無理だと思ったんです。彼らにはあそこまでする必要性が感じられません。それで探っていくと案の定黒幕がいました」

「そうか。うちは一向に構わない。うちの者も嬉々として仕事をしている。こんなのは初めてだよ」

「そう言っていただけると助かります。よろしくお願いします」


 まずは大岡課長。

「取調べを始めます」

「あんたか、もうすべて話したぞ」

「そうだろうな。今日はちょっと聞きたいことがあるんだ」

「あんた金庫に爆薬持ってたよな。それから官舎にも爆薬と信管があった。あれどうした?」

「・・・」

「その行方を確かめとかなきゃならない。おれがガサ入れするって言った日に外に持ち出してる。オフロードでどこに持ってったんだ?」

「知らないな」

「あんたの命令がなきゃどこにも行かないだろ?町の監視カメラからあの時運転したやつを探してもいいんだ。時間はわかってるんだから」

「じゃ探したらどうだ」

「あんたに協力するチャンスを与えてるってことをわかってほしいな」

「あれは北部住宅に持っていったんだ」

「爆薬のほかに何があった?」

「爆薬と信管だけだ」

「誰の家だ?」

「そんなのは知らない」

「あんたも素直じゃないな。そんな物騒なもの、知らない家に持って行くはずないだろ?松尾浩一郎の自宅だろ?」

「おまえ、そこまでたどり着いたのか」

「誰の命令だ?」

「知らん」

「あんたが警察無線で指示を仰いでたやつだろ?」

「無線の相手は刑務部長だ」

「あれはただの中継地だ。大友に無線を届けさせただろ?その届けた相手だよ」

「知らない。頼むからほっといてくれ」

「あんたにも家族があるのはちゃんとわかってる。手出しはさせない。もう一息なんだ」

「・・・」

「あんたが言ってくれたら関東刑務所行きだけは見逃してやる。ロシア地区の聖人にミハイル・ゴルバチョフって人がいるの知ってるよな」

「ああ、井澤だよ。井澤賢介」

「ありがとう。約束は守る」

「クソ野郎」


次は田口。

「田口遼太郎、取調べを始めます」

「なんですか?もう全部話しましたよ」

「ああ、協力には感謝しています。あなたは警察無線の相手に会ったことはありますか?」

「私はない」

「私は、ない。副頭取は会ってるんだな」

「ああ、会ってる。言ったことは実行する人だから絶対逆らうなって言われたよ」

「そうですか。相手の名前はご存知ですよね」

「いや、知らない」

「名前も知らない相手と無線で通信ですか」

「あいつのこともう忘れたんだ。あいつは悪魔みたいに恐ろしいやつなんだ」

「やつも逮捕して監獄に放り込む。安心しろ。あんたの家族に手出しはできない」

「やつには仲間がいるんだぞ」

「もうあいつの仲間に殺しなんてできない」

「あいつの仲間が官舎の管理人を殺したんだ」

「そいつは?」

「河本っていうやつだ。そいつも悪魔なんだ。簡単に人を殺す。本当に簡単に殺すんだ」

田口の目には涙がたまり、手足が震えている。

「安心しろ。河本は逮捕してる」

「違うんだ。河本は双子なんだ」

「なに!?もう一人河本がいるのか。そいつも必ず逮捕する。だから名前を言え」

「井澤賢介。おれが言ったって言うなよ。絶対に」

「ああ、言わないよ」


海上保安課の玄関を駆け抜けた。

「由莉奈、フォン」

出てくれ。出てくれ。

「QP、フォン」

出てくれ。

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