POLICE in 2117 3-14
3-14、チェントリーノホスピタル理事長
「“R”チェントリーノホスピタルの理事長の所在はわかるか?」
「はい。スカッシュをするためにスポーツジム・アキレスにお出かけです」
「スカッシュ?いったい理事長はいくつなんだ?」
「はい。39才です」
「異様に若いな」
「どなたと話してらっしゃるの?」
「“R”ですよ。AIの」
「お友だちなの?」
「そうです。あなたもすぐに友だちになれますよ。“R”はみんなに平等なんです」
「“R”私のこと知ってる?」
「はい。吉野のぞみ医師。29才。第一医科大学を首席卒業と同時に総合医免許取得。キュリー賞を授与される。2113年より当院に勤務。1年前、内科部長に抜擢される。専門は内臓疾患全般、及び再生医療。PCにクロード氏の写真多数」
「ああ、もういい、もういい。そんなことまで知ってるんだ」
「何か最後に変なこと言ってましたね」
「ああ、忘れて。お願いだから」医師が泣きそうな顔になった。
「申し訳ありません」
「いいのよ、私が訊いたんだから」
「どうもおれは女医さんに好かれるらしいんだ」
「そんな、クロードさんは女性全般に好かれますよ。嫌われるのは悪人からだけですね。それもとんでもなく嫌われています」
「そうか、やっぱり。ファンは多いわよね」吉野医師に笑顔が戻った。「密かなコレクションがバレちゃったけど、私がクロードさんのファンだってことは変わらないわよ」
「ありがとうございます」
「ああ、良かった。嫌われてはないみたい」
「そんな嫌う理由なんてないですよ」
「あのーすみません。私も遅ればせながら」あやちゃんが名乗りを上げた。
「あやちゃんはモテるでしょ。クロードさんにはバートナーがいるのよ。そこにわざわざとは思うけど」
「いいんです。彼氏ができるまではクロードさんのファンってことで」
「元カノが綾香って名前だったんだ」
「私もあやかです。佐々木彩花です。よろしくお願いします」
「あーあ、またライバルが増えちゃった」
「あ、そうだ。アキレスに行かなきゃ。カジ、おまえスカッシュできるか?」
「いえ、やったことありません」
「そうか、おまえとコートに立たなくていいように祈りたいな」
「私が仕事じゃなきゃ。クロードさんと一戦交えられるんだけどな」
「吉野さんはアキレスの会員?」
「そうですよ。あやちゃんもだよね」
「はい。ほとんど行きませんけど、クロードさんに会えるなら行きます」
「この病院には多いのよ。理事長がそうだから」
「39の若さで理事長になったのには理由がありそうだな」
「お父上が代議士なのよ。それも厚生族」
「ああ、世も末だ。公的機関にも我田引水がまかり通ってるとはな」
「いえ、だけどね。彼はかなり優秀な医師であることは間違いないわよ」
「親の七光りばかりではないってことか。ちょっと安心した」
玄関まで吉野医師とあやちゃんが見送りにきてくれた。
「ポリスのこと、よろしくお願いします。ああ、山階です」
「はい。最大限の努力をいたします」
「また経理課にも来てくださいね」
「ああ、じゃあ」
ボックスエリアまで行くと梶原が言った。
「あやちゃんはクロードさんのタイプでしたね」
「とうとうおまえにまで見透かされしまったのか。おれの好みってそんなに単純か?」
「わかりやすいと思います。女性っていうよりも女の子って感じの子ですよね」
「カジ、おまえは彼女いるのか?」
「はい。私は学生時代から付き合ってる子がいます」
「一緒に暮らしてるのか?」
「はい。警察本部に異動になった時から」
「そうか、全然知らなかった。また由莉奈と4人で一緒に出かけよう」
「はい。楽しみにしておきます。だけど彼女、妊娠してるんです」
「そうか、もうすぐお父さんなんだ」
「はい。まだ半年も先のことですけど」
アキレスはシティの中心部にある。病院から10分で着いた。
久しぶりのアキレスだ。仕事が忙しくなるとなかなか足が向かない。フロントで警察だと告げ、中に入る。ちょっと薄暗い。ここは設定温度が低くひんやりと感じる。黒と濃いブラウンが基調でアスレチックの種類によってドアの色がわかれている。スカッシュはブルーだ。ドアを入ると中は明るい。
職員に尋ねた。「チェントリーノホスピタルの理事長はどなた?」
「はい。あちらの赤いウェアの方です」
そのコートの前まで行った。ゲームをしばらく眺めてコートから出てきたところに声をかけた。
「失礼します。警察の者です。チェントリーノホスピタルの理事長でいらっしゃいますね」
「はい。宮崎浩司といいます」
「私は大崎クロード、部下の梶原一希です」
「何でしょう」
「病院のフラッシュの購入元をお聞きしたいんです」
「あれは仲介してくれる方があってそこからですよ」
「その仲介者の方で結構です」
「元、健康機器メーカーにお勤めだった方なんだが松尾浩一郎さんっていう方です。連絡先も必要ですね。ちょっと待ってください」
理事長はテーブルからリングを取るとディスプレイを表示した。
「あ君、スカッシュは?」
「はい。やりますが今日はこんな服装ですので」
「着替えてらっしゃい。仕事というのは承知していますが、情報を得るためには必要なこともある」
仕方なく服を着替えてコートに入った。ボールを握ると感覚が甦ってきた。やるぞ。
相手のスキルを見ながら流して1ゲーム、11-9でギリギリ勝つ程度にもっていった。
「あなたはかなりお強い。手加減していただけなかったら5分で終わっていましたね」
「いえ、楽しく汗を流せました」
「情報、そっちに送ります」
「はい。お願いします」
松尾浩一郎氏のアクセスコードが送られてきた。
「ありがとうございます」
「あなたはここの会員ですか?」
「はい。もう7年になります」
「そうか是非またお手合わせ願いたい。上手い人とやると上手くなる」
「はい。是非。ありがとうございました」
若い理事長に陰らしいものは見当たらなかった。ゲームも紳士的だった。彼が犯罪に関与している線はなさそうだと思った。
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