POLICE in 2117 3-19
3-19、対決
ボックスで20分少々で井澤賢介宅に到着した。情報通りの4キューブで青と白のツートンカラーだった。
玄関に立つとスーッと扉が開いた。
「入りたまえ」
「失礼します」
おれと梶原が中に入ると、後ろでドアがゆっくり閉じた。玄関から奥に繋がる廊下は少々狭い。パネルが奥まで並んでいて何かを収納しているらしい。フットライトと天井にポツリポツリとある小さなダウンライトだけで室内は薄暗い。
「井澤さん。井澤賢介さん」
「ようこそ。そのまま奥へと進んでくれたまえ」
なんとも厳めしい言い方だ。廊下の両側にはコンピュータが収納してあるんだろう。壁に触れると発熱していて仄温かい。奥に突き当たると右手に広い空間が見える。そこまで行くと、こちらに背を向けて男がソファに座っているのが見えた。
「失礼します。井澤さんですね」
「まぁ座りなさい」
この人物は立つことはおろか、こちらを振り向きもしない。男の向かい側に回り込んでソファに座った。
「今日の訪問のご用向きは?」
「私がお聞きしたいのはどうしてあのようなことをなさったのか、その意図と動機です」
「はは、率直だな。君はとことん無駄を省く方とお見受けする。悪いこととは思わんがな」
薄暗い中に井澤氏の鋭い眼差しと額の痣が見えた。
「あなたは私たちがだんだん近づいてきていることをご存知だった。おそらく今日、お訪ねすることも」
「クロード君、君が警察官なんてな。バカな職業を選んだものだよ。私の手足になってくれたらそれこそ何でもできたものを」
「確かにあなたの取り巻き連中は優秀とは言えませんね」
「こればっかりは思うようにはいかない。人差し指ひとつ動かすのにも指示が要るんだからな」
「それで警察無線が必要だった。間に仲介者を挟むと意図が伝わらない可能性が高い」
「君は何が欲しい?」
「いえ、今は特に何も」
「いや、欲しいはずだ。たとえば部下の命」
「なに?それをあなたがどうこうすることはできないはずだ」
「救うことはできないが、奪うのは簡単だよ、君。それは君自身にも君の奥さんにも言えることだ」
「そんな脅しで今まで何人の優秀な人材を懐柔できましたか?あなたの取り巻きを見ればわかる」
「ははは、それはね、君。たまたまこれまでこれという人材が周りにいなかっただけだよ」
「そうですか。私は警察に入って半年にもならないがもう後を託せる部下が2人もいる。これがどういうことかわかりますか?」
「私は後継者など求めてはいない。指示通りに動けるのがいればいいんだよ」
「それならレプノイドで事足りる」
「ははは、君は面白い人だな。確かに私の計画はレプノイドなしでは何もできなかった。私は深く考える人間が欲しいんだ。ただ1人でいい。そうするとなんでも可能になるぞ。どうだね、梶原君」
「はい。おそらくあなたについて行こうという人物はいないでしょう」
「どうしてだね?なんでも思い通りになるというのに」
「あなたの仰る自由というものは、私たちが思う自由とは違うんです。誰もあなたが支配する世界の中の自由なんて欲しがりません」
「ほほ、なかなか言うな。小僧のくせして」
「彼の言う通りですよ、井澤さん。あなたは支配者になりたいだけだ」
「バカばかりの世の中にはそれを調える者が必要だ。それもわからんのか」
「あなたは独裁者になろうとなさったんですか。しかし善き独裁者の元では民衆は幸福だが、悪しき独裁の元では最悪となる。それは歴史が語っています」
「私は善き独裁者のつもりだがね」
「善き独裁者は体制維持のために脅しで民衆を服従させない」
「これは産みの苦しみだ。君らのような者にはわからんだろうが、支配するというのは綺麗事ではない。闇の部分を支配することも必要なんだ」
「民衆はそれを選ばないということですよ。あなたのやり方は間違っている」
「バカな。邪魔さえ入らなければ今ごろ新しい世界ができているところだ。せいぜい身辺に気をつけることだな」
「十分、脅迫罪に該当する発言ですが逮捕はしないでおきますよ」
「このような微罪で逮捕してもしかたあるまい」
「しかし、私の身辺に何かが起きればそこには相当の蓋然性が認められることはご承知おき願います」
「ではそろそろお帰り願おうか、私も忙しい身なのでね」
「はい。またお伺いします」
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