『東京自転車節』

@ポレポレ東中野
監督:青柳拓 / 2021年


Uber Eatsの配達員である監督自身の、コロナ禍1年間の姿を記録したドキュメンタリー。

大学卒業後、山梨で映画を撮りつつアルバイトもしつつ奨学金(という名の借金)を返す生活を送っていたが、コロナで仕事がなくなり、東京へ出てUber配達員に。


ふだんUber使う身としては絶対に観なアカンと思い。
下半期マイベスト映画に入るかもしれません。

全篇iPhoneとGoProで撮られた荒削りな映像は、ある意味で臨場感満載です。
ほぼ自撮り、でも時々客観アングルもあり、決して一人ぼっちで作ってはいない。集団製作芸術としての映画の姿が、そこにありました。


そしてレンズの向こうっ側に映るものは、決して遠い対岸の世界では無い。
いま、この世界がスクリーンに映し出されていました。
時節挿入される俯瞰めのショットが効いてます。確かに今の東京は目には見えずとも焼け野原です。

監督の姿を見て「自己責任じゃんw」と切り捨てるのは容易い。
奨学金を借りたのも、映画を撮るのも、職を失ったのも、すべては本人の選択による結果です。
そこに「責任」が生じないはずはない。
ただ、それだけで終わらせてしまっていいものか。
何かもっと、付け加えて考えなければならないのではないか。
なぜなら、あらゆる物事は多面的なのだから。

この映画を観ながら、自分の立っている場所を省みる。
たぶん自分は、相当恵まれている。
学費も親がしっかり貯めていてくれたし、卒業後の職にもあり付けている。
声を上げずとも日々の暮らしに不自由はない。
三食しっかり食べられるし、屋根も寝床もあるし、相当な安全圏でヌクヌクと、高下駄を履かせてもらって生きている。

して、その高下駄の上から、土砂降りの雷雨の中で自転車を漕ぐ彼を「自己責任だ」と一笑に付す権利が、僕にあるだろうか。
言わずもがな、無い。誰にだってそんなものは無い。

それでも、彼の姿を「自己責任」と切り捨てるなら、
この島国は冷たく、他者にも自分にもやさしくない社会になっていくと思います。
空虚な「自己責任だ」が、今も大量再生産され続けている気がしてなりません。陰謀論ぽいでしょうか。
でも、ろくな補償もなしに「酒を売るな」とか言っちゃうあたりに、ニッポン国の正体が滲み出ているように思えてなりません。


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