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『アット・ウォー』レビュー【未確認映画解放同盟】8/21-8/27出町座で上映!

7月に続き、「未確認映画解放同盟」第二弾!
今月は
8/21-27 『アット・ウォー』https://demachiza.com/movies/6893
8/28-9/3『シーズン・イン・フランス』https://demachiza.com/movies/6890
の2本です。

今回も、私たち、映画チア部京都支部が映画の鑑賞体験を手助けするためのレビュー、解説を書かせて頂きました!

まとめて冊子になり、出町座で8/21より無料配布されますのでぜひ!
今回は、前回からパワーアップして、監督のインタビューや映画の背景など、情報をたくさん詰め込んでいます。
こちらのnote記事では、その中から、レビュー部分のみご紹介致します。

『アット・ウォー』

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2018年/France/114分
英題:AT WAR 原題:En guerre
© 2018 NORD-OUEST FILMS – FRANCE 3 CINÉMA

監督:ステファヌ・ブリゼ
監督・脚本:ステファヌ・ブリゼ、オリヴィエ・ゴルス
出演:ヴァンサン・ランドン

あらすじ

フランス南部の都市アジャン。ドイツのペリン工業のアジャン工場では、詰めかける労働者たちによる暴動が起きていた。
2年前、賞与削減と労働時間の引き上げの代わりに5年間の工場の維持を約束した経営陣は、その約束を反故に。交渉は平行線をたどり、工場の閉鎖は1100人の工員が路頭に迷うことを意味していた。ロラン(ヴァンサン・ランドン)を代表とする工員たちは、自分たちの雇用を守るためストライキを開始し工場を閉鎖。企業との長い闘争に身を置くことになる。

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イントロダクション

・2018年カンヌ映画祭コンペティション部門正式出品作品
主演にはフランスを代表する名優ヴァンサン・ランドン。セザール賞にて主演男優賞に6度のノミネートと受賞を経験し、カンヌ国際映画祭でも男優賞を受賞している実力派俳優だ。今作では企業との闘争の中で工員たちを率いる男の凄絶な境遇を完璧に演じきった。
監督のステファヌ・ブリゼは、恋愛ドラマや社会派ドラマなどジャンルにとらわれない多彩な映画作りで、セザール賞ノミネートの常連となっている名監督。セザール賞、カンヌ国際映画祭にて男優賞を受賞した『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(2015)も、ブリゼ×ランドンのタッグで作られた作品だ。今作で4度目のタッグとなる盟友同士の息は高い次元で融合し、『アット・ウォー』は2018年カンヌ映画祭コンペティション部門に正式出品されるに至った。
監督自身が”「政治的なレトリックを使わず、ただ自分の痛みと憤り、そして同僚の痛みを声に出す必要がある労働組合の代表者」を描くことを目指した。”-(1)と述べた本作は、フランスにおける労働者と経営者の衝突、一切の都合の良さを排除した痛みを描いており、現代世界の現実を考える為に必見の社会派作品となっている。

出典
(1)The Indypendent 2019/7/17
https://indypendent.org/2019/07/director-stephane-brize-depicts-class-struggle-with-dark-realism-in-at-war/


レビュー

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以下、ラストシーンへの言及が含まれます。ご注意ください。

突然閉鎖が決まったフランスの機械工場。
不当な解雇に怒る工場労働者たちは、抗議のためにストライキを行い、経営者たちと交渉しようとする。彼らは現実主義という言葉を掲げ、苦笑いしながら、工場労働者たちを諭すような態度で語りかける。「あなたがたの工場は競争力が劣っている。我々も心苦しく思っているが、これはしょうがないことなのだ」と。
観客である私たちは、主人公のロランと共に怒り、時には悲しみながら、交渉の行方を見守る。
しかし、工場労働者たちと経営陣、彼らの議論は残念ながらずっと並行線である。
なぜ議論はうまくいかなかったのか。
それは、両者のスタンスの違いだ。
劇中では何度も「それは私の管轄外」という台詞が出てくる。
主人公のロランたちが何かを要求した時、何かを追求した時、経営者たちはその言葉を使う。
彼らはあくまで「組織の一員」であり、与えられた役割以外では一切責任を負うことはない。これらはいわば「マニュアル通りの対応」だ。自分の任された範囲を守っていれば、毎月安定した給与を受け取ることができ、そこにリスクはないのである。
一方で労働者たちは不当な解雇に異を唱え「臨機応変な対応」を望んでいる。彼らは、賃金が低く、労働時間が長くなる代わりに工場を継続する、という約束で働いていた。しかし、その約束は突然破られることになる。自分の居場所が問答無用で奪われ、もともと低かった毎月の給与すらもらえなくなるという事態に陥ったのだ。
「マニュアル通りの対応」をする経営者と、「臨機応変な対応」を望む工場労働者。彼らが議論を重ねても、同意に至ることはできないのである。
映画の最後に、悲劇的な出来事によって、経営陣は態度を変え、再度、工場労働者たちとの交渉に乗り出す。
考え方によっては、一筋の希望が見えるエンディングなのかもしれない。しかし私は、結局これすらも、メディアや世間からの圧力に対して悪いイメージを払拭するための「マニュアル対応」であるように思うのだ。

『アット・ウォー』は、「実話を元にしたサクセスストーリー」といった部類の、爽快に終わる物語ではない。むしろ終盤にかけて、観る側の気持ちは重くなるばかりだ。しかし、この映画を観た後なら、日常生活において、ストライキや、デモを行う人々、何かに抗議する人々のニュースを見た際に、彼らがなぜ行動を起こしたのか、どのような背景、思いがあるのか、を一瞬考えずにはいられなくなるはずだ。行ったこともない土地の、会ったこともない人々の立場で想像してみる。それによって、他人事だと感じていた問題を今までとは違う形で受け止められるようになるかもしれない。

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冊子では、他にもトピックとして
・監督ステファヌ・ブリゼについて
・挿入されている音楽について
・フランスの労働問題
・カメラの位置

を解説しています!ぜひ出町座にてお求めください。

『アット・ウォー』上映スケジュール@出町座
2020/8/21(金)〜8/27(木)
8/21(金)16:15(〜18:10終)
8/22(土)15:50(〜17:45終)
8/23(日)〜8/27(木)16:15(〜18:10終)
*8/27で終映
https://demachiza.com/movies/6893
あらすじ:松澤
イントロダクション:松澤
レビュー:藤原

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