見出し画像

中世欧州的おススメ動画&ライブアーカイブ vol.3

某動画サイトはいろんな中世ヨーロッパ的映像の宝庫でして、そこから学ぶ要素もたくさんございます。
ヨーロッパ、とかくイギリスやフランスでは自国の再現団体がちらほらおりまして、だいぶガチ(そりゃ地元だし)な検証再現を行っており、映像にも残しています。今回は個人的にお気に入りのものをご紹介します。


「ラトレル詩編」から読みとく再現映像

14世紀頃にできたといわれる「ラトレル詩編(Luttrell Psalter)」という写本集が、イギリス・大英図書館に保管されています。
リンカンシャーのアーナム邸宅の領主ジェフリー・ラトレル卿( 1276年 - 1345 年)の依頼による詩篇集で、1320 年から 1340年頃にイングランドで匿名の筆記者や芸術家によって 羊皮紙に書かれ、イラストが描かれています。

wikipedia "Luttrell Psalter"(En)

いわゆる彩色写本の一種なんですが、こちらの作品の大きな特徴として、当時のイングランドの農村に関する挿絵が比較的多く残されている点が挙げられます。実際、大英図書館のデジタルアーカイブをちらちら拝見していると、そんな感じの挿絵が確かにありました。当時の農村に関する資料として貴重なものだという指摘もあります。

で、その「ラトレル詩編」に登場する、当時の農村を可能な限り再現した動画がけっこう前に紹介されております。個人的にはTHE 究極的に憧れる世界なんですが、一部謎のポイントがありまして(こちらに関しては後ほど)。まずは動画の簡単なご紹介をば。


動画の冒頭、写本の制作作業のシーン。日中でも暗い環境であればロウソクをたくことはあるようです。水ランプのようなものもあるんですが、これに関してはいろいろ議論アリ(今回は割愛)。
農村のワンシーン。こういったのどかな光景は今も昔もなんら変わっていないと思います。
(そこでめっちゃ昼寝したい)
糸紡ぎの場面。このシーンの動画を見て頂くと、歌いながら紡いでいるのが分かります。
無言で作業するより、口ずさみながらの方が効率的にはよかったんじゃないでしょうか(今もそうだけど)。
稲刈りの場面。ひろーい麦畑で収穫する人たち。雰囲気がまさに最の高(個人的に)。

「完全再現ではない」指摘

拝見した感じだと、14世紀頃のイングランドの農村はさぞかしのどかな世界だったんだな♪と思わせられるんですが、実際はやれ近所で戦だの、略奪だのなんだのかんだのあった背景もあるので、ここまで穏やかな光景はそう多くはなかったんじゃないかと思います。本当はこういう姿が理想的なんでしょうけどね。

で、前述にあった「謎のポイント」について少し触れていきます。

農民たちが着ている服の「色」
上記のキャプチャでもわかるんですが、薄紫や青色の服を着たご婦人方が確認できます。指摘としては、そもそも高貴な色とされた「紫」や「青」は、農民が着られるの?(というかNGじゃない?)という疑問点が出ていました。
紫は聖職者や王族が纏う色、青は聖母の色とされたので、そもそも上流階級の人々が着るべき色、という論が挙げられています。

この指摘点に対して、「当時のイングランドでは青の染料と紫の染料の要素となる植物が採れたので、それを使うとそのような色になったのではないか」という意見が出ています。
実際に「ウォード(大青)」と呼ばれる植物は青色の染料として、「桑の実」も濃い赤紫色の染料として用いられていた可能性があります。

当時、法律のひとつに「特定の色(=紫や青)を使った服の着用禁止」というのがあったそうですが、上記のような「くすんだ感じの色・または複数の色を混ぜ合わせてできた色」については、指定された色と若干異なるため適用外だったのではないか、という説もあります。
…けっこうスレスレな理由といいますかなんというか(遠目)。

羊皮紙研究のスペシャリスト・羊皮紙工房さんになんとなーく上記のご紹介をしつつ見解を伺ったところ、こんな答えが返ってきました。

一応この再現動画製作のために、「写本挿絵と実際の服の色は必ずしも同じではないことを承知の上で、あえて写本のままの色で作った」とありますね。
私もこれと同意見で、写本挿絵は「写実絵画」ではなく、あくまでも本の「装飾」なので、美しさと全体のバランス優先で色付けされているんでしょうね。皆が生成の服だったとしても、そのままの挿絵だったら羊皮紙の色と同じ色なので装飾としての面白みがなくなるため、あえてカラフルにしてあるんじゃないかなと思います(自分もいろいろ製作する立場なので)。

ただやはり調べると庶民でも控えめな染色をしていたという資料もありましたので、ラトレル(詩篇)も誇張はしてあれ全く外れでもないようです。

羊皮紙工房さんの見解(メールほぼそのまんま)

要は「写本に描かれているものが必ずしも完全一致することはない」ということになります。
コレ、中世ヨーロッパ料理の世界でもそうなんですが、当時の料理指南集に描かれている食材の挿絵にも同様のことがいえるもんでして、記録側の都合で本来のものではないもの、または少し改変したものを記録として残している可能性も否定できないわけです。
実際、実試作をする際にぶつかる壁でもありまして、「…ナニコレ?(首傾げ)」と、ペティナイフもったまんま立ち尽くすことも稀にございます(危)。

現在のように写真をパチリして即SNSに出せる時代でもなかったので、どーしても人の手が入ってしまうわけですが、なんか合致しないなぁ?と思ったら周辺の情報を別に調べてみると、時に新しい事実にでくわすことがあるので、そこから事実推測などを固めていくのもいいかもしれません。
違う主点で見るのも、またよきお勉強になりますヨ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?