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大吉原展と紅子さん:性産業に生きる女性たちを想う②

とある休日。
「性産業で働く女性たちの想いを知りたい」と、まずは「大吉原展」を訪れた私。
東京芸術大学美術館を出た後、本日2つ目の目的地に向かう。
上野公園から約2.5km、徒歩約30分の距離にある台東区千束、昔吉原が存在した場所だ。
新聞で『元吉原ソープ嬢紅子が撮る「現代を生きる吉原展」』が開催されることを知り、吉原の現状を知るのに好都合と、会場となっている「カストリ書房」を訪れる。

現在の吉原大門。ソープランドが並んでいる。
カストリ書房さん。あ、大吉原展のポスターが貼ってある。

普段は吉原遊郭にある遊郭専門書店として営業しているカストリ書房さん。
「御入浴料」500円を支払い、色街写真家、紅子さんの作品を観覧する。
店内は5人入ればいっぱい。
意外と女性の方が多いことに驚く(という私も女性)。

写真展の様子

紅子さんは元々ソープ嬢として色々な場所で働いていたが、現在は全国のソープ街の写真を撮る「色街写真家」として活動されている。
You Tuberとして、元ソープ嬢の経験などを積極的に発信もしている。
今回の写真展のテーマは「現在の吉原」。
ソープ街の町並みやお店の中の様子だけでなく、ご自身のセルフポートレートも展示されている。

会場におられた紅子さん。
ソープランドの店内を撮らせてくれることはまずないんですよとか、知り合いのソープ嬢の方の写真も撮らせてもらえたの、とか微笑みながら写真一つ一つ丁寧に説明して下さる。
ごく普通の、華奢で可愛らしく優しい女性だった。
写真と共に置かれていた紅子さんの書籍をパラパラ立ち読み。
そこには紅子さんの色々な思いが詰まっている。

気が付けば、会場に入れない人が外で順番待ちをしている。大盛況だ。
紅子さんにもっと話を聞いてみたかったが、紅子さんの書籍を読んでみようと購入し、店を後にした。

購入した「紅子の色街探訪記」5冊。
紅子さんにサインしていただきました

経済的に困窮し居場所が無かった紅子さんは、22歳の時に「人生を終わらせたい」と吉原で働き出したそう。
風俗嬢として常に孤独と闘い、その闇から抜け出せず、陽の当たる社会に対する嫉妬や絶望感をいつも引きずっていたという。
そんな彼女の人生を変えたのが、遊郭専門書店「カストリ書房」だったとか。

遊郭の歴史を伝える書店が存在することに衝撃を受けた
カストリ書房で売られている本や店主渡辺豪さんの本を読みあさり、自分が働いていた吉原という街の歴史、また日本各地に残る遊郭や赤線の歴史を知ることになった
性風俗の文化が「文化」として語り継がれていることに涙した
私も自分にできる表現手段で性風俗という世界を文化とともに伝えていきたい、そう願うきっかけになったのだ

紅子「紅子の色街探訪記4」より引用

江戸時代の吉原と比べると、今の吉原や全国の色街は文化的要素が少なく、またどちらかというと衰退の一途にある。
旅行先でしばしば見かける色街に私たちは注目することが無いし、むしろ「見たくないもの」として目を背けがち。
その性産業の現状を「文化」として残したいと写真を撮る紅子さん。
今回の「現代を生きる吉原展」のサブタイトルは「遊郭の歴史は形を変えて現代も続いてる」。
色街に目を背けず、現状を知ってほしいという想いが伝わってくる。
どの写真も独特の侘しさをまとい、そこでかつて繰り広げられていた男女の営みが儚く映る。
時々往診で通りがかる私が見る「吉原」とは異なる光景に見える。

本の中で印象的だったのが、モデルとしても登場する現役ソープ嬢のきくさんが紅子さんにかけた言葉だ。

「紅子さんは現役で風俗嬢として働くことを考えるよりも、女の子たちの写真を撮っていってください」

「紅子の色街探訪記4」より引用

世間から蔑まれ、その存在を肯定的に認められることのない風俗嬢たち。
自分たちの存在が恥ずかしいと姿を隠し、影の世界で生きている。
仕事が特殊なだけで、彼女たちも私たちと同じ一人の人間だ。
他の人達と同様に存在を認めてほしいという想いが、きくさんの一言から滲み出ている。

紅子さんはおそらく人生のどん底を知っているんだろうな。
どん底を切り抜けてきた人が持つ「優しさ」や「強さ」を紅子さんから感じとることができる。
紅子さんのような境地に達する女性はまだ少ないのかもしれない。
苦しむ女性が一人でも減るよう、祈るしかない。

女性の人権侵害だと消えたはずの吉原は、形を変えて今もソープ街として生きている。
男性の性欲が存在し続ける限り、性産業は「必要悪」として無くなることは無い。
戦争が始まると、性暴力の話が常に付きまとう。
いつの時代も、男性の性欲の犠牲になる女性が存在するということだ。
女性を買う男性が社会的に地位を落とさないのに比して、女性は「売春婦」「風俗嬢」と蔑まれる。
男性の性欲が無ければ必要のない職業。
なぜ男性の過剰な性欲が責められず、傷ついた彼女たちが責められなければならないのだろう?

ヒトが子孫を残し繁栄するために「男性の性欲」が必要なことはわかる。
それこそ仮想現実(VR)やロボット技術が発展し、男性が生身の女性以外で性欲を満たすことができるようになれば、このようなうら悲しい産業は必要なくなるんだろうか。

吉原の女性たちを性感染症から守る検診所

性産業が好きで従事している女性も一部にはいるのかもしれないが、大半は貧困など金銭的事情でやむにやまれず働いていると推測する。
彼女たちをただ蔑んで終わりにするのではなく、なぜそちらを選択せざるを得なかったのかを一緒に考え、支援の手を差し伸べる必要があると感じた。

性産業に生きる彼女たち。
医師はその人の身体や病気のこと以外は無関心になりがちだが、ちゃんと関心を持ち、知らなきゃいけないことがまだまだ沢山あるんだね。
今回見えたのは彼女達のごく一部分。
引き続き関心を持って考えていきたいと思った一日だった。


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