夏の空気に秘密をのせて
ジリジリとした陽射しの中で
遠くを見ると陽炎が揺れている
あの時に素直になれていたら。
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初夏
環境が変わって少し慣れた頃、人生で初めての恋人ができた。
毎日が楽しくて、幸せだった。
「夏祭り、一緒に行かない?」
彼の言葉に頷いた。
好きな人と行く、初めての夏祭り。
あぁ、どうしよう、浴衣着ようかな、着飾ってるって可笑しくないかな。
夕方になってもまだじわじわと汗をかいて、
でも、そんなこと気にしてられないくらいにドキドキした、駅前の18:00
少し向こうで彼が手を振っていた。「行こう!向こうに美味しそうな屋台もあるからさ!」
そう言って手を取って歩き始める。
毎年くるお祭り。
毎年見る風景。
でも、今年だけは何かが違った。
キラキラしていて、空気も、匂いも、全てが特別な存在となった。
これ以上何を望むかと思うくらい、楽しくてあっという間に時間は過ぎた。
~~
夏が終わる頃、私たちは友達に戻った。
何もかもが初めてで、不安しか残らなかった。
そんな私は彼に別れを告げた。
彼は、最初は引き止めたけど、頑なに口を結んだ私を受け止めてくれた。
**
あれから数年たった。
久しぶりの再会は同窓会だ。
「あの時はごめんね」
「お互いまだ何も知らなかったよね」
「今だったらきっとうまくやっていけるだろうけど、今だったらお互い、別の道を歩いていくよね」
懐かしい思い出と共に、2人だけの短い記憶を巡る旅をした。
「あの時たのしかったね」
「今でもあの曲聞いてるの?」
不思議と、どんな話もできたし、楽しい時間になったけど、
私は彼に、ひとつだけ秘密を持ってる。
わたし、今でもあの夏を忘れないから、
夏の匂いと、空気が身を包む時、ふと、あなたのことを思い出す。
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