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あの頃オレらはバカだった その2 酒呑童子と呼ばれ

うざい新卒教師をマグロ漁船でフィリピンに飛ばし山を逃げ回った事件の後、平穏な時間がくるはずもなかった。なにしろオレだからね。でも高校生で大学受験もあるし市長の叔父が無謀に作ったせっかくの進学科。叔父からはお金をもらってしまっているし少しは希望を叶えてやらなければいけない。勉強が好きというよりこれまで知らない新しいことに触れることが何より好きだったので受験勉強は苦にならない。勉強といったって床にひっくり返って参考書を1−2時間読む。計算が必要な数学、物理はノートに公式を導き出す練習をするくらい。参考書の備考欄を読むのがなにより面白い。公式がどんな自然現象・考察から導き出されたか説明してくれている。要因原因と過程が分かれば公式、定理はゼロから導き出される。しかし歴史教科は嫌いだった。ただ事実の羅列。当時の情勢と発生した経緯が書かれていないから想像を働かすことさえ難しい。要するに教科書や参考書の記述が下手くそすぎたわけだ。とりあえず歴史は放っておく。科学じゃないね、日本の歴史教科書は。それで地理と政治経済を選択。面白くて2−3日で読んでしまう。英語は英作文の薄い問題集を丸暗記。左ページの日本語を読んで右ページの英語が出てくるように暗記。言葉覚えるのに理屈なんかあるかい!単語、熟語、慣用句を覚えてしまえばネイティブが喋る言葉もわかるようになる。頭の中に該当する言葉がなければ理解などできはしないんだよ。
すこしは学校へ行くようにはなったけど授業など聞いてはいない。勝手に参考書を次から次へと読んで飽きると学校の隣の市立図書館の書棚の最深部で床に寝転びその辺の本を読む。飽きたら隠して置いてあるバイクで海や山へ。自由だったねぇ。教師もオレがいればまたこいつ何かするんだろうと気を病まなくてすむからすぐ教室から出ていくとじゃあなと言ってくれる。お互い大人の対応?なんか変だけど。

学校を出ると高校の裏にある女子校の生徒に出くわす。オレは相当モテた。オレの顔はどこの人種か不明な顔をしている。目がでかく鼻もデカく高い。日本人にはいないなこういうの。ヒトは見かけが100%という漫画が数年前流行ったが10代の頃の男女関係などはまさにその通りだ。
携帯電話なんてその頃はなかったからLineやInstaじゃなくてラブレターだった。毎週もらってたんだ。でも怖がってそれ以上近寄っていこないし。タイプじゃないと見向きもしない。おまけにひとの名前がなかなか覚えられない。ヒトの印象を画像で記憶するからだ。ラブレターもらっても顔と名前が結びつかない。高校生くらいの女の子は特段おおきな特徴を持たない子が多いから誰が誰だか分からなくなる。最後にはメンドーなので放っておく。当然親密な関係の女の子はできないからいつもひとりで出歩く事になる。するとよけいに彼女がいないだろうと女の子たちがよってくる。一人を除いてはね。
男どもからはやっかみで毎日違う女の子に手を出している鬼畜と言われるが、人間離れしたこれまでの行動もあり誰も表立って絡んでこなかった。

授業で古典の時間があった。文法だのはつまらないが古代の言葉とはいえ小説みたいなもんだから結構気に入ってた。教科書の題材に酒呑童子が出てきた。
酒呑童子の伝承。
酒呑童子は幼い頃伊吹童子という名、父は八岐大蛇を祀る一族の伊吹弥三郎。弥三郎は変身し空を飛び遠く関東、九州まで襲う半人半怪の者だった。近江国の大野木家の娘と愛し合い祝言をあげることとなった。祝言で飲みすぎた弥三郎は自制心が効かなくなり怪物に変身。娘の父親大野木家当主は驚き弥三郎を切り捨てた。しかし娘はすでに弥三郎の子を宿しており33ヶ月の懐妊ののち出産。子は伊吹山山中に捨てられる。子供は山神に愛されすくすくと成長し野山を走り回り狼、猪になつかれ見守られながら幸せに生きていった。成人した伊吹童子は大酒を食らうようになりその性格、姿、能力も父の弥三郎そのままさらに強く受け継ぎ大江山に住み着いた。そして全国各地を飛び回り女をさらい宝を分捕り手下にした他の怪のものとともに悪行の数々をなしていった。そして都を恐れさせついに天皇が剛のもの源頼光に退治を命じる。家来の坂田金時、渡辺綱4名と共に酒呑童子の首を跳ね手下全員も退治。跳ねられた酒呑童子の首は「おのれ、謀ったか。鬼は決して人をだましたりせずものに」と唸ったという。散々悪行を重ねたオマエが謀るとか騙すとかいうな!だよね。
皆さんもうわかるよね。こんなスペクタクルな物語を授業でやっちゃうと。
酒呑童子の授業が終わると同級生がオレを取り囲み「オマエじゃん!そのままじゃん!」といいはじめる。「あぁあーっ!」と唸るとみんな教室から飛び出し廊下から「やばい!怒らせた…」
もう化け物認定確定。取っ替え引っ替え女生徒が近づき(興味は全くないのに)、時に暴れ校舎の窓から飛び出すオレは「酒呑童子の呑ちゃん」と呼ばれるようになってゆく。女の子さらってないだろうが!といってもそういう方が面白い話が無責任に広がってゆく。そしてその名声???を揺るがぬものにする事件が起きる…

オレはもてるんだが自分のタイプじゃないと見向きもしない。おまけに自分のタイプの女性がなんだかわからない。そんなオレにどういうわけか、毎朝毎日声をかけてくれる一つ上の女子高生がいた。おはよう❤︎ 朝ごはん食べた?また暴れてない? FSEさんという。何で声かけてくるのかな?本人に聞いてみた。
「ほら人が近づくとすぐ唸る野良犬っているじゃん。わたしそういうのかまってやりたくなるの。抱きしめてあげたら無性の愛を返してくれるワンちゃん」「あなたはそういうの❤︎」
何言ってんだお前は。。。
オレは言葉をしゃべる野良犬か?
母性本能がすごく強いのは傍目にもよくわかる。何かれと世話を焼いてくる。生まれた時からお母さんって女の子いるよな。だから男性に対する愛情ではないらしい。でもね、結構可愛いんだよね。明るくて優しい。胸も結構。。。
大概の女の子は遠くから見てるだけで怖がって寄ってこないから、向こうからくる女の子には慣れていない。
不思議なことにいつもオレの右側にいる。オレの右手をとりリードしようとする。
こりゃバカな小さい子をゆうこと聞かすお母さんの振る舞い。
右手をとられるとなぜか大人しいオレ。
こんなんだからいつか押し倒してやろうと思っていたが、さすがみんなのお母さんタイプ。すきがない。
そこである日右手を繋がれる前に後ろから抱きしめ頬にキスをしてみた。
固まるみんなのお母さん、FSEさん。
すごい勢いで走り去ってしまった。
あぁあ、やっちまったか… しばらくほっとこう。
1週間くらいたった昼休み、上級生の女子数名がやってきて「あんたFSEに何したの!!1週間学校来ないで今日きたからどうしたのって聞いてみたらずっとうつむいたまま。あんたに嫌われたってつぶやいてるんだよ。あんた何したっ!!!!」
言われて何かがオレを突き抜けた。
いまだこりゃぁ!!
すぐにFSEさんのクラスへすっ飛んでいく。いたっ!
何かが突き動かすオレはうつむいている彼女をいきなり抱き上げ右肩にかつぐ。
そして、3階の窓から彼女を肩に抱きかかえ飛んだ。
窓のすぐ高さまで生えている杉の大木の枝を掴み着地する。いつもの教室からの逃亡方法。
今は彼女がいる。地面に着地し彼女を正面にむかせ抱き寄せる。唇へキスを!!
で、往復ビンタが飛んでくる。
女はわからんなぁ〜
キスぐらいいいじゃん。
そして女をさらったオレは全校で酒呑童子決定。
しかしこれはあの忌まわしい大騒動の序章に過ぎなかった。

次回 酒呑童子降臨 謀一族殲滅 に乞うご期待!

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