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この人と結婚してよかったなと思った瞬間

もうすぐ結婚記念日なので、少しほっこりしてもらえるかもしれない話と、真面目なお話を。

「考えたことなかったけど、確かに。そうなんだね。」

結婚後、一度だけ真剣に妊娠を疑ったことがありました。二人で話し合い、もし赤ちゃんを授かっていたら、出産に合わせて夫がイギリスに来て、そのまま1年くらい育休を取ることにしようと。妊娠検査薬が陰性でも、生理が来なければ状態は不確定のままです。私は念の為アルコールとカフェインを控え、夫は夫でもしかすると1年以内に育休をとって海外移住することになるかもしれないという状況で過ごしました。そんな時、夫から、
「外的要因一つで人生がこんなにコロッと変わりうるハラハラを味わうことってなかなかないよね。」
といった言葉が出ました。
私は、特に深い意味はなく、
「うーん、まあでも女子は毎月生理がくるかどうかで人生変わるからハラハラしてるけどねー」
と、思った通りのことを言いました。あまりに当たり前のことになっていて、改めて考えたこともありませんでしたし、責めたつもりもありませんでした。
そんな私の何気ない一言に衝撃を受けた様子の夫。
「そっか…考えたことなかったけど、確かに。そうなんだね。」

ああそっか、当たり前の感覚じゃないんだということを理解して、その後色々話した私たち。「思い至らなくてごめん」といったことを言われたかは覚えていませんが、自分ですら意識していなかった私の呟きを夫が拾い上げて、真っ直ぐに受け止めて内省してくれたことがすごく嬉しかったです。別々の人間である以上何もかも共有できるわけではないけれど、この人なら、どんなことでも最大限歩み寄って理解しようとしてくれるんじゃないかなぁと、胸の中がとても温かくなりました。そして私も、自分が理解しやすい解釈で人の言葉を切り取って解りづらい部分を流してしまうのではなく、相手が何を意味しているのか立ち止まって素直に考えられるようにならなくてはと、反省もしました。本当に良いパートナーに恵まれたと日々感謝してます。

宙ぶらりんでいることの不安とストレス

妊娠可能性のある人限定の話になってしまいますが、毎月生理が遅れずにやってくるかということは、妊娠希望の有無に関わらずその後の人生を揺るがす大事です。妊娠を希望していない場合、婚外子や「でき婚」への風当たりの強い日本社会では特に未婚の女性にとって、生理が来ないことによる妊娠したかもしれないという恐怖は計り知れません。恋人の存在や関係性を家族に話していなければなかなか相談もできませんし、理解のある相手かどうかによって本人に話せるかどうかも変わります。相手が安定した関係にある恋人ではなかった場合にはなおさらでしょう。学生生活やキャリアが中断され、社会やひどい場合には家族から追放されるかもしれないという不安を抱えて過ごすのは、数日であったとしても大きな精神的負担になります。一方で、月経周期が数日前後するのはよくあることであり、避妊は100%ではありません。特に、以前書いた通り日本では排卵自体を抑制するピルの使用が普及していないため、生理の遅れと避妊の失敗の可能性という二つが合わさって不安を抱えるケースは多いのではないかと思います。(ピルを正しく服用していれば避妊確率は99%を超える上、排卵がなければ本来の生理も来ないので、服用周期に合わせて出血があるだけとなり、「宙ぶらりん」状態になる可能性は極めて低いです。)
 逆に妊娠を希望していれば、特にタイミングを測っていた場合、生理予定日が近づけば生理が来てしまうのではないかとハラハラし、予定日を過ぎれば期待を膨らませ、遅れて生理が始まれば期待した分だけ落胆することになります。これを毎月繰り返していれば、産休に入るかもしれない時期が1ヶ月ずつ後ろ倒しになり、どの仕事は自分が終えられるか、何を引き継がなければいけないか、ずっと先が見えない状態になります。妊活や不妊治療をしているということは、異動やましてや海外赴任といった大きなキャリア計画はその間立てられず、毎月生理が来るかどうかでジェットコースターに乗り続けるようなものでしょう。先が予測できないと、常に複数パターンの可能性を考えなければならず、目の前のことに集中するのにも倍のエネルギーが要ります。結局は修了できないかもしれないと思うと勉強する意欲はどうしても下がりますし、思い入れのある案件でも自分は最後までは関われないかもしれないと思うと情熱が薄れるものではないでしょうか。それを、「今は今」と割り切って気合いを入れるのは労力を要します。その上に、年齢等の制約から早く妊娠したいと願って不妊治療をしているとすれば、夫婦二人の問題であるとはいえ、自分自身の身体で毎月ジェットコースターを味わい続ける女性の側の心的負担は比べ物にならないでしょう。
 自然体でいて妊娠できればラッキーと悠長に構えていられるカップルが一番精神的に楽だろうとは思いますが、そうであっても自分の月経周期を全く把握していない女性はなかなかいないでしょうから、生理が遅れると突然先行きが読めなくなり、宙ぶらりんの間、計画を立てられないストレスを抱えることになるのは変わらないと思います。数週間でつわりが始まり、安定期に入るまでは特に体調に気をつけなければならず、食べ物・飲み物からいずれは行動にも制約がつき、仕事も中断することになる「かもしれない」という予測不可能性は、どこへ行くにも分刻みで到着予測ができ、分単位で降水予報が見られ、何事もなければ順調にキャリアを進めていけるだろうと思える現代人にとっては特に大きなストレスです。受験や就職の結果待ち、最近の事例で言えば大規模リストラが宣言された後のTwitter社員の通告待ちなども似たような宙ぶらりん状態と言えるかもしれませんが、なかなか毎月あるものではありませんよね。私自身もこうして言葉にして改めて実感していますが、身近にこれだけの心的負担を(それも頻繁に)抱えている人がいるかもしれないということを、女性のパートナーがいる方は特に、心に留めておいていただけたらなぁと思います。

「早期」妊娠検査薬はヨーロッパでは一番「遅い」検査薬だった

「宙ぶらりん」と繰り返してきましたが、妊娠に関して言えば、妊娠しているかもしれないけれど確証がない状態、つまり、生理は来ていないけれど妊娠検査薬で陽性すら出ていない状態を想定しています。(妊娠検査薬は絶対ではないので、実際の妊娠の確定は婦人科を受診して胎児が確認できてからということになりますが、複数回検査をして陽性ならばそれなりの確度は期待できるとされています。)そうすると、いつから妊娠検査薬を使用できるかがこの宙ぶらりん期間の長さに直結することになります。イギリスに来て初めて分かって衝撃を受けたのが、日本では1週間以上長く待たなければいけないということなのです。
 日本語で妊娠検査薬と調べると、「フライング検査」という言葉も必ず現れ、妊娠検査薬は生理予定日の1週間後からしか使用できず、それより前に試すのは「フライング」であり、検査結果の確度が落ちるということが常識とされています。私もそういうものなのだと思っていました。薬局で普通に手に入るものよりも精度が高く、生理予定日頃から使用できる「早期」妊娠検査薬は、処方してもらわなければいけない特別なものなのだと。
 その「常識」でイギリスにいたので、生理予定日を数日過ぎても不安を抱えながらひたすら待っており、買うと試したくなってしまうと思って薬局にも行っていませんでした。ところが、痺れを切らして薬局に行ってみたところ、どうも様子がおかしいのです。「3日前から」「6日前から」などと「早期」であることを謳っている検査薬がある一方、私が想定していたデフォルトのはずの「生理予定日1週間後から」の検査薬など見当たりませんでした。並んでいる中で一番普通そうな、各ブランドで一番安いものを手に取ってみると、小さい字で「生理予定日翌日から」と書いてあります。つまり、「生理予定日翌日から」が基準で、それよりも3〜6日早く使用できる検査薬まで売っているようなのです。何か勘違いしているに違いないと思って改めて日本語と英語で調べてみましたが、間違いありませんでした。
 妊娠検査薬は尿中のhCGというホルモンの濃度を調べるものなのですが、日本では「通常」とされる検査薬の精度は50mIU/ml、「早期」とされるのが25mlU/ml以下である一方、イギリスで売っているものは、標準が25mlU/ml、「6日前から」のものになると10mlU/mlでした。例えば、クリアブルーという世界的大手メーカーのイギリス向けウェブサイトはこちら

左上2つが精度10mlU/mlの「6日前から」、右上は「5日前から」で妊娠週数表示、左下は25mlU/mlの標準で1分以内の結果、中央下は25mlU/mlで「5日前から」、右下は標準の折り畳み

同じメーカーの検査薬は日本ではオムロンが販売しており、精度50mlU/mlで生理予定日1週間後から使用可能なもののみ。この差は何なのだろうと、ものすごく悲しくなりました。改めて調べてみたところ、日本でも薬剤師に申し出れば薬局で購入できる「早期」妊娠検査薬が1種類だけあるようですが、店頭に並べられるものとは部類が異なるため、やはり制度の問題のようです。妊活中の女性であれば薬局で聞くのもそれほど苦ではないでしょうしまとめて海外製の輸入品をオンラインで購入するという手もありますが、先進国でありながら、イギリスではどのドラッグストアに行っても自分で選んで手軽に買えるものが日本では簡単には手に入らないというのはかなりショックです。特に、妊娠検査薬は内服するものではなく副作用といったややこしい議論も不要なので、技術の進歩と制度が乖離しているにも関わらず、制度変更を求める声が届いていないために惰性で現行制度が維持されているのではないかと思ってしまいます。生理が遅れれば日が経つだけ不安になり、宙ぶらりんで待つ1週間はとても長いので、少なくとも生理予定日翌日から使用できる精度25mlU/mlの検査薬がどの薬局でも買えるようになればいいと思います。


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