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野村胡堂『銭形平次捕物控』第11話~第15話 紹介と感想


第11話「南蛮秘法箋」(『オール讀物號』1932年2月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(三)酒屋火事』嶋中書店, 2004, p.224-261
野村胡堂/著 末國善己/編『奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選』PHP研究所, 2008, p.149-190
野村胡堂『銭形平次捕物控傑作選1』文藝春秋, 2014, p.63-99

あらすじ
質屋で大身代を築いた田代屋又左衛門が毒矢で狙われ、左腕を一本失った。
その疑いは、次男・又次郎の嫁・お冬に向けられた。
事件に乗り出した平次は、すぐにお冬の無実を証明するが犯人は分からず。
それからしばらく経ったある日のこと、今度は田代屋のお勝手の水甕に、怖ろしい量の毒が仕込まれていた。
果たして、これほどの事件を仕掛ける犯人とはいったい……。

紹介と感想
由井正雪の一味が関係する恐ろしく派手な事件になります。
物語のテンポも良く、第一の事件、第二の事件、平次の罠と解決に大きく分けられますが、読んでいるとかなりのスピード感があります。
大いなる陰謀の後始末という、テーマも内容も正に娯楽小説という作品です。

レギュラー:八五郎、笹野
投げ銭:あり

映像化
川浪良太郎・主演 第2作「南蛮秘法箋」(1940/松竹)
 監督:笠井輝二 脚本:藤井滋司
 出演:山路義人、大河三鈴、花岡菊子、本郷秀雄ほか


第12話「殺され半蔵」(『オール讀物號』1932年3月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(五)金の鯉』嶋中書店, 2004, p.152-182

あらすじ
笹野新三郎は、先代から懇意にしている旗本・小永井鉄馬の娘・浪江を育てた乳母の加代から相談を受ける。
鉄馬が中風で苦しんでいる所を狙い、放蕩者だった鉄馬の弟・滝三郎が家を乗っ取ろうとしているというのだ。
困った笹野は平次に何とか調べてほしいと頼むが、次の日には加代が卒中で亡くなってしまう。遺体は枕も毛もぐっしょり濡れている外、どこにも異常はなかったとの話だ。
それから数日後、小永井家の屋敷から、毎晩女の悲鳴が聞こえるとの噂が立ち始め、平次は八五郎を引き連れて小永井家へ忍び込む。

紹介と感想
酒を飲んでは「サア殺せ」とわめく道楽者、殺され半蔵の身分違いの恋心と忠義心が気持ちの良い一編です。
欲の深い旗本だけあり、そのやり口は苛烈を極め、平次も後手に回らざるを得ませんでした。
しかし、最後は半蔵の協力も得て、無事に事件を解決に導くことに成功します。

レギュラー:八五郎、笹野
投げ銭:なし


第13話「美女を洗い出す」(『オール讀物號』1932年4月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(四)城の絵図面』嶋中書店, 2004, p.111-143

あらすじ
疾風の綱吉という遊び人が背後から鑿のような物で刺殺された。
土地の岡っ引である友次郎は、お常という水茶屋の美女を張り合っていた大工の辰五郎を捕まえた。
辰五郎は、八五郎が平次の所へ来る前に世話になった男だった。
八五郎は必死に平次に事件に乗り出すように頼むと、友次郎に気を使いながら平次が動き出した。
しかし、平次はお常の所へ入り浸るようになっただけで、とても調べを進めているようには見えなくて……。

紹介と感想
平次とお静が所帯を持ったことが明記される今回は、お常に付きまとう男が次々と殺される恐ろしき連続殺人事件でした。
平次は、友次郎に気を使いながら変化球的に事件を調べて行きますが、調べよりも早く事件は進んでいきます。
最後は、何もかも知った上で別の可能性を告げる平次の人情で幕を下ろします。

レギュラー:八五郎、お静、笹野
投げ銭:あり


第14話「たぬき囃子」(『オール讀物號』1932年5月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(六)結納の行方』嶋中書店, 2004, p.216-251

あらすじ
石原の利助の縄張りで、大家の雨戸を鋸で切り破る手口で次々と盗みを成功させている泥棒が出没していた。しかも、昨夜は遂に殺しにまで発展してしまった。
解決のめどが立たず寝込んでしまった利助に代わり、事件を解決して欲しいと娘のお品が平次の元を訪れた。
平次が調べを始めると、事件の現場では必ず狸囃子が鳴り響いていたことがわかる。
平次は、利助の子分の協力も借りて、大規模な狸狩りを行うことにした。

紹介と感想
石原の利助の娘であり、後に縄張りを引き継ぐことになるお品が初登場となります。
事件は伏線が無いため平次の推理を聞く事しかできませんが、その奇妙な事件の様子と、事件を解決するためにとる平次の行動を楽しむ話になります。
利助の顔を立て解決をした平次。これにより、利助との和解が決定的なものとなりました。

レギュラー:八五郎、お静(地の文のみ)、お品、笹野(地の文のみ)、利助
投げ銭:なし

漫画
木村直巳 第4話「たぬき囃子」

狸囃子の噂話について説明のタイミング、これまでに入られた泥棒の数が10件になっている、殺しのタイミングや平次の協力の仕方など細かい違いはありますが、大筋は原作に沿って展開されます。また、原作では伏線不足だった所に、絵による伏線を足しており納得度が上がっていました。
平次とお静はまだ結婚していない微妙な時期であり、お品の言葉によりのけ者にされたお静が、八五郎から話を聞き出して独自に捜査に関わってくる一幕があります。
また、お品が平次に告白する一幕まであり、恋愛要素も盛り上がってきました。


第15話「怪伝白い鼠」(『オール讀物號』1932年6月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ』嶋中書店, 2004, p.118-150

あらすじ
近江屋の亡き主人の娘・お雛と女中のお染は、平次に根岸の寮に起こる怪奇現象を解決して欲しいと頼みに来た。
身体の弱いお雛の弟・富太郎も一緒に寮で暮らしているが、最近夜にお化けが出ると怯えているのだ。
怪奇現象は、現在近江屋を一手に回している亡き主人の弟・友二郎が居る時に起こり、お雛の許嫁の重三が泊まる時には起こらないのだという。
平次は、八五郎を見張りに行かせるが、夜中に怪奇現象が起こったと思ったら、少し目を離した隙に富太郎が死んでしまった。
明くる日、乗り出した平次の見つけた真相は……。

紹介と感想
中々バカミス的な物理トリックを使用している話です。
平次でたまにある、八五郎を先に行かせるが結局事件が起きてしまう系の話になっており、仏間で寝なければならない理由が、物語上でそれ以上の意味を持って拾われないため、どうしてもトリックのための設定になってしまっています。
ここまでの初期作の中では完成度では頭一つ落ちると思いますが、いつも通りの読みやすさは変わりありません。

レギュラー:八五郎
投げ銭:なし

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