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第5章<成長する>エグゼクティブ・コーチングをよりうまく機能させる

1.エグゼクティブ・コーチを成長の触媒として活用する

あなたの組織の経営陣が、会議テーブルを囲んで主要なリーダーについて、いかにして速く成長させるか話し合っているところを想像してみよう。このような場面はいくらでも思い出せるだろう。その中で誰かがこのようなことを口にする――「彼にコーチをつけよう」。たいていは、特に困難だったり急を要したりして、特別な任務や公式学習といった従来の方法では対応できない能力開発課題があるときに、このような会話が出る。 


人間関係における課題、政治的手腕、スピーチやプレゼンテーションスキル、自己認識、あるいは非常にリスクの高い昇進。これらはみな、経営幹部がエグゼクティブ・コーチングの導入が最善であると判断する理由となる。彼らの判断は正しいと言ってよいだろう。だが、こういったコーチングで最大限に成功を収めるには、コーチングが最も機能する状況や失敗しそうな状況、さらに、学習者にコーチをつけることで望み通りの成果(より速い成長)を得るためにはどうしたらよいのかを明確に理解して準備をしなければならない。 

ここでは人材開発の加速化を焦点にしているので、エグゼクティブ・コーチングの広大なトピック全体を取り上げない。効果的なエグゼクティブ・コーチングについては、その選出や訓練、認定、効果的な実践まで、さまざまな本や記事、会議、コミュニティ(オンラインおよび実際の)などで語られている。多くのモデルや方法があるが、それはここでは論じない。その代わりに、エグゼクティブ・コーチングを、成長を加速させる取り組みの一部に位置づけるときに、重要な鍵となる問題を選び出した。主に、専門家によるコーチングが最も一般的で最も高い価値を生む経営幹部階層に焦点を当てる。

2.人材開発の加速化の触媒となる3つのタイプのコーチング

人材開発の加速化を進めるためにコーチを選んで割り当てる際、コーチングの3つの主要なタイプを区別することが重要だ。フィードバック・コーチング(第4章参照)、人材開発の加速化コーチング、そして従来型のエグゼクティブ・コーチングである。表5.1にあるように、それぞれ目的と活動が違う。

🔶フィードバック・コーチング

第4章で、より速く学び成長しようとする中でリーダーをより実体的な能力開発課題への挑戦に動機づけする効果的なフィードバックについて説明した。リーダーの考え方を変えるフィードバックの習熟は、コーチにとって欠くことのできない基本スキルである。フィードバックはひとつのセッションではなく、コーチングの最初から最後まですべてに関わる。そして、人材開発の加速化プロセスを支援しているコーチなら誰でも、価値をもたらすフィードバックのエキスパートであるべきだ。アセスメント後のフィードバック・コーチングは通常 1、2回のセッションであり、能力開発の優先事項と主要な行動計画の設計図ができあがると完了する。

その後、個人は自分の進捗状況を確認し、上司やメンターと協力して、能力開発計画の実行に必要な支援とリソースを確保することが期待される。

5.1表 人材開発の加速化を促進する3つのタイプのコーチング

🔶人材開発を加速化するためのコーチング

コーチングがフィードバックから成長の加速化計画の実施に移る際には、ビジネス状況に対する慎重で継続的な注意が成功の鍵となる。人材開発を加速化するコーチは、学習者が、組織が直面する課題(提携関係を築く、統合を進める、新製品を売り出す、プロセスを最大限利用する、改革するなど)に対して、将来自分のリーダーシップがどのように貢献できるか考えるのを支援する。優秀なコーチは、想定される将来のシナリオを明らかにし、学習者が苦労するであろう状況や、阻害的な行動の犠牲になる状況を予測するのを支援する。 

人材開発を加速化するコーチは、学習者が将来の職務に対する自分のリーダーシップ・プロフィールを理解するのを支援する。

コーチ:「この18カ月、あなたは新製品戦略を作るチームのメンバーだった。発売までのスピードを上げるのが重要だ。同僚は、あなたの創造性とユニークな視点によく驚かされる。さて、あなたがチームを率いるとしよう。これまでこの会社では多くの創造的なアイデアが取り入れられなかったが、その歴史を繰り返さないために、あなたは何をすべきか?新製品戦略を迅速に進めるために、あなたがするべきことはなんだろうか?」 

人材開発を加速化するためのコーチングはたいてい、幅広いラーニング・ジャーニーの一部である。ラーニング・ジャーニーでは、学習者は一定期間(3カ月~12カ月ほど)の間にさまざまな学習活動をすることになり、新たなコンセプトや方法を学んだり、実践したりする機会を得る。学習者がラーニング・ジャーニーで新しい行動を練習する間、コーチは客観的で率直な振り返りや、学習者の努力が将来の状況に対してどれくらい効果的かを評価する支援をする。学習と職場適用の試みが重なると、コーチは、さらに注意を要する行動の実践に力を入れたり、将来の職務で強みとなるであろう行動をさらに活かしたりするよう行動計画を修正する。 

外部からの客観的な視点を大事にするために、あるいは単に社内のリソース不足のせいで、コーチングを外注する組織もある。未熟なタレントマネジメント・プロセスでは、プロのエグゼクティブ・コーチが、標準的な質の能力開発計画が作られるよう、そしてしっかりとした十分なガイダンスと支援が与えられるようコーチングを行う。コーチは、具体的な開発計画の立案を支援するのに加え、進捗状況を測って継続的に確認する仕組みの確立も支援する。

🔶従来型エグゼクティブ・コーチング

人材開発の加速化と、将来の職務に向けてリーダーに準備をさせるための主要な課題の他に、コーチはリーダーが新しい職務に就く際の成功率を上げる支援もしなければならない。また、貢献度が高いのに、阻害的な行動が常習化してしまって価値が下がってしまっている貴重な個人を救う役目も担っている。 こういった関係は通常長期にわたり、1年またはそれ以上続く。幹部の多くは、長年同じエグゼクティブ・コーチングに頼る(それが常に成長の加速化という成果を生むわけではないことに注意)。 

従来型エグゼクティブ・コーチングは、個人の職務の課題やキャリア、個人的な関心など、全体的な能力開発計画の支援を目的とすることが多い。コーチは、ビジネスや学習者の職務の詳細、また細かい行動や性格の傾向など学習者のアセスメント・プロフィールのニュアンス、などに深く入り込んでいく。従来型エグゼクティブ・コーチングが対象にするものは、ベンチャー事業の推進、意思決定および実施戦略の作成、影響力のあるネットワーク作り、政治的な危機管理、個人の幸せ(ワークライフバランスなど)の確保などの支援を含む、仕事における幅広い機会と課題である。これらの適用のどれもが、成長の加速化を達成する重要な手段となりうる。このタイプのコーチは、報酬のあり方(必要なときに都度対応するなど)や、成果物、セッションの実施回数など(毎月、四半期ごとなど)について契約書を交わす。

3.コーチングがどのように成長を加速化し、リーダーシップ能力を変えるか。

メラニーは10年前から勤務している世界的な石油会社の期待の星だった。ハーバードでMBAを取得した切れ者で、その並外れた知性と行動力で知られており、次期CFOと目されていた。最近、3年間の海外勤務を終えて帰ってきたところであり、任地では世界的プロジェクトの予算を見直し、プロセスを縮小し、初年度で1億ドルのコスト削減を実現した取り組みを率いた。 

だが、帰国後はそううまくはいかなかった。他人に対する攻撃的な態度が男性中心の経営陣の反発を招き、最高経営幹部に加わることへのあからさまな野望がそれをさらに悪化させた。彼女の人間関係のネットワークは、彼女が本国を離れている間に損なわれていた。さらに、仕事ができない人に対して容赦がないため、近づきがたいという評判がたった。 

メラニーは周囲の厳しい目に気づき、また、上司であるCFOが自身のキャリアばかり気にして自分を支援しないことにいら立った。メラニーは会社に残るべきか考えるようになった。キャリアの最盛期に、彼女はこの会社に自分の未来があるのか悩むようになった。 

メラニーはどうなったか?会社は彼女にエグゼクティブ・コーチングを受けさせた。コーチは早い段階で関係者と面談を行い、周囲からどう思われているかをありのまま彼女に示した。メラニーは初めは怒って拒絶反応を見せ、会社を辞めることを考えた。しかし、コーチの支援により、長年彼女を縛ってきた問題――受けてきた教育、これまでの職、そして結婚に関わる問題――が自分の態度や行動の根底に影響を及ぼしていることを理解した。最終的に自分の価値には、人材を育て、敬意を持って他者に接することが含まれていると認識した彼女は、自分の課題に向き合うことを選んだ。 

それからの12カ月、メラニーとコーチは彼女の「リーダーシップ・ブランド」を明確に示すことに取り組んだ。インタアクション・スキルの開発と、戦略的パートナーシップを強化するためのネットワーク構築に焦点を絞った。また、他者への影響力を高めることにも重点を置いた。例えば、彼女とコーチは大規模な財務上の課題の重要性を売り込む、事業横断的な戦略を作った。コーチの支援により、他の関係者にも関わってもらい、戦略はすぐに広い範囲に影響を持った。 

その後の最高経営幹部によるタレントレビュー会議で、CEOは、メラニーに大きな改善が見られたことを認めた。そして、再び彼女を最高経営幹部の後継者にして、準備度を上げるための能力開発の取り組みを始めさせた。メラニーは、自分の行動改善にこれほど深い思い入れを持ったことはなかった。社内での人間関係がはるかに豊かになった、チームは最高の業績を上げた。そして、組織がエグゼクティブ・コーチングに投資したことを感謝した。こうして彼女は再び仕事を楽しむことができたのだ!

4.おすすめ人材アセスメントソリューション

5.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。
DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。
DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

6.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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