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現職の米インド太平洋軍司令官は、本物のトップガンだった

昨日、トップガン・マーヴェリックを観てきました。1作目を多感な高校時代に観て大きな影響を受けた者としては、30数年ぶりの本作に感慨深いものがありました。 
 
感想は最後に述べるとして、今回は「現職の米インド太平洋軍司令官は、本物のトップガンだった」というお話を致します。 
 
インド太平洋軍とは
米軍は、地域別に統合軍UCC:Unified Combatant Command)を編成し、下図のとおり世界中をくまなく担当地域AOR:Area of Responsibility)で区切っています(この地域別編制のほか、宇宙・サイバーなど機能別に編成した統合軍もある)。

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Unified Combatant Command

これら統合軍の指揮官には、陸海空いずれかの将官が就任しますが、インド太平洋軍INDO-PACOM:Indo-Pacific Command)には海軍大将が就任することがほとんどです。その理由は、最も広大な地域を担当し、大半が海洋ということがあるのでしょう。

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INDO-PACOMのAOR

そして現在、このインド太平洋軍司令官にあるのがジョン・C・アキリーノ海軍大将(Admiral John C. Aquilino)なのですが、この方、本物のトップガン出身なのです。

Admiral John C. Aquilino

米海軍のバイオグラフィーによれば、アキリーノ大将はニューヨークの出身で、1984年に米国海軍兵学校を卒業。その後、1986年に海軍航空士官の資格を獲得しました。 
 
過去にはF-14トムキャットやF-18ホーネットを操縦したほか、幾多の作戦任務に従事したようです。そして、トップガンを卒業したとあり、5,100時間以上の無事故飛行と1,150回以上の空母への着艦を達成しています。  
 
輝かしい経歴に加えて、映画俳優でもおかしくないこのルックスです。米海軍には現実にこのような方がいらっしゃるのですね(^_^;

ただ、インド太平洋軍司令官となる前に太平洋艦隊司令官COMPACFLT:Commander, U.S. Pacific Fleet;映画の中でアイスマンが演じていた役職)としてお務めの頃にご本人をお見かけする機会がありましたが、身長はトム・クルーズと同様に白人男性にしてはやや小柄な印象でした…。
 
トップガンを通して私たちがみているもの 
さて、最近noteやtwitterなどに多くの書き込みがあるトップガン・マーヴェリックですが、トップガンを通して私たちがみているものとは何なのでしょうか。 
 
① 少年少女のような憧れ
トップガンには、ジェット戦闘機の雄姿、手に汗を握る空戦、国を守るヒーロー、美男美女の恋愛、仲間との絆、そして苦悩と成長の末に収める成功など、惹き込まれやすい要素が盛りだくさんです。

それから、カワサキのニンジャなどの大型バイクをはじめ、パイロット・ジャンパー、レイバンのサングラス、ドッグタグなどのファッションやアクセサリーも魅力のひとつで、トム・クルーズの出で立ちに、純粋に少年少女のような憧れの念を抱いている方も少なくないと思います。 
 
② 主人公らの成長と自分自身の歩み
主人公らが苦悩しながら成長を重ねていくストーリー展開もそうですが、そこへトム・クルーズやヴァル・キルマーなどの現実世界での数奇な役者人生も加わり、更に自分自身の成長や苦労とも重ね合わせて観ている部分もあるように思いました。 
 
特に、前作では見られなかった対地攻撃ミッションにチームが一丸となって取り組む姿は、映像的にもストーリー的にも惹き込まれる大きな要素だと思います。

ちなみに、数ある戦闘機の中で、F-18だけがF/A-18と表記されるのは、空戦を担う戦闘機(Fighter)としての任務みならず、対地攻撃を担う攻撃機(Attacker)としての任務を帯びているからです。

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USS Ronald Reagan (CVN-76) とF/A-18

③ 現実世界の国際情勢
そして、前作から30年以上の歳月が過ぎ、様変わりした国際情勢も反映され、第5世代戦闘機が登場したり、いずれ有人パイロットの時代は終わりを告げることが示唆される等、よりリアリティのある映画に仕上がっていることもあります。

映画の中の敵国は仮想のものであるにせよ、米太平洋艦隊の指揮下にある飛行隊が設定されている以上、敵国は太平洋地域にある現実の国を想起させるものといえます。 
 
そのアキリーノ大将が、現在シンガポールで開催されている「アジア安全保障会議」で、この地域の安全保障環境が「第2次世界大戦後、今が最も危険な時期になる可能性がある」と指摘しています。 
 
ちなみに、前任のデービッドソン退役海軍大将も先月、約1年前に米上院での公聴会で、中国は2027年までの「6年以内」に台湾に侵攻する可能性があるとした自身の予測について「今も間違っていないと思う」と語っています。
 
トップガン・マーヴェリックのブームの背景には、今、欧州で起こっていることや、これからインド太平洋で起こり得ることへの漠然とした不安があって、アメリカが世界のどこへでも空母を派遣して国際社会に対する脅威を排除し、世界の警察官として君臨していたパクス・アメリカーナへのノスタルジーがあるのかもしれないと、そんな風にも思えました。
 
それにしても2時間ちょっとが、本当にあっという間でした。IMAXで観たのですが、ド迫力の映像と音響に圧倒されました。これから観るという方には、是非、IMAXで観られることをお勧めします(^^♪