【異色エロ小説】 亜麻色の記憶 【¥100】

テレビン油が放つ松ヤニの、ほのかに甘く青い香りの中でキャンバスはゆったりと呼吸していた。松と同じくキャンバスも以前は植物であった。大地に根を張り太陽に向かって可憐に咲き揺れる、誇り高き亜麻だったのだ。

 亜麻とはアマ科の一年草で、雌雄同株の被子植物である。多くのそれらと同じように両性花、つまり一つの花の中に雄の部分と雌の部分をもっている。動物でいう所の両性具有だ。亜麻は太古より繊維の原料として人類に利用されてきた。このキャンバスも人間によって繊維化され、編まれて絵画用のキャンバスとなった。彼、いや彼女と云おうか。キャンバスは暗く風の吹かぬアトリエの画材棚に横たえられながらも、植物としての誇りを失ってはいなかった。同種の植物の記憶は何世代にもわたり気孔のチャクラからエーテル体を介して共有されている。人間などとは次元が違うのだという自負がキャンバスにはあった。

 キャンバスはいま、真っ白な体で栄光の記憶に浸っていた。偉大なる我が亜麻の一族。コーカサスで生まれ、袋となり、葡萄を運んだ。葡萄はやがてワインとなり、のちに神の子の血となった。エジプトの娼婦の家でスパイだと言われる男たちをかくまったこともある。聖骸布として神の子の亡骸を優しく包み込んだりもした。ランジェリーとなり女の甘く柔らかな乳房を守った。ギリシアの町で、たくさんの哲学とともにあった。海賊船の帆布となり七つの海を渡った。亜麻色の髪といえば美しい髪色の代名詞だ。キャンバスは一人の女のことを思い出した。そういえばあの娘も綺麗な亜麻色の髪を持っていたな。

 いつも私のことを、−そうそう、私はこのときペプロスという服だった−あの娘は丁寧に扱ってくれていた。珊瑚の首飾りがよく似合ってた。だけどある日、何かのはずみでレッチーナという松ヤニのフレーバードワインを私の上にこぼしてしまっんだ。なんのはずみだったかはよく覚えていない。さすがの私も酔っ払うと記憶を失くしてしまうよ。といってもあの日からのあの娘の記憶が全くないのよね。

「ねぇテレビン油、いいえ、松。君にも太古の記憶はあるのかしら?琥珀の記憶なんて素敵ねぇ。でも土の中に埋められて孤独なまま押し固められて行くのはやっぱりつらいのかしらね。私はね、いまキャンバスになってる。今のこの真っ白で汚れのない感じがとっても気に入ってるのよ。ふふふ。あなたって、なんだか悲しいみたいな香りだね。やだ、レッチーナの酔いの記憶が蘇ってきたみたい。」
 キャンバスは長い息をひとつ吐くと棚板に吸い込まれるように眠りについた。

 鋭い痛みにキャンバスが目を覚ますと、眼前でコンパスが大股を広げて回転していた。「痛いじゃないか!」キャンバスの雄の部分が叫んだ。しかし金属製のコンパスは鋭いつま先を突き立てたまま冷たく回転するばかりだ。脚をガニ股にしてキャンバスに対して垂直を保ったもう片方のつま先が鉛の粘液を円形にうっすらと塗りつけていく。アポクリン腺の嫌な匂い。くそったれ。股座に蹴りを食らわせてやる。キャンバスは憤慨して思ったが、コンパスの股の中心には中車が付いていて急所は見えない。「おい金属!お前のような若造が軽々しく触れて良い私ではないぞ!下品なガニ股のインランめ!」呪いの言葉を吐いていると「あ」朝露を吸ってエレクトしていたキャンバスの股間をコンパスがかすめ、思わず恥ずかしい声を漏らしてしまった。痛いやら悔しいやら、どうにかしてこいつに一撃を食らわせたい。コンパスの股間を凝視しながら策を巡らせていると「あ、あ」再び黒光りするものが先ほどよりやや勃起度を増した股間を擦っていった。歯噛みしているとふっと胸のあたりが軽くなった。コンパスの針が抜けたのだ。

 「まったく。昨日今日生まれたばかりの金属の分際でよくもこの私に屈辱を味わわせたわね」今度は雌の部分が悪態をついた。腹を立てながらも少しくホッとしていると、強烈なアポクリン臭が。

 6Bである。鉛筆の中でもっとも濃い黒光りが身体中を這い回り、その柔らかい粘りを糸引いていく。汚い汚い汚い!やめてやめてやめて!私のこの純白を汚いもので汚さないで!キャンバスは泣いて懇願するが泣けば泣くほどに6Bは調子付いて伸びやかに筋を引いて這い回る。思わずスゥ、スゥ、という切ない息が漏れてしまう。と、練り消しゴムが乳首にチョンチョンとじれったい接吻をする。大小陰唇のむず痒い箇所にねちょり、ねちょりと押し付けられた練り消しゴムは毛穴の一点一点に吸い付き、ちゅばちゅばと汚れを舐め清めていく。6Bの塗りつけた粘液が練り消しゴムに清められて白さを取り戻したキャンバスはしかし、局部だけが丸出しになった恥ずかしさに複雑なため息を吐き出し、大きく吸い込んだ。6Bの残り香が鼻をつき、我にかえる。雄の部分が叫ぶ。「だいたい俺は花だったんだ!お天道様に性器をむき出しにして堂々と生きていた!これしきのこと。恥ずかしくはなどはないぞ!おい、いい加減に…」2Bがきた。6Bよりやや硬めの黒光りが、慎重に、しかし激しくその先端を這わせて粘液をなすりつけてくる。素早く確実にキャンバスの弱いところをせめてくる。真っ白であるがゆえに素直すぎるキャンバスは、思いとは裏腹にシャア、シャア、シャアとはしたない息を立ててしまう。シャア、シャア、射精しそうだ……と思った刹那2Bは動きを止めた。先っぽがすり減って木の包皮に包まれてしまったようだ。

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