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何色

森林の香りと書かれた入浴剤を落とすと、湯船は鮮やかなブルーに染まった。グリーンじゃないんかい。森林の香りなのに地中海みたいになっとるぞ。手元に届くまでにたくさんの人を通過したはずなのに、誰も気にしなかったんだろうか。「グリーンのほうが良くないっすか?」と言わなかったのかな。コネ入社2年目の若手が「今まで誰もやってないことにチャレンジしたいんすよね、ブルーにしてやりますわ~」とか言い出して誰も止められなかったんかな。

いや、でも、待てよ。森林のイメージカラーは緑って決まってるわけじゃないよな、自分が勝手にそう思い込んでいるだけだ。もしかしたら他の人は「森林=ブルー」なのかもしれない。そもそも僕がブルーだと思っているこの色は、何色なんだろう。

簡単に決めつけるくせに、自分を決めつけられるのは嫌がる。水泳部だと言えば、サッカー部っぽいのに。楽器は弾けないと言えば、バンドマンっぽいのに。海外は苦手と言えば、どこでも生きていけるっぽいのに。別になにっぽいでもいい。けど、がっかりはしないでくれ。そりゃあ出来るなら「っぽい」の期待に応えたかったよ。

「そんな人だと思わなかった」
君には僕がどんな色に見えていたの?優しいんじゃなくて、どうでもよかった。大事なものとどうでもいいものの区別がハッキリしているから、どうでもいいの箱に一度入れてしまうと、存在しないものと同じになってしまう。愛着も執着もなく手放せてしまえるの。

若かったからで済ませたくない過去も、大事なものを悲しませるウイルスも、全部雨で洗い流されればいい。そうでないと、湯船をひっくり返したみたいなこの大雨を許せそうにない。

風呂上がりに食べたガリガリ君、これは何色だろう。ソーダ色?何色でもいいか。「ガリガリ君の色」って名前、それ以上でもそれ以下でもない。美味いってだけで充分過ぎるほどに素晴らしいんだから。心身をさっぱりさせてくれた鮮やかなブルーも、「森林の香りの色」だったよ。



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