『すずめの戸締まり』(映画)感想

ことしは積極的に映画館に映画を見に行こう!と思い立っての1本目。アニメだし、導入の1本目としてのチョイスは悪くない。

以下、ネタバレを含みます。




いやー、シンプルに面白かったなー、という第一印象。ところどころ「そうはならんやろ笑」「いまのどういうこと?」と首をかしげる箇所がありつつも、映像美と音楽、それに魂を揺さぶられるような、地震災害への根源的な恐れに、うまくだまされたというか。「映画館で見てよかったな」と感じてしまいました。


地震について少し。

わたし自身は避難所で過ごすような「被災者」になったこともなければ、親しい人を亡くした経験もないけれど、それでもあの12年前の揺れを身をもって体験したひとりではあるし、東北にはおばあちゃんちもある。底知れぬ悲しみと恐怖に、いまも胸がつぶれるような思いをすることはあって、本作を見たことでその感覚をあらたにしたところです。思い出すと悲しい気持ちになるけれど、決してイヤな気分ではないな。

どうなんでしょう。大きな事件や事故、災害が起きたとき、よく「風化させないように」などと言われます。原因を究明し、再発防止を徹底するには、「風化」が望ましくないのは分かる。でも深い悲しみを乗り越え、新しい心持ちをもって前に進むには、時間とともに忘れゆくことも必要じゃないか? そこにはつねに、避けられないジレンマがあるように思う。

東日本大震災から12年、阪神淡路から27年、関東大震災から100年が経ちます。このほかにも、北海道でも、熊本でも、新潟でも、日本のどこでも、地震は起き、人が亡くなっている。もしかしたら、いま、この瞬間にも。本作のようなエンタメ作品を世に問うたところに、新海さんの覚悟を感じてやみません。

ネットで感想をあさると、まぁ予想通りというか、震災をエンタメに使うなみたいなコメントもあり、そういう場外乱闘も含めての本作かなと。エンタメだからこそ描けることもある、伝えられることもあると、個人的には思いますよ。


物語としては分かりやすく、基本の筋立ては一種の魔法少女ものでしょう。世にはびこる悪事や天災は、じつは怨霊とか呪いとか、そういう超自然的な悪が引き起こしていて、とある能力者たちが人知れず戦って未然に防いでいる、みたいな。まどかもそうだし、プリキュアとかもそう。魔法少女にかぎらず、呪術も鬼滅も、なにか悪霊とか怪物と戦う系はだいたいそういう背景を持っている。

主人公はいわゆる「ふつうの子」なのだけど、重い過去があって、悲しみを受け入れたり、自分を取り戻したりするために、必然的に戦いに巻き込まれていく。

『君の名は。』がややトリッキーな叙述トリックで意表をつき、『天気の子』が強引にセカイ系へと持ち込んだ一方で、本作はその流れを汲みつつも、シンプルな怪物退治と、ロードムービーの要素を組み合わせたおかげで、すっきりと見やすく、後味のさわやかな作りになっていたように思います。


以下、よかった点、気になった点など箇条書き。

・冒頭のタイトル出るとこすごいカッコよかった。

・とにかくサントラがよかった。映画館で聞けて耳が幸せ。

・2時間の映画なのでテンポはすこぶる早い。こういう「映画のテンポ」が微妙に合わない感あるのよね。映画の苦手なとこ。慣れの問題だと思うけど。

・一目ぼれってことでOK? でもほとんどイスなんだよな……。「昔会ったことありませんか」は案外正解なんだけどね。

・扉を閉めるのは物理なんだな。鍵をかけるイフェクトはさすが。

・日本にふたつだけの要石にしては、ずいぶんあっさり抜けちゃうのね。

・石がネコになったのはなんなん? すずめちゃんに「うちの子になろ」って言われてうれしくなったからそうた君に石を引き継いだんだっけ? よく分かんないけどいっか。神様は気まぐれってことで。

・明らかにジブリを意識したいろいろは何だったんだろう。

・愛媛の子と神戸のおばちゃんはいいキャラしてた。帰りながら再会していくエンドロールもベタだがよかった。

・廃墟の遊園地、なんで電気ついたん?

・せりざわ君、いいキャラだったね。

・おばさんと本音をぶつけ合うとこ、その後の自転車二人乗りのシーンとセットでぐっとくるものがあった。あれ以上やると重すぎる気がする。本当の家族じゃないけど家族になる、みたいな設定に最近なんか妙に弱くて。放置自転車はさすがに走れないと思うが笑

・サダイジン結局なんなん?

・さすがに閉じ師もっといっぱいいるだろ。100人はいるだろ。

・お茶の水の描写すごいよかった。写実的なのにきちんと絵だって分かる背景、すごいと思う。

・ラストの戦闘服が最初の制服に戻るのは、新海さん、さすが分かってるなという感じ。ローファーじゃ走りずらいだろうに。髪結んだり、着替えたりするシーンも無駄にエネルギーかけてる。結局この人、徹頭徹尾、オタクの心を忘れないオタクなんだよな。

・そういやすずめちゃん、走りすぎ。持久力ありすぎ。帰ったら陸上部に入って全国目指せ。

・急に出てきた「セカイかあなたか選べない」にはちょっと面食らう。ま、いいけど。石と化したそうた君を突き刺すシーンかっこよかった。

・迷い込んだ常世で自分にイスをくれたのは未来の自分。あれでイス&石になってしまったそうた君がもとに戻れることがはじめから約束されていたことになるのですよね。ときを超え、ループする必然、みたいな設定好き。

・すずめちゃんの声、上手でした。ほかのキャストの方も案外悪くなかったね。


『すずめの戸締まり』

2022年、日本、監督 新海誠



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