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山便り (30)

10年経つと

 山に行くと、私がお気に入りの沢沿いの椅子に座り、煙草に火を着けコーヒーを飲みながら辺りを見回す。以前に比べ、辺りの景色がしっくり落ち着いた感じがする。山を買ったのは平成17年の夏だからもう11年経つ。10年の月日が経つうちに、削られた山肌は削られなかった場所と同化し何の違和感もない。他人が見てもなんともない景色だが、私は、山肌右上方に信州の道の駅で買って植えたワラビが胞子をつけ、落ちて一人前に成長した株があるのを知っている。どこに目を移しても、この10年に私の手が入った所ばかりだ。そんな中で気分的に落ち込むのは、朽ちていく姿を見るときだ。バーベキューハウスの柱の下部分は朽ち、強く触ると表面の内側部分はスカスカである。柱の割れの隙間には白いキノコが生えて此処も朽ちてきた。柱の周りの白木部分は朽ちても芯の赤身の部分はしっかりしているのは分かっていても、見た目落ち込む。建てたばかりの頃の白木の艶やかな木肌が懐かしいが、これも老年の味かと我が身を重ねると、やはり切なくなる。

 それに比べて、ヒメシャラの木は植えた時は、5 cm位だったのに、今は
7 m位までに生長した。朽ちてきた10年と生長してきた10年を眺める時、やはり生長してきた10年を眺めるほうが楽しい。これからは変なものを作るより、木、植物を植える方に重点を置こうと思う。成長期の孫達を眺めている楽しさも、そんなところにあるのかも知れない。

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