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心というものがある、と仮定してみる。思えばあたりまえのこと。 でもあたりまえのことはあたりまえすぎて、通り過ぎてしまう。 学問的に腑分けするクセがつくと、容易に心なんてつぶやけなくなってくる。意志だ自己だ主体だ中動態だ…。 だからこれは仮定の話、ファンタジーといってもいい。 昔むかし、あるいはずっと遠くの未来、心というものがありましたとさ。それでね・・・から始まる話。 そのころ私は保育を探す旅をつづけていました。 拾った枝を杖にし、もらいものの服はぼろぼろ、靴はやぶれて
ねぇ、きいて。 指先から滴(しずく)が垂れていくの。 ひとさし指の先からちいさな滴が。 それをそのままそっと鍵盤に垂らして。 そう、それがあなたのド。 ねえ、きいて。 滴は鍵盤のずっと下のほうへ落ちていく。 ずっと下へ、下へ。 底の方で水面についた。 それから、ほら、波紋になってひろがっていく。 ひろがっていく。 ねえ、きいて。 音には核があるの。 それは光って、 ゆれて、 消えていく。 あなたはそれを感じることができる。 目をつむって。 あなたはその光をきくの。 も
スナフキンは看板をみると奇声をあげながら次々と引っこ抜いて回った。世界中にある、ありとあらゆる看板が大嫌いだったから。 だから看板を立てる人がいても、世界ぜんたいそんなに看板は増えなかった。 でもスナフキンはまた旅にでてしまった。 看板を立てたい人たちはいつでもいるので、みるみるうちに看板は増えていった。 すべりだい逆走禁止 公園でのボール遊び禁止 プールでふざけてはいけません 大声でのおしゃべりはだめです マスクをかんだらコロナになります フードのある服で遊ばない みん
「きのうからトウキビおじさんはどこへ行った?」 秘書官 鈴木某 記す − カレワラ、秋雨前線について教えて 夏から秋へという季節の変わり目に現れる秋雨前線は、春から夏への季節の変わり目に現れる梅雨前線と似ていますが、違う所もあります。 梅雨前線は、沖縄付近に出現し、次第に北上します。季節が進むとともに気温が高くなり、水蒸気も多くなりますので、梅雨初期より梅雨末期のほうが豪雨になります。 秋雨前線は、北日本に出現し、次第に南下します。季節が進むとともに気温が低くなり、水
きのうからトウキビおじさんは、トウキビ畑のむこう、そろそろ山の始まるあたりに住んでいる。 役所に50年勤めたあと、小さな小屋を借りて、人々の相談にのっている。 相談の件数が多いので、ひとつひとつメモにして板塀に貼り付けている。 ・飼い猫、あらずなりき 草町、何某氏、かく語りき。 うちの猫が一昨日よりあらずなりき。一家全員に付近をとぶらへど見つからず。探偵に頼まむとも思へど料金も高ければ思ひ絶えき。黒、黒、と名を呼びつつ、好物の鰹節に誘ふもののいたづらなりき。最近の黒は健康
アンゴラ、ウガンダ、エチオピア… 朝目が覚めて自分が遠くで風に吹かれているのを感じる。ここにいるのと同時に、草原の中に寝起きして、風の中に棲んでいると感じる。 草をはみ、いつでも命のゆらぎを感じながら、群れとともに歩んでいく。私はひとりのキリン。 こんなことをだれも理解できないだろうと思いつつも、何度か伝えようともがいた。理解してくれようとしてくれる人もいた。 自分とちがう存在になりたい、わかるよ 最近疲れているんだね、わかるよ 小さい頃になにかあったのかしら、わかる
どうなさいました?ふむふむ、自分はキリンなのではないか、と。正確に言うと、キリンとヒトとが混じっているのではないか、と。 トランスジェンダーということですかね。 ちがう?全然そうではない。なるほど。 血圧を測りましょうかね。115/75mmHg。いいですね、でもキリンではないですね。いやキリンというのはね、だいたいにして高血圧なんです。首が長いでしょう、脳から心臓まで距離がある。だから血圧が高くて脳まで血流を押し上げる必要ありますからね。 立ちくらみは?する?キリンじゃ
感染症対策にご理解・ご協力をお願いします。 車内安全にご理解・ご協力をお願いします。 車内換気についてご理解・ご協力をお願いします。 社内恋愛禁止にご理解・ご協力をお願いします。 利用者の安心・安全のために世田谷モデル、PCRの社会的検査にご理解・ご協力をお願いします。 登園自粛についてご理解・ご協力をお願いします。 休園についてご理解・ご協力をお願いします。 マスク、アルコール消毒についてご理解・ご協力をお願いします。 戦争についてご理解・ご協力をお願いしま
はい、Rくん、いまおしゃべりしましたね。おしゃべりすると唾が飛ぶって言ったでしょう。 いちばんうしろに席を移動させなさい。 こらこらこら!Nくん、いまマスクを噛んだでしょう。 先生、何回も言いましたよ、みんなでもお約束しましたね。マスクを噛んだら感染しちゃうんですよ、先生何回もいいました。 死んじゃうんです、死んじゃうんです、死んじゃうんです。 コロナでコロナでコロナで。 「せんせい、息吸っていいですか」 「いいでしょう、しずかにね」 「せんせい、息、吐いてもいいですか」
子どもが一列に並んでいる。外は台風19号。外はコロナ。 「はい、次の子どうぞ。あなたは幼稚園?保育園?」 「ぼくようちえん」 「じゃお家にいましょうね、あぶないからね」 「ぼくほいくえん」 「じゃ、外に行こうね」 「なんでー」 「春休みないでしょ、保育園。それにお父さんもお母さんもお仕事にいかなくちゃいけないね」 「でもさっきあぶないって、あのこにいってたよ」 「危ないかもしれないけれどね、仕方ないの。保育園は学校じゃないからね。区からも都からも来てないの、文書が。わかる?文
今からずっと昔。ヌヌヌという感染病が流行った。ヌヌヌはひっそりと感染していくので、みなともかくもおおいにおそれたものだった。 ヌヌヌは水のなかに潜んでいるらしかった。水には塩をいれたらいいとか、いや煮沸しないと意味がないとか、いろいろな情報が飛び交った。雨でも水たまりでもともかく感染するのでどこの建物の入口にも簡易的な乾燥機が設置され、雨天時はそこで身体を完全に乾かすようにした。 子どもたちには手洗いが禁じられた。かわりに布で手を拭くという新しい生活様式が打ち立てられた。
今からずっと昔。ヌヌヌという感染病が流行った。ヌヌヌはひっそりと感染していくので、みなともかくもおおいにおそれたものだった。 「自分が感染しているかもしれないという前提にたって、みなひとのことを思って、人に迷惑をかけないように!」 そんなアナウンスが電車のなかでもショッピングモールでも学校でも叫ばれ続けた。 白い服、白いマスク、白い帽子のシロシロ隊が地域ごとの有志で結成され、家々の戸口にたって「今日の衛生チェック、衛生チェック!」と叫んでまわった。 シロシロ隊がきたと