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スナフキンが看板をぬかなくなって

スナフキンは看板をみると奇声をあげながら次々と引っこ抜いて回った。世界中にある、ありとあらゆる看板が大嫌いだったから。
だから看板を立てる人がいても、世界ぜんたいそんなに看板は増えなかった。

でもスナフキンはまた旅にでてしまった。
看板を立てたい人たちはいつでもいるので、みるみるうちに看板は増えていった。

すべりだい逆走禁止
公園でのボール遊び禁止
プールでふざけてはいけません
大声でのおしゃべりはだめです
マスクをかんだらコロナになります
フードのある服で遊ばない
みんな仲良く、みんなおともだち
じゅんばんをまもってただしくあそぶ
思いやりのある子、ごめんなさいとありがとうが言える子

看板はいろいろだったが、言い返されない相手に向けてだけ書いているのはいつも同じだった
だれがその看板を書いたのか名前が書いてないのも同じだった
いずれにせよ、ひとたび看板に書かれことは「みんなのルール」となった

でも看板を書いているのは、公園の横に住んでいるトクメイさんだった。
いや正確には書いているのは、役場の人たちだった。もっと正確にいえば、役場の人に頼まれたペンキ屋だった。

トクメイさんが役場に電話をかける。
「あー、もしもし?役場かね。公共の場たる公園にてマナーを守ってないやからがいる。常識もへったくれもない。いち市民として非常に迷惑しておる。役場として、公園管理義務をどう考えておる?えへんえへん」

役場がペンキ屋に電話をかける。
「あ、もしもし、ペンキ屋さんですか。今から言うとおりに看板をかいてくれますか。ええ、設置はこちらでやります。ええ、ええ、なるべく急ぎで」

それから看板ができると、役場の人がいって看板を公園にさしていく。
「あーもしもし、トクメイさんですか。役場としてはですね、市民の皆様のお声におこたえして、看板をさしました。ええ、役場の仕事としてですね、みなさまの公園をみなさまに心地よく使っていただくのはもちろんのこと、近隣住民の方の住環境にも配慮しまして、ええ、ええ、またなにかありましたらおっしゃってください」

それからどんどん看板ができる。
公園ではお茶はのまない。他人の迷惑
犬は歩く。走らない。みんなの迷惑
桜をみるときはおしゃべりしない。
草花にはさわらない。草花がかわいそう。

トクメイさんは公園をじろじろ一日中ずっと見ている。
もし看板に書いてあることに違反している人がいたら、すぐに役場や警察に電話する。自分では言いに行かない。なぜならトクメイさんだから。

警察は電話をうけるとサイレンを鳴らしてパトカーでかけつける。
「おしゃべりしている人、看板が見えないですか。解散、解散。そっこく解散してください。解散、解散」

警察に注意を受けた人はむしゃくしゃした。
それで、つぎ公園にきたときに看板に違反している人がいたら、警察に電話した。
「もしもし、警察ですか、看板に書かれていることに違反している人がいますよ。え、わたしの名前?そんなことなぜ言わなくちゃいけないんですか。一般市民です、トクメイです」

こうしてまたトクメイさんが一人増えた。公園はみんなの公園になり、だれのものでもなくなり、看板だけが立っていた。


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