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ハナゾチル―六本木歌舞伎2022

まだまだ新型が落ち着かない昨今ですが、観劇はしたい。
だってそこに上演作品があるのだから。

今回は市川海老蔵さんが主演を務める「六本木歌舞伎」シリーズの4作目、
「ハナゾチル」の感想を。
私の観劇体験も、いよいよ歌舞伎界の入口に突入です。

「ハナゾチル」は「青砥稿花紅彩画」をベースに現代パートも絡めた、新解釈版といったものだそう。
「青砥稿花紅彩画」とは――――
“白浪五人男”と呼ばれる五人の盗賊を主人公にした、歌舞伎の中でも人気の演目。作者は河竹黙阿弥で、台詞は七五調のリズムが特徴的。

さて、今回は戸塚祥太さんが出るということで、張り切って観劇してきたのでその感想を。
歌舞伎の知識皆無人の感想であることはご容赦いただきたい。

まず劇場に入ると、舞台にはビルの屋上と夜景が。
歌舞伎と聞いてこれを想像する人はいないであろう現代景色。
というか幕が下りていないことも意外な点でした。
てっきりあの3色カラーの幕が下りていると思っていたので・・(幕間では幕が下りてました。)

幕開けを知らせるのはシブいベース音。
ベースを奏でるのは、BABYMETALの神バンドなどに参加しているBOH氏。
珍しい6弦ベース奏者で、よくよく調べてみるとなんと下村陽子氏の楽曲も弾いたりしているらしい・・・!
BOH氏の独演はテクニカルで哀愁たっぷりに聴かせてくれた。
それはまるでジプシーキングスの「インスピレーション」のような、趣をビシビシと感じざるを得ず、すっかり聴き惚れてしまった。
そこに和太鼓奏者として活躍する辻勝氏の太鼓も加わり、一気に『六本木歌舞伎』の世界へと私たちを誘っていく。

すっかり浸ったところで花道から登場するのは、青いスカジャンに黒いニット帽姿の戸塚。つまらない世の中を面白おかしく生きるために盗賊集団を率いて悪さをしているようだ。
いつものように盗みを働いた戸塚は美術館の屋上で警察に囲まれ、いよいよ年貢の納め時かと思われたが、「倅・・・」と語りかける謎の声に呼ばれるように屋上から飛び降りるのだった―――。

なお、このとき戸塚が盗んだものは「胡蝶の香合」だそうで、これは原作「青砥稿花紅彩画」においてはキーアイテムとなるもののようです。

場面変わって、時は江戸時代。
お寺で町人同士が盗賊の噂話をしているなか、身を隠す戸塚は事態が呑み込めずにいた。
千寿姫の一幕を挟み、やがて父親と名乗る幸兵衛に連れられ戸塚は“宗之助”として浜松屋へ行くことに。

これは初瀬寺の場面ですね。千寿姫がとってもキレイでした。
女町人の方もそうでしたが、所作が女性より女性で見惚れてしまうんですよね。あとは、どこからそんな声が出るの・・と芸事の世界はとんでもないなと感動しました。

ここで登場するのは忠信利平と赤星十三郎。
大金を必要としていた赤星はお金を盗んだことがバレ、お縄につくところだったのを忠信利平が救出、忠信は百両ものお金の工面までしてくれる。
赤星と忠信はかつて主従関係だった間柄で二人は再会を喜び、こんな大金をやすやすと出すとは今は何をしているのかと赤星が問うと、忠信はなんと巷をにぎわせている大泥棒・日本駄右衛門の子分をしているとのこと。
身を滅ぼすも身を助けるも盗んだお金か・・と何かを悟った赤星は自らも駄右衛門の一味に加わることを決めるのだった。

場面変わって、場所は浜松屋。品揃え豊富な呉服屋だ。
活気あるお店に、美しい娘とお供の侍が訪れる。
婚礼の支度として様々な品物を見定める娘に、思わず番頭も手代も色めき立つのであった。
品定めも終わり店を出ようとしたその時、あろうことか娘は胸元に端切れを忍ばせ隠そうとしているではないか。
いくら色めき立とうともそれは見逃すはずのない番頭・手代は娘と侍を盗人だと非難し、さらには娘の額に傷まで負わせてしまう。
だがしかし、娘が胸に忍ばせていたのは他のお店で購入したものだった。
証拠の符丁まで出されてしまえば、番頭・手代は謝るしかない。
娘の額に傷を負わせた責任をどう取るのかと迫る侍に対し、最終的には百両で手打ちとすることに。
これで万事解決・・・の瞬間、先に浜松屋に訪れていた、それは見かけも立派なお侍・玉島逸当が、その娘は女ではなく男であると見抜き、娘と侍はあっさり正体を現す。なんと二人は日本駄右衛門の一味、弁天小僧菊之助と南郷力丸だった。バレちゃあしょうがねえと百両はお返しし、傷の膏薬大として二十両だけを受け取り、二人は浜松屋を後にした。

弁天小僧はその美貌から、女に化けて美人局などをしていたようですね。
今作では海老蔵さんが弁天小僧だったわけですが、女形のイメージが無かったので新鮮でした。ああもたおやかな振る舞いができるんですね・・!
割とはっきりした顔立ちの方だと思いますが、見事に涼やかで流し目が色気たっぷりの娘さんで惚れ惚れしましたよ。
ここがかの有名な「知らざぁ言って聞かせやしょう」の場面。
浜松屋で堂々とくつろぎ始める弁天小僧と南郷力丸がどこかチャーミングで、愛嬌満載で演じられていました。

さて、あの弁天小僧・南郷力丸から浜松屋を救ってくれた玉島逸当に、主人・幸兵衛は織物などでお礼の気持ちを示すも玉島は「金子で所望する」と告げる。慌てて包もうとする幸兵衛に「その必要は無し、有り金全てもらい受ける」と黒頭巾を外す玉島は実は日本駄右衛門その人であった。
弁天小僧と南郷も合流し、駄右衛門は幸兵衛に多額の金子を要求、支払えないのであればまずは息子の命からもらうぞと脅しにかかる。
息子の命は勘弁してくれと懇願する幸兵衛。
聞くと、宗之助として育てている息子は実の息子ではなく、幼いころにどさくさで取り違えてしまった子なのだと言う。
本当の息子には巾着を持たせていたと話す幸兵衛に、おもむろに巾着を懐から取り出す弁天小僧。
さらには宗之助の腕には独特のあざがあり、なんとこれは日本駄右衛門の腕にもあるという。
なんという奇遇か、幸兵衛と弁天小僧、日本駄右衛門と宗之助が、それぞれ実の親子であることが判明。
感動の再会もそこそこに、お役人たちに囲まれ始めていると知った駄右衛門一味は足早に浜松屋を去ることにする。
最後に宗之助の手から、実の父親・日本駄右衛門に揃いの五着の小袖を手渡す。「お、、親父さまあ」と呼ぶ宗之助に、思わず涙があふれる日本駄右衛門であった。

ここまでが一幕です。
この蔵前の場面はあまり上演されないらしいですが、結構大事なことが明かされていますよね。
ここで実の親子が二組も再会するなんて、そんなことは普通は無いでしょうが、そんなことを言うのは野暮ってもんでしょう。
こういうドラマティックな展開も、物語ならではですね。
ここで出てくる宗之助は戸塚くんなわけですが、ばっちり江戸時代の町人の姿になっています。これがまた似合っていて。
ド頭ではあんなやんちゃしてたのに、急に品のある呉服屋の息子になってるもんだからギャップにドキっとしますよ。
下がり眉なのが可愛い。一気に年齢下がった雰囲気になるのも不思議。
戸塚くんて普段から実年齢にもあまり見えないけど、見せる表情によって幼くなったり大人になったり、女の子になったり、漢!になったりで、ホント化ける人だなあと思います。

二幕は、追手が迫る中、五人が揃いの小袖に番傘を手に持ち勢揃いする稲瀬川の場面から。五人はひとりずつ花道から登場し見得をきる、初っ端にして見せ場ともいえる。
それぞれが名乗りを上げ立ち回りを演じ、見事追手を打ち倒して先へと進む五人だったが、追手が迫る傍らには手下の裏切りがあった。
裏切り者に騙されてしまった駄右衛門と弁天小僧を救うため、南郷・忠信・赤星は極楽寺へと急行する。

運よく花道の出入り口近くの座席で観劇できた日があり、二幕最初の見得きりを間近で観られてとても感動した。人生でなかなか生の見得きりを見る機会はありませんからね。
この五人が名乗りを上げるシーンは特撮の原点とも言われているようで、大いにインスピレーションを受けたようです。白浪五人男は七五調でいわば自己紹介をするわけですが、今の特撮も自身の特徴とするところを上げ名乗りますもんね。
このとき、それぞれ自分が名乗るまでは番傘をしっかり浮かせて握りしめているのですが、演者陣の身長さのせいか、南郷演じる右團次さんはちょっと高めに腕を上げて傘を構えていました。ほかの四人の背が高めなので合わせるためにそうしていたのだと思いますが、個人的にはここが非常にツボでして。語弊を恐れず言いますが、なんだか可愛いなあと・・。しかも南郷の名乗りは一番最後なので結構しんどかったのでは・・と勝手に心中お察ししてしまったり。

ここまで白浪五人男の行方を見てきた宗之助もとい戸塚は、なぜ自分がここに呼ばれたのかを考え始める。他人のために命がけになれる南郷たちはどうかしていると、その行動原理が理解できない戸塚。
ただその日を面白おかしく生きればいいとしてきた戸塚は、日本駄右衛門・幸兵衛のわが子への思いや南郷たちの仲間への思いを見せつけられたことで、“生きる”とはどういうことなのか、その意味を掴み始めていく。

江戸を生きる面々の魂の熱量を目の当たりにして戸塚は自分がただの負け犬だったと悟り、こんな思いをさせるためにこの時代に呼んだのかと恨み節をこぼしますが、他人を思いやる心に触れ、人として生きていくことの在り方を見出していきます。
また、ここは戸塚くんのソロ大立ち回りの見せ場で、見得きりにも挑戦していました。
舞台は極楽寺。冒頭で美術館屋上から飛び降りたように、今度は極楽寺の屋根から飛び降り現代へと戻っていきました。(という解釈で合っていると思うのですが。。)

戸塚が極楽寺から飛び降りたあと、同じ場所から弁天小僧が登場。
ここから怒涛の大立ち回り演舞が始まり、なんとか追手を倒しかわしていくものの、弁天小僧は次第に追い詰められていく。
それに呼応するように現代編の戸塚も登場、こちらも多くの警官をかいくぐっていく。弁天小僧VS役人と戸塚VS警官が舞台上に入り乱れるクライマックスシーンへと突入。
やがて観念した弁天小僧は、極楽寺の屋根で見せつけるように自ら腹を切り見事な最期を迎えるのであった。
舞い散る桜吹雪の中その光景を南郷以下仲間たちと戸塚が見届け、幕が下りる。

一幕が70分ほどだったのに対し、二幕は30分程度なのですが、ほぼ立ち回っていました。特に極楽寺の弁天小僧はノンストップ長時間の立ち回りで、二幕の半分くらいはここのシーンだったんじゃないかと思うほどです。
立ち回りだけではなく、見得きりもふんだんに盛り込まれていて見応え抜群!見得きりって今で言うスクショタイムみたいなもんかな・・なんて思ったりして、見得きりの度に心の中でスクショしていました。
役人の方々もアクロバットをこれでもかと見せてくれたので迫力も満点。
最後は現代編戸塚くんも出てきてアクションしているので、目が・・追い付きません・・。

初めての歌舞伎の世界、とても楽しかったです。
いわゆる本場の歌舞伎からすると現代色が強いのでしょうが、歌舞伎の片鱗に触れられて、その魅力が少し分かった気がしています。
お侍の化粧がカッコいいなって。
あと、町人や従者が膝小僧のあたりに白い布を巻いてたのが気になりました。あれは膝がつきやすいようにするものなのでしょうか。

カーテンコールは毎度1ネタ2ネタやっていたようで、公演ごとに戸塚くんがざえび踊ったりVanilla踊ったり、ときには他の役者さん巻き込みで、最後まで会場を盛り上げてくださいました。
残念ながら戸塚ギターとBOH氏ベースの共演は観られず・・

戸塚くんと役者さんたちの仲も良さそうだったので、また何かご縁があると嬉しいですね。


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