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障がい者の「雇用代行」と「就労支援」

障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用(Yahooニュース)

近年急増・急成長している障害者の「雇用代行」ビジネス。
①障害者は常勤雇用の立場と最低賃金以上の報酬を得ることが可能となり、②企業は法定雇用率(後述)を達成、③行政は障害年金などの社会保障支出抑制に繋がり、④事業者は手数料で利益を得るというもの。
結論から言うと「障害者の雇用」「法定雇用率の達成」を目的とするなら一つのモデルとなり得ますが、「障害者の社会参加・自立支援」「社会的包摂」を目的とした場合に「障害者の緩やかな排除に繋がる可能性がある」と見ています。

障害者の法定雇用率について

前提として「法定雇用率」について少し解説します。
従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条第1項)
常時雇用労働者数が100人超の事業主が法定障害者雇用率を超えて雇用している場合、超えて雇用している障がい者数に応じて1人につき月額27,000円の障害者雇用調整金を受け取れたり(未達の場合は納付金)、自治体による調達に有利に働いたりします。
一方で、障害者雇用を行うにあたっては、障害者雇用推進者を配置して業務のサポートやワークフローの見直しを行うだけでなく、当然のことながらバリアフリーにかかる設備投資や合理的配慮が求められます。

この「法定雇用率の達成による優遇」と「障害者雇用に伴うさまざまな負担」を外部化/ビジネス化したのがこの「雇用代行」です。

ニュース記事に<違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は対応策を打ち出す方針だ>とありますが、障害者の雇用について俯瞰してみるとそう単純な問題でもないのです。

例えば「特例子会社」という制度。障害者の雇用の促進等に関する法律第44条の規定により、一定の要件を満たした上で厚生労働大臣の認可を受けて、障害者雇用率の算定において親会社の一事業所と見なされる(法定雇用率に算入できる)子会社のことを指します。親会社の単純作業を抽出したりするわけですが、形式的には親会社から「切り分ける」ということです。どこまで会社の管理下におくか、直接的な雇用関係とするのか…雇用代行ビジネスはこの延長線上にあるのではないかと見ることも可能です。

また「就労支援事業所」に関しては、一日あたりの報酬が設定されており、一定数の障害者に利用してもらわないと事業の維持継続が困難になります。
当然のことながら厚労省も対象者の就労定着率が高いほど基本報酬の単価が上がるようにするなど就労促進の取り組みはしているものの、事業の維持継続を目的とした事業所による「障害者の囲い込みが発生しかねない」という問題は解消に至っていません。
あるいは事業所の実績作りのために、いわゆる生産性が高い障害者の就労支援に注力するクリームスキミング(ある分野の市場におけるいいとこ取りのこと。チェリーピッキングとも言います)が起こっているとも言われているのが現状です。

上記の就労支援事業の場合、最低賃金も減額特例制度(適用除外制度は平成20年度に廃止)があり、2018年の調査によると就労継続支援B型は月額の平均賃金は約1万6千円、雇用契約を結んで働く就労継続支援A型は約7万7千円。一方で「雇用代行」はいわゆる正規雇用であることが多く、最低賃金を保証されているため報酬はどちらが多いか言うまでもありません。

また、雇用代行ビジネスが問題視される理由として制度の隙間をついているといった批判のほか、多くの代行事業者が手掛けているのが農園など本業とほとんど関わりのない業務だから殊更に取り上げられているのかもしれません。
しかしながらリモートワークが普及してきた昨今、シェアオフィスの体裁で汎用性の高い総務経理などの事務を行っている代行事業者もあります。サポートしてくれる専従スタッフがいて業務環境も整っているケースも多く、どこからどこまでをNGとするかというのは非常に難しい問題です。

結論。現行法で規制しきれない以上、あとは障害者ご本人が「どのような働き方を望むか」ということなんだろうと考えます。
いわゆる健常者にも同じことが言えるのではないでしょうか。職場で同僚との交流を望む人もいればリモートワークを望む人もいます。とりあえず給料をもらえればいいという人もいるでしょうし、生きがいや誇りを見い出す人もいます。
雇用代行にしろ就労支援にしろ事業を維持することが目的となり、障害者の生きがいや誇りを毀損したり、自立を阻害したり社会からの排除に繋がる可能性がある制度や環境は見直す必要があると考えます。さらに言えば苦役としての労働からの解放はいわゆる健常者も含めて包括的に考えるべき事柄です。

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