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小説「死ぬ準備」順不同読み切り版

3ー宝の島台湾の純朴で勇敢な高地民族

霧社事件とは台湾高地民族・通称高砂族が起こした反乱事件である。霧社小学校運動会場が襲撃された。学童の家族は和服で参加していた。その和服が目印になった。黒い官服も同様である。子供を含む日本人約130人が殺された。

反乱の背景には様々なことがあげられる。でも最大の原因は不況だ。アメリカで起きた1929年の世界恐慌が台湾奥地の山地民族にまで影響していた。誰も仕事も金もない暮らしにうんざりしていた。高砂族も同じだ。せめて獲物でも取りたいが猟銃弾を警察に管理されている。反乱や暴発を防ぐ為である。おまけに警察は得意の飴と鞭をつかう。反抗的でない蕃社には銃弾を多く支給するが、そうでない蕃社には渋る。そこでも不満はつのる。

生きるために、神木と崇める樟脳まで切りだしてきた。火薬の原料になるから売れる。売れるから切り出しに応じた。でも対価は払ってくれない、遅れる。払いたくも実は警察にも金がない。樟脳は防腐剤や香料の他セルロイドや火薬の原料にもなるから輸出できる、その金も遅れる。

台湾は豊かな島である。ヤマには果実が野生している。亜熱帯だから米は二度とれる。南では三度もとれる。それができたのは灌漑事業を長年行ってきたからだ。指揮したのは日本人八田である。かれの努力によって南は豊作天国になった。

台湾は稼げる島なのだ。その稼いだ金で朝鮮をよくした。上野浅草間に地下鉄が走ったあと慶城(ソウル)にも走った。台北には走らなかった。台湾で稼いで朝鮮につぎ込んだと噂される。

樟脳切り出しは生きるための選択だった。それを日本人は無視した。少なくとも彼らはそう思たた。台中州の警察本部に直接請求してもダメ。何処にも金がない。肝腎の金が入ってこなければ生活できない。

不満はうっ積する。そんな中で美形の高砂族女性と若い警察官が恋をした。実は女には婚約者がいた。厄介な三角関係である。女心が警察官に傾いた。高砂族青年と日本人警察官の間で諍いが起きる。回りの若者も煽った。頭領のモーナ・ルダオも抑えが効かなくなりつつあった。

支配者側の男性と支配される側の女性の恋は危険だ。戦後日本でも、日本人女性と米軍兵士との恋はもめごとの種になった。支配される側の男性にとって政治的に支配されるだけではなく、女まで奪われる。屈辱以外の何物でもない。もしミャンマーのクーデター問題も、政治家スーチー氏の夫がミャンマー人だったらここまで深刻になることはなかったろう。想像である。

モーナ・ルダオは蕃社一番の切れ者である。学もある。だから台中州警察理蕃課も丁重に扱った。数か月間日本旅行にも招待した。彼も反乱を炊きつける若者に警告した。日本警察は強力な組織である。背後に日本陸軍がいる。お前なんか相手にならないと嘲笑した。
しかし結果的に霧社事件は起きた。

そんな複雑な事情故に、終戦後霧社事件は中国本土を追われた蒋介石によって「抗日蜂起」にすりえられた。二二八事件(台湾に進駐した蒋介石軍と現地台湾人の抗争事件)を隠すために霧社事件は好都合だったのである。

二~三万人が殺された二二八事件を掻き消すために都合のいい事件だった。中国本土を追われた蔣介石軍と日本人を「犬去りて豚来たる」 といった。中国語で狗去豬來と書く。日本人が去ったと思ったら今度は蒋介石だ、せっかく台湾独立のチャンスだったのに。

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満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。