彼女と別れる少し前の話。

ご飯は彼女が持って帰ってきたコンビニの廃棄だった。
体に悪いなと思いながらも、生命線のそれを2人で美味しいとむしゃむしゃ食べた。
私達はお金がなかった。だけどこの小さなアパートの一室があれば多分何もいらなかったんだと思う。
そのアパートはコーポすみれという名前で六万円の家賃を2人で折半して払っていた。
三万の出費でさえ、ひーひー言いいながら、私はリラクゼーションのアルバイトで月に15万ほど稼いでくるそんな暮らしだった。
どうでもいいようなことで喧嘩して、
例えば前の彼女が好きだった大塚愛の曲の楽譜一枚を見つけただとかそんな事でわーわー喚き散らしていた。
ありとあらゆる物に嫉妬して残ったのはお互いだけ。
精神を病んで仕事に行けなくなりお金が底を尽きると、そこにはいれなくなった。
最後まで守ったのはこのアパートの一室で、それぞれの実家に散り散りになって荷物が運び出された時の感情が意外にも安堵だったので、お金がないということはそういうことなんだななんて思ってしまった。
さよならの前に彼女の実家に行った。
栃木の名所である場所だから、折角だし観光地巡りでもしておこうとなった。
滝を見て、牛串を食べ相手の口に運び、冷たい風を浴びた。
見猿聞か猿言わ猿を見に行こうと彼女は汗ばんだ手で私をひいた。
何も見なかった聞かなかった言わなかった私たちが辿り着いた場所がそこでなんだか少し笑えた。

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