【宗教2世支援者養成講座10】公的支援と私的支援


 「公助・共助・自助」なんてことばが最近よく聞かれるようになってきましたが、もともとこれらの言葉は「災害」が起きた時にどのような支援の手段があるかについて説明したものでした。

 政府や自治体、行政が行う「公助」と、地域住民などの横のつながりで助けあう「共助」、それから自力で災害から身を守る「自助」があるよ、という意味合いで用いられた言葉です。


 宗教2世問題についても、同じようなことが言えるのですが「公的な支援」「私的な支援」「自己支援(セルフケア)」のようなものが考えられると思います。


 しかし、連載の一番最初である「はじめに」でも述べましたが、社会的にはまだ宗教2世という存在は「発見されたばかり」の存在です。ですから公的な仕組みや公的支援については、まだまだ議論すらスタートしていないのが実情だと思います。

 つまり、これから今日の記事で「公的支援」についても触れはしますが、現段階では「夢物語」であることも合わせて理解しておきたいものです。

 その夢物語を実現させるために、どのような活動ができるのか、どのように声を上げてゆけばよいかも、合わせて考えてみたいものですね。



<宗教2世に対する公的支援>

※ここから書くことについては、現時点では実現していないアイデア止まりであることも踏まえながら、議論のベースにしてゆきましょう。

■ 宗教環境下にある子どもたちへの「情報提供」
 ……自分たちが置かれている環境に「宗教バイアス」が存在しているかもしれないよ?もしかしたら「虐待」に相当する状況かもしれないよ?と気付いてもらうための、広報。

■ 理論上すべての子どもたちにつながるはずの「学校でのポスターやチラシ」
……宗教虐待や宗教バイアスによって、家庭に問題が起きているかもしれないことを啓発するためのポスター・チラシを子どもたちの手に届けること
(公民館・児童館なども含む)

■ 児童相談所や、市町村の福祉・教育関係部署における「宗教虐待問題」の研修・周知
……これまで通常の虐待や家庭問題として判定されていた内容に、「宗教的な問題」が含まれている可能性への示唆。それに対応した職員研修などの実施

■ 現実問題としての「シェルター」的機関の設置
……理論上は現時点では児童相談所がその機能を果たすことになっているが、それ以上の踏み込んだケアや、設置数の物理的な増加など。

■ 宗教環境下における問題が「人権問題」に関わることの周知
……従来の「人権問題」に関する領域の一つとして「宗教環境下」においてそれが生じることの定義付け。法務局・人権擁護局管轄の人権問題対応など。


 ざっと思いつくものをアイデアとして挙げましたが、

「虐待」は厚生労働省
「教育との関連」は文部科学省
「人権問題」としては法務省

などが関係してきます。厚労省からは「宗教虐待に関するガイドライン・Q&A」が出ましたが、他の機関としてはまだ目立った動きがありません。というより「問題提起」そのものが、まだなされていない状況だと思います。

 「こどもの人権をいかに確保するか」というテーマが、まさに今日本でスタートしたばかりで、実はまだまだ議論すべきことが山積している、というわけですね。

 考え方としては

■ ある子どもが宗教環境下で問題に直面して困っている。

■ その子の声を拾う機関はあるか。その子に気づく機関はあるか。

■ その子が「発見」された後、どこへ繋げば解決や対処ができるか。

■ その子や、かつて「その子だった大人」がどうしたら自立して健やかな暮らしができるか。そのための公的支援は何が考えられるか

という流れです。

 現時点では、どこの行政官であっても、どこの公的職員であっても、このフローチャートにおいて「どうしたらいいか」わかっている人はあまりいないと思います。これは当然で、そういう制度やシステムが ”未整備” だからです。

 ということは、そういう制度やシステムを整備するために、「具体的に僕たち私たちは、何をしてゆけばいいのか」という話だとわかりますね!

 各省庁への要望の提案、問題点の洗い出しと解決案の提案、私的団体等と公的機関をつなぐ活動、など検討すべきことはたくさんありそうです。


========


<宗教2世に対する私的支援>

 さて、後半は「私的支援」です。これは「共助」の部分に相当するものと思います。

 私的支援については、これまでこの連載において特に力を入れて取り組んできたものですが、それでも限界があって、

■ 助けを求めている「子ども」に出会えれば、支援が発動できる。
■ けれど、現実問題の「子ども」は、支援の情報にアクセスできない。

という課題が最初から存在しています。

 なので、公的支援の項目で書いたように、行政などからのプッシュ型の情報提供が大切で、まず当事者である「子ども」に気付いてもらう必要があるかもしれません。

 宗教や教団に対して、自浄作用を求めることも可能性としてはあるかもしれませんが、それはあまり期待できないものとして想定すると、「行政の公的プッシュ」と、「私的支援者のバックアップ」が連携することが大切かと思います。

 現時点での私的支援は、基本的に

■ 「来訪者相談(オンライン含む)」
■ 自助グループ活動

などが主になっており、支援者や支援団体から積極的に働きかけての「当事者へのプッシュ型支援」は、まだ行われていません。

 つまり、「困っている2世が、探しに探して、ようやく自助グループや支援窓口にたどりつく」ということがかろうじて可能なだけで、その他大勢の当事者たちは

「どうしていいかわからないまま、自分で探さないと情報にもたどり着けない」

という現状と考えて差し支えないでしょう。


 私的支援者としては、これを打開するには自ら行う数多くの情報発信が欠かせないと思います。

 変なたとえですが、『日曜日ごとに各戸をピンポンしてやってくる人たち」よりも多くの情報を届けるにはどうしたらいいか?という視点が大切なのです。

 宗教2世の支援においては、基本的には「宗教勧誘者」のスピードや物量のほうがはるかに速く、多いので、基本的には負け戦です(苦笑)

 向こうはそうすることで「神の国へ行ける」等のメリットを信じていますから、人件費も発生しません。こりゃあ、なかなか勝てないです。

 しかし、後手後手に回るのは致し方ないとしても、それに追いつけるような情報発信は必要だと思います。


<宗教2世に対する自助・セルフケア>

 最後になりますが、自分で行うケア、自分自身に対しての心身の整理については、以前のnote等で触れています。記事の内容が古い場合があり、いくぶんかのブラッシュアップは必要かと思いますが、ご参考にしていただければ幸いです。



========

 以上のように、2023年現在では、まだまだ「公的支援」の部分が弱く、どうしても個々の「私的支援」の力が大切になろうかと思います。

 いろいろな力を結集して、公的支援と私的支援のバランスが取れるような体制づくりがしてゆければ嬉しいですね!


(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?