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story 星の船

少年がひとり
静かな夜の浜辺で
大きな月が波間を照らすのを見ていた

遠く近く打ち寄せる波が
重なり合うように音を響かせている

少年はふと
何かを聞いたような気がした

…まもなく開く…


活気のある慌ただしさが
少年を包み込んでいく


…荷物は積んだか、そろそろ船出だ…


男たちがそれぞれの持ち場で
忙しく働いている


…船員はそろったか…
…まだひとり、来ていません…


少年は不意に
肩を強く掴まれた


何をしているんだ
さっさと乗らないか

まもなく獅子の扉が開く
待ち望んだ世界へ行くのだ

さぁともに来い


力強い声は
少年を船の上へと引き込んだ

風が颯爽と吹いてくる

錨を上げた船は
波を割って進み始めた


目の前には
獅子の立て髪のような月が
煌々と光を放ちながら揺れている

船は吸い込まれるように
夜の空へと昇っていく

少年は
遠くなっていく浜辺を
打ち寄せる波間に消える
微かな記憶の欠片のように
感じていた


ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。