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美容室にいった。私などいないかのようだった。

特定の美容室にいつかない私が、もう3年ほど通っている場所がある。表参道と原宿のどちらからも少し歩く、住宅街の中の美容室だ。今回は、社内でのインタビューに備えてオレンジがかった金髪をどうにかしようとここに来た。普段半年に1度ほどしか現れない私だが、今日は1ヶ月半。ありえない短いスパンなのだが、それほど気合いが入っていた。

着いたときから、なんとなく「おや」っと思った。待機している人数が多い割に、スタッフさんたちから、どうするんだろう…的な雰囲気が感じられたのだ。あれ、私予約間違っちゃったかな、と確認するほど。結局は間違っていなかったけれど、「おや」っはそこからも少しずつ増えていく。なんだかやたらと躓いてしまうみたいな日だった。

席に通されてからしばらく待つ。渡されたタブレットはぐるんぐるんとローディングしたまま、なかなかページが表示されない。ぐるんぐるん。仕方ないからいじっていた携帯は、もう充電が23%だった。

はーい、としばらくすると担当の美容師さんがカウンセリングだけ指名したそのひとがして、あとは若いスタッフさんに色や塗りかたを指定する。始めてみるその男性スタッフは、新人さんのようだった。ヘラを何度も行き来させてカラー剤を塗りこんで、結局4人くらいが入れ替わり立ち替わり手伝ってくれて、色はいつも素敵に落ち着く。だから来ているのだけど。

前髪を整えてほしい。そう思っていた。鼻の頭が隠れるほど、伸びきってしまっていたから。でも慌ただしくカラーの色を決めていった担当の美容師さんには希望を伝えられず、まあでも予約してあるからな、と思っていたらポンチョは外された。あれれと思っているうち、どんなに巻いても目が隠れるほどの長さのままセットされた。

慌てて充電の少なくなったスマホで確認すると、自分のミスで、予約を間違えていた。あーあ。予約内容からブリーチがなくなった分、前髪を切ってもらう時間くらい十分にあったのに。宙ぶらりんの気持ちに整理がつかないまま、なんであのとき一言伝えなかったんだろうと落ち込む。自分が悪いといえ、完成系が自分の理想に全然マッチしないとき、こんな風な気持ちになるんだな。

そして、極めつけの担当のひとこと。「あれ、自分でまゆげ抜いた?」

は…?となってしまった。私はもともと眉毛濃いのは自覚あるし、まだ整ってない状態なのを少し気にしていた。それなのに、この状態で眉毛自分で抜くわけなくない?全部アシスタントにさせて、戻ってきたと思ったら、、それ?被害妄想かも知れないけれど「眉毛濃くて整えられてないね」と暗に指摘されているのかと思ったくらいだ。

他のお客さんにも聞かれていると思ったらてんぱって、いや、生えてるんです、とか美容室の真ん中で少し大きな声で言っちゃった私、さすがに可哀想だった。今思えば空気を和ませるための冗談だったのかもしれないけれど、だとしたら流石にセンスが無さすぎる。この人、仕事は的確なんだけど、美容室変えようかな、と初めて思った。

自分のキレイのために投資するんだから、ちょっと楽しみにしていた。なのに、少しだけ落ち込んで店を出る。前髪がだらんと目にかかったままのショックで、駅と反対方向に歩いていた。かわいくなるための期待は、どこで消費すればいいんだろう。いつも上を向いて歩く美容室からの帰り道、目に入るのは炉端のゴミばかり。

家に帰って、自分でばっさり前髪を切った。なんだか、疲れたな。こんな日もあるよねと思うけど、煮え切らないままだった。お疲れ様、自分。



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