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カート・コバーンが着ていた"Transvision Vamp"ウェンディ・ジェームスのフォトプリントTシャツ

■ロックのマッチョイズムとカート

live & loudというタイトルでDVDにもなっている1993年シアトルの荷物倉庫で行われたライブでカートが着ていたTシャツは80年代にほとんど一発屋的に流行ったイギリスのバンド Transvision Vamp のTシャツで全面に女性ボーカルのウェンディ・ジェームスがプリントされています。そしてそのライブで着ているジャケットは女性物だったりします。
カート・コバーンとクリス・ノヴォセリックの醸し出す雰囲気が他のロックアーティストと圧倒的に異なるのはロックのマッチョイズムみたいなものを感じさせないところだと思います。
もちろんマッチョイズムを感じさせないアーティストは他にもいます。時代的な背景もあると思いますが、例えば70年代のグラムロック、デヴィッド・ボウイなんかはそもそも性的なものを排除した所にあって男性でありながら過剰に飾り、化粧もほどこすことでマッチョを否定しているかどうかはすっかり覆い隠されているような感じですし、80年はゲイカルチャーによってマッチョを歪曲に変形させていたりします。それを完全に否定するようなスタイルのHR/HMもこの時代に隆盛を極めます。(実はアーティスト側にはゲイもいたので、HR/HMの音楽自体がゲイを否定するものではなかったりするのですが…)90年代は70年代のように覆い隠す必要もなく、80年代のように変形させることもなくロックに極端なセクシャリティを求めることは無くなっていたと思うのですが、その分アーティストのセクシャリティに対してもナチュラルなスタンスが出ている分カートの自然なマッチョを排除するような姿勢が醸し出されているような気がするのです。

Nirvanaのバンドとしての本格的な活動期間は1988年の中頃から1994年のはじめ頃までとわずか5年ほどしかありません。インディでBLEACHアルバムを出した後のツアー、1990年4月27日のライブではカートは女性モノの花柄ワンピース姿で登場してます。
その当時としては奇抜なアイデアの一つでしかかなったかもしれませんが、やっぱりカートのフェミニンなスタンス、ロックにおけるマッチョ・イズムの否定を初期の頃から感じさせるエピソードです。

そして、Nirvanaがブレイクした後もしばしば女性の服、たとえば結婚式で着るような白いドレスだったり、当時のコートニーが着ていたようなガーリーなフリル付きの白い襟のワンピースだったり、を着てステージに上がったりしていますし、少年ナイフ、L7、ビキニ・キルといった女性バンドをサポートしたり、Sonic Youthのキム・ゴードンや妻であるコートニー・ラブのような女性ロックミュージシャンとの親交の深さはマッチョイズムの否定のカウンターとして必然であったような気もします。

カート・コバーンが次のようなことを言っています。
Rape is one of the most terrible crimes on earth and it happens every few minutes. The problem with groups who deal with rape is that they try to educate women about how to defend themselves. What really needs to be done is teaching men not to rape. Go to the source and start there.
訳してみると、
レイプは世界で最もひどい犯罪の一つで、数分ごとに行われている。レイプ問題に取り組んでいるグループは、女性にレイプから自分を守る方法を教えようとしていること。本当にしなければいけないのは、男たちにレイプをしないように教えることなのにね。問題の源泉に向き合って、そこから始めるべきだよ。
というようなことです。
女性の立場に立った本質を述べているなぁ、と思いますよね。

■トランスビジョン・バンプのウェンディ・ジェームス

最後に、ウェンディ・ジェームズのTシャツのことももう少し触れておきたいと思うのですが、YouTubeでTrancevision Vampe 検索すればすぐにBaby I don't Care なんかが出て来ると思いますし、その他の曲でもボーカルのウェンディがそう見応えのあるボディでもないところ、女性的なセクシーさを前面に出して頑張っている姿が見れると思います。
カートもそんなところに思うところもありこのTシャツをチョイスしていたんじゃないかと思うこともできますね。
そこまで深い意味はなくただ手近にあって着ただけなのかもしれませんが、だとしても少なくとも酷いものだとは思っていなかったハズです。
このころ、モノクロのフォトプリントに手書風のタイポが入ったTシャツ、結構流行っていました。リチャード・アヴェドンが撮った写真を全面にプリントしたTシャツとかですね。このTシャツもそれ風に見えたりするので、これもまた90年代ファッション的かもしれません。
因にこのTシャツは現在でもウェンディ・ジェームズの公式サイトで販売している手に入ると思いますので、いいなぁ、欲しいなぁという方もまぁまぁ手に入れ易いものかと思います。
しっかり、カート・コバーンも愛用していたなんて商魂たくましい感じの文言が入っていたりして、そこもまた、カートなら苦笑いしてスルーするのかなぁなんて想像も楽しかったりするのです。


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