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猪VS下半身丸出しのわい

私はしがない勤め人なので日中は仕事をしている。そのため、毎日真昼間に罠の見回りにいけるわけではない。夏はいいけれど、この時期は日の出は遅く日の入りは早いので、6000ルーメンの懐中電灯をお共に日が暮れてから罠の見回りに行くことも度々ある。これはこれで楽しくて、6000ルーメンがあれば別に深夜にドライブと称して罠の見回りにも行けるし、嫌いではないのだけれどやっぱりちょっと怖い。
相手は動物だし人気のないところなわけだから、事故が起きる可能性だって大いにあるし、時々スマホの電波が届かない区域もあったりして、そういうところは車から降りないようにしている。
昨日は用事を済ませたら日は暮れてしまい、18時台だけど既に真っ暗だった。でもどうしても行っておかないと不安だったから、家に帰る前にそのまま見回りに行った。
別に問題なく見回っていたんだけれど、見回りの最後に、ここだけは軽トラが降りて少し歩かないといけないところがあって、そこに向かう途中の時点で私の尿意は既に限界を超えていた。ここは信号要らないだろうと思うようなところの山の麓のとある信号待ちでは、軽トラが上下にゆさゆさと揺れるくらい足を貧乏ゆすりのように揺らしながら尿意をごまかしている状態だった。
目的地までコンビニはなく、私は山で軽トラを降りたときに見えないところでサクッと用を足してしまおうと思い、6000ルーメンの懐中電灯とティッシュ2枚と使えるかわからないスマホを肩にかけて人影のない山に入っていった。思っていたよりまだそこまで寒くなかった。
青空トイレで女性が注意しなければならないのは私は蛇だと思う。マムシにお尻や下半身などを嚙まれたら心臓に毒が回るのが早いからかなり危ない。実際、昔はそれで亡くなる女性もいたのだとか。私のように不特定多数が見る可能性のあるネットの媒体に潔く山で用を足しているなんて書く恥も外聞もない女性は少ないらしく、当時の女性は蛇に噛まれてもそれを恥ずかしくて言うことができず亡くなった、そんな話も聞いたことがある。が、それを言ったところで血栓のある今だって間に合わない可能性は大いにあるから丈の短い見晴らしの良い草むらならまだしも、あまり整備されていない山はちょっと危険。要は蛇が隠れていそうなところは危ないよってことね。私はそういうことも自分なりに計算して、この時は舗装されている道の側溝、かつ人目につかないところで側溝に出るように用を足していたのだが、その最中、今から歩いて入ろうと思っていた道から何かが、しかも複数の何かが、すんごい勢いで走ってくる音が聞こえた。その状況を理解するまで3秒もなかった。3秒後には街灯がなく真っ暗なその場所だけど、少しだけ慣れた目の中に2頭のイノシシがこちらに走ってくるのがわかった。音が聞こえて顔を上げたらすぐっていう感じ。顔を上げた瞬間、私の体は無意識にティッシュで拭きあげながら(拭いてたんだよ、完全じゃないけれど。その美意識すごくない?)下着とズボンを一緒に上げて側溝の山側に「うわっ」と叫びながら飛び跳ねていた。つまり道を空けた。幸いスニーカーを履いていたので無事右足は山の斜面に斜めに足をつけ、左足は側溝を挟んだ道側でできる限り道から逸れたところにつけて、体は山側に置いた。完全に私にぶつかってくる、突っ込んでくると思った。覚悟した。そのときに下半身丸出しはやばいだろうと私の本能と理性が珍しく仲良く手を繋ぎ、拭くべきところを拭くとか拭かないとかよりも、それよりも何よりも下着とズボンを上げることを最優先事項だと判断したようだったけど、それは全て無意識でのことだった。
イノシシは私の方に来ることなく、私から1mほど先にある既に突き破ってあった田んぼへの防護柵を突っ切って田んぼに入っていった。真っ暗だったから全貌はすぐにはわからなかった。音で理解した。すぐに懐中電灯を当てたけれど、猪の姿は懐中電灯で探しても見つけることはできなかった。
人間用を足すときとか、お風呂なんかもそうだと思うけれど、裸のときって無防備だから冗談抜きで焦った。

これは終わったことだから書いているけれど、これで下半身丸出しのときに2頭のイノシシに体当たりされたら場所的にも私は怪我をしていたと思う。怪我で済めばいいけれど、鉄砲を持っていたのにも関わらず、山でイノシシに牙で散々責められされて身ぐるみを剝がされほぼ全裸、瀕死の状態で命からがら逃げてきた人を知っている。救急車の中で意識を失い、病院で回復し、今は元気に鉄砲持ってるようだけど、私も女だからさ、下半身丸出しで倒れているのを誰かに発見されたらどんな風に思われるかわからないし、恥ずかしい。にしても、猟師っていうのは男とか女じゃなくて、猟師という生き物なのだと思う。理解できなくない?客観的に私は思うけど、バカだなって。あ、私もそうなのか。

これは別の日の夜の写真だけど、山の麓で夜のドライブをするのは結構楽しいから好き。この望遠鏡は温度に反応するもので確実に動物を捉えているのがスマホカメラ越しにもよくわかる1枚。

つくづく思っていたんだけど、夜の山は動物のディスコタイムみたいなもので、そこに人間の入る場所はないっぽい。その山の中に人の話がわかる受付もなければ、なかなかチケットは手には入れないし、何を持っていようとゲストにはなれない。日が沈んだあとの山で発砲することはできないし、懐中電灯がないと足元が怖いなんて言っている私は自分の無力さを痛感し、行動を反省した。軽トラから出ない範囲ならまだしも、こんな場所に夜に来たらだめだって。外野は静かに偶然の出会いを楽しむか、ひっそりと用意周到にすべきだけど、そもそもどんな目的であれ、日が沈んだ後に山に入る理由ってあんまりないと思う。人間の勝手でここは俺の田んぼだ畑だ、だからここに入ってきたシシは殺すって大義名分をかざすのならば、シシにはシシの言い分があるだろう。

だけども だ・け・ど ☝これを書いている今は心の底からそう本音で思っているけれど、その事件直後、私は助かったのと同時にたった今までの目の前にあったリスクと引き換えに、音と気配で新しい獣道を見つけたことに興奮していて、安堵感が消えていくほどに今度はギラギラとした喜びが自分の中から湧き出しているのを感じていた。今振り返ると思考回路がちょっとアホすぎだろ、と突っ込みたくなる。
ただ、どうしてそんなことを思ったかっていうと、私はまだまだ経験不足だから絶対なんて言えないのだけど、獣道と獣の足は時期や理由により変わるのだ。そこを見極めるのは私はまだまだまだまだだと思っているから、今日目の前でリアルにシシが今使っている道を知ることができたこと、しかも2頭いたことで、私をおかしな思考回路になっていた。完全にアホだ。

山の夜にこんな熊がいたら楽しいだろうけど、山のディスコに人間の入るチケットは存在しないし、たぶん結構下剋上チックなんじゃないかな。意外とアナグマ辺りが幅を利かせていたりして。

今年は熊の事件も多く、ニュースで流れる悲しい事故と事件は見ていて心が痛くなる。また、私が自分の目で見てきたものから思っている、動物への誤解についてはなるべく虚無ってる。だけど今回、もしも私がこれで危険な目にあっていたら、ニュースになる可能性もあったし、誰も得しなかったし、自分もつまらないことになっただろうと思うと、夜の山はむやみに入っちゃだめ、絶対。熊だっていないとは限らないし、私は熊はほぼ経験がないので、熊が危険な動物だと言い切りたくないし憧憬を抱いている。だけどその経験不足からいきなり山で出くわしたら何が起きても不思議ではない。歌にある森のくまさんだって、日がくれた山にいきなり強力なライトでえっさほいさ登ってきた見慣れない人間に対しては「え、なんだよコイツ!?は?はー!??向こうに行けよ、ここは僕のテリトリーだ。おい!(手)パーン」なんて、熊サイドの比較的軽い言い分で背中叩かれたとしたら、例え熊はやる気がなかったとしても、最悪は一発KO。ゴングが鳴り響くなか、私は天国への階段を上ることになるかもしれない。天国ならまだいいけれど、天国も予約がいっぱいで並んでいるからなかなか入れてくれないってじいさん達が会話の度に言っているんだから、私なんかまだ及び出ないだろう。地獄は嫌だしな。

こちらリアル森のくまさん。だけど森のくまさんの歌のようなくまさんは本当にいるんだよ。さすがにネックレス届けてくれないけれどね。でも、人慣れしていない熊が人里近くに降りてきている場合は、お互いに大変なことになりかねないし、ましてや夜はやっぱり怖いって。森のくまさんを遠くから見ていたいとは思うけど。
このくまさんにだって背中叩かれたら相当やばいことになるし、熊には底知れぬ魅力を感じる。

様々な匂いと共に☞

思ったより早く帰宅した彼女は「バブ!ああよかった!また会えてよかった!幸せっていうのは日常にあるってこのことだよ。山で死ぬかと思ったんだよー!大変だったんだよ!本当に…。それよりさ、ちゃんと拭けてないから下着替えたいしお風呂入ってくる!」と、躾なんかされなくてもネコの本能として備わっている綺麗好き故に、無意識なトイレの失敗など一度たりともしたことのない僕に、自らのトイレの失敗談を恥も外聞もなく機関銃のように激しく語ってくる彼女を、僕はお皿に入れてもらったばかりの夕方のみ出されるカルカンのパウチを食べながら、耳だけ傾けて聞いていた。彼女の言い分は分かったし、それは大変だったと思った。
だけど、お風呂に浸かる習性を持つ彼女のことを僕は信じられない。僕にはあり得ない。お風呂っているかな?僕は過去3回お風呂に入ったことがある。正確には入れられただけで、僕が自分から入ったことなどない。そして、できることなら入りたくない。ネコはお風呂に入らなくても別に困ることはない。だって自分でキレイにできるからね。それなのに彼女は最近寒くなってきたからという理由でお風呂にお湯を溜めて湯舟に浸かるんだけど、それを僕は、彼女は不器用なところがあるし溺れるんじゃないかと心配だから、湯舟の淵に登って上から見てやっている。僕も肉球が濡れる程度は問題ないし、お風呂でゆらゆらと揺れるお湯を眺めるのは嫌いじゃない。彼女の足が動くのでそれを捕まえようと本能的に湯舟に右手を入れてしまうことが多々あるし、暖かいお湯だと喉越しも良いので失敬することもある。うまい。うまいのさ。ネコはお湯が好きな生き物で僕も例外ではない。
そんな僕に「バブ心配するなって。溺れやしないし、お前も一緒に入るー?」とお湯の中で足を動かして魚に見立て、僕の本能を誘惑してくる。僕はその誘惑に負けそうになる。というか、まんまとハマってしまいがちだが、混浴については断固拒否。僕はお断りだね。
熱いお湯を足そうと蛇口をひねると、設定がシャワーになっていたので、僕にシャワーの水がかかってきた!最悪だ!ひどい目にあった僕は彼女を見捨ててベッドに行き、舌で水分をふき取った。なんて日だ!僕が苦々しげに体を舐めている姿を見て、彼女は言った。
「ちっちっちっ。バブも弱いね、そんなの甘いって。私は山でマジでやばかったんだって。青空トイレも警戒すべき点がまだあるね。しかし!今日はいいネタができた」
と、喉元過ぎれば熱さ忘れるをかなり短時間で表す彼女の言動に、いいからちゃんとコンビニのトイレ行けって思ったよね。あと学習しなよって。大体コーヒーの飲みすぎだし、そもそも寒くなってきたのに水分全体摂りすぎだよ。いつも動いているから喉が渇くのもわかるけどね。だけど、夜の山は気を付けてよ。僕は彼女がいないといつものご飯にありつけないんだから。

牛肉に舌鼓を打つ広報ネコの僕。彼女がやられたら僕はくいっぱぐれることになるじゃないか。
それは冗談だけどいつまでも暗くなった部屋に一人でいるのはつまらないから気をつけて早く帰ってきてよ。




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