見出し画像

【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第21回)

前略

これからお前に大事なことを伝えなくてはならない。
俺は残念ながら約束を守れない。
本当に申し訳ない。
これはお前の奥さんにも伝えてくれ。
もうお前たちに会うことはきっと永遠にない。
本当にすまないと思っている。

だけど、自分の決断に後悔はしていない。
正しいことなのか、間違っているのか、今は分からない。

俺が今からやることで、きっと大勢の人間が死ぬと思う。

人の死は、一つ一つはとても悲しい出来事だし、それは逆に生きていることの意味を俺たち残された人間に突きつけてくるものであるということは、十分承知しているつもりだ。
だけど、人類全体が、いや、この星そのものが、誰かの死を必要とすることだってあるのかもしれない。
人類全体の進化というか、成長というか、そういうもののために誰かの死が必要となるケースだってあるのかもしれない。
そういう気がしているんだ。

俺が目的を果たそうとするのを命がけで邪魔しようとする人間がいるなら、俺はきっと彼らを殺さねばならないだろう。
さらに、俺がその目標にたどり着くために、周辺の関係ない人たちをも巻き込んでしまうかもしれない。
そして逆に、俺をそこにたどり着かせまいとする者たちに巻き込まれてしまうかもしれない。

それを必要悪というつもりはない。
俺は人殺しでいい。
あんなに憎んでいた、人殺しになってしまってもかまわない。
ただ、十年、百年、千年後のことを考えるにつけ、今俺がやらないと人類にもうチャンスはないような気がするのだ。
だから、俺は行かねばならない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

きっかけはあの忍者だった。
覚えてるか?
俺が捕虜として収容されていたあの薄汚い要塞に忍び込んで、俺を助けようとしてくれたあの女だ。
彼女が、また現れたのだ。
いや、生きているはずはなかった。
彼女はあの時俺の目の前で確かに息絶えた。
でも、再び現れた彼女はピンピンしていた。
まるであの時、何も起こらなかったと言わんばかりに。

ある日の真夜中、誰かが眠っている俺を揺り起こした。
俺は研究員の誰かかと思って、もう少し寝かせてくれと、むにゃむにゃ言いながら顔を上げた。
しかし、そこにあった見覚えのある顔が目に飛び込んできた刹那、俺は反射的にベッドから反対に転がり落ちてワンドをひっつかんだ。
それはまさに恐怖だった。
そして悪夢だった。
俺はまだよく動いていない頭で、嫌な思い出がいっぱい詰まった収容所での拷問を浮かべていた。
その悪夢を振り払おうと、多分躍起になって杖を振り回していたのだろう、そんな俺の心を読んだのか、彼女は薄笑いを浮かべながら
「今の君にそれが必要なのかね?」
と聞き覚えのある声で言った。

そこでふと我に返り、改めて俺は彼女を見た。
今回の彼女は前回とは打って変わって、全身真っ白な装束を身にまとっていた。
白一色のこの研究所ではきっと、黒ずくめよりも、今の格好のほうが目立たずに行動できるんだろう。
俺は杖をベッドサイドに戻し、
「久しぶり・・・というより、生きていたのか君は・・・」
とかすれた声をようやく搾り出した。
「いや、残念ながら、私は君とは初対面なのだ。」
「覚えていない・・・ということか?」
マスクを外した彼女は、皮肉交じりの薄笑いを浮かべたまま眉根を寄せて、少し困った顔をした。
「君の知ってる彼女は、私のクローンなのだ。」
「クローン・・・?」
意外な返答に俺は鸚鵡返しに言葉を発しつつ、情報を整理しようと努める。
「つまり、君がオリジナルなのか?」
「ここは、軍の特殊部隊養成施設なのだ。」
と彼女はまたもや俺を無視するかのような内容で続けた。
「君が私のクローンに会った事は聞いている。だから私が来たのだ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・よく分からない。」
俺は情けない声を出して頭を掻いた。
「そうだな・・・一緒に来てもらうのが一番早いんだが。」
「ど、どこへ?」
「お前は私たちの王になるのだ。」

いやもうホント、彼女の言うことは支離滅裂でさっぱり分からないことばかりだった。
ただ、彼女に連れられてそこへたどり着いたとき、すべての意味がはっきり分かったんだけど。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ああ、時間が・・・こうやって人の形を取って、ペンを握っていられる時間が限られているのが、本当に悔やまれる。
後何回手紙が書けるだろう。
もしまた人の姿に戻れるなら、そのときに続きを書く。
この手紙が無事お前に届くことを祈ってる。

早・・・

「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)