見出し画像

パンを乗せて列車は走る

岩手県では初めて

釜石にはローカル線でパンを運んでいるツワモノのパン屋がある。
小島製菓。
ここが運営しているKojima Cafeは、
釜石の大人気カフェのひとつでもある。

ルーティンである新聞読みの時間に岩手日報を読んでいたら、
「販路拡大へ在来線活用 釜石→盛岡 焼きたてパン販売」
という記事が目に止まった。
小島製菓が、この記事の主役だった。

小島製菓の社長の菊地広隆さんは、
アイディアとエネルギーが身体から漏れ出しているような人で、
フルーツ大福など目新しい商品に次々とチャレンジしては、
スーパーの催事に、広場やスタジアムでのイベントに出店し、
スタッフといっしょに元気いっぱい売りまくっている。

記事を読んで「また菊地さんかあ笑笑」と笑った。

銀行とJRとパン屋さん

ローカル線でパンを運ぶプロジェクトは、
岩手銀行の支店長と、JR釜石駅の駅長とのタッグで実現した。

支店長のイノマタさんは、支店の近くにある小島製菓のオフィスにちょくちょく顔を出してくれていた。
「あんまりバンカーらしくない人で」(菊地広隆さん)
週に1回はふらっと訪れて、雑談をして帰っていく。

釜石駅長のヨシダさんとは、
新作のパンが出来上がると試食してもらったり、
仲良くしてもらっていた。

小島製菓は、盛岡にもKojima Cafeを出店している。
だけど、商品は釜石の工場でつくったものを、盛岡まで運んでいる。
盛岡に工場をつくったほうが、焼きたてのパンを提供できる。
だけど菊地さんは、
「釜石でつくっている、ってことを大切にしたいんです」

週に4回、クルマで運んでいたが、
岩手銀行のイノマタさんと話しているなかで、
「JRで運んだらどうか」
ということになった。
さっそく釜石駅のヨシダさんに企画を持ちかけ、
ヨシダさんは、
「よし!わかった!」
という返事でJR内での調整に入った。

実現まで半年以上の時間はかかった。
その間、イノマタさんもヨシダさんも別の職場へ異動した。
けれども、このプロジェクトに関わり続け、
菊地さんの背中を押してくれていた。

パンを乗せて列車は走る

11月7日、11時28分発の快速はまゆり4号は、
Kojima Cafeの焼きたてパン200個を乗せて、
13時43分に盛岡駅に着いた。
パンはJR釜石駅のスタッフが車両に載せ、車掌室に入れて安全を確保し、
JR盛岡駅のスタッフが車両から運び出して、駅ビルにあるKojima Cafeまで納品してくれる。

これまでは、前日に焼いたパンを、
小島製菓の社員が釜石から盛岡までクルマで運んでいたが、
JRでの運搬方式だと、小島製菓の人的なコストはゼロになる。
「コスト的にはJR使ったほうが安いです。
けど、クルマに比べて大量に運べるかというと、
いまのところ量的には列車で運ぶほうが量が少ない。
けど、焼きたての商品が届くとかを考えると、
JRの方がいい。
両方とも一長一短ですけれども、使い方次第だと思うんです」

菊地さんはJRを使って運ぶことのメリットとして、
①販売の裾野が広がる
②実績を積めば、ほかの業者ものってくる

と考えている。

確かに、いまはまだ少量だけれども、列車にはスペースがたくさんある。
釜石線は赤字路線で、朝夕の高校生の登下校以外、
ほぼ空気を運んでいるようなものだ。
客車に貨物を載せるのは、新幹線ではすでに実装済みだ。

岩手日報の記事でも、JR盛岡支社は路線の活性化につなげたいらしい。

「釜石でつくっている、っていうことにこだわりたいんです」
釜石にとっても、それはありがたいことだし、誇らしいことだ。
釜石市も市民も模索している、ローカル・アイデンティティでもある。

さらに菊地さんは、別の野望を持っているようだった……。